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【PT国試対策】フローチャートで学ぶ研究デザイン

重要性

臨床研究の重要性

科学的研究は、我々の日常生活において非常に重要な役割を果たしています。それは新しい技術の開発から、健康に関する知識の拡充、さらには社会政策の策定に至るまで多岐にわたります。しかし、科学的研究の方法は一見複雑に見えることがあり、それぞれの方法がどのように異なり、またどのように関連しているのかを理解するのは難しいかもしれません。今回は、科学的研究の主要な方法をフローチャートを用いて視覚的に理解することで、この複雑さを解き明かします。

国試における重要性

理学療法士国家試験では、研究デザインに関する問題が統計手法と合わせて平均で2問出題されます。年度によっては、統計手法の問題だけが2問出題されることもありますが、研究デザインに関する問題は過去10年間で6問出題されており、無視できない出題率となっています。聞きなれない用語が多く、勉強するのが難しい範囲となりがちですが、出題率が高いことに対して、覚えるべき内容は少なく、確実に得点できる1点となっています。

区分

観察研究と介入研究: 基本的な区分

科学的研究の方法は大きく分けて観察研究と介入研究の2つに分類されます。観察研究は自然の条件下で変数間の関係を調査するのに焦点を合わせている一方、介入研究は特定の介入がアウトカムにどのような影響を与えるかを調査することに焦点を合わせています。

簡単に言うと、観察研究とは「何も変えずにただ観察して、2つ以上の数字の関係性を調べる」、介入研究とは「何かを変えて、結果にどう影響が出るかを調べる」ということです。

階層表

上位にくるほどエビデンスレベルが高く、臨床指標とすべきものになります。しかし、下位のものが使えないというわけではありません。症例報告のようなエビデンスレベルの低いクリニカルクエスチョンから、ランダム化比較試験をするためのアイデアが生まれるような可能性があったり、レアケースだと適応できる高エビデンスレベルの研究がないこともあったりするからです。

研究方法のフローチャート

以下のフローチャートは、これらの研究方法の分類と関連を視覚的に示しています。この通りに覚える必要はないので、イメージだけしましょう。


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では1つずつ説明していきましょう

観察研究

横断研究

ある時点で特定の集団を調査し、変数間の関係を調べます。

例)健康診断の時に運動する習慣があるかを調査し、運動習慣の有無と肥満度に関係があるかを調べる

縦断研究

時間の経過とともに同じ集団を繰り返し調査し、変数の変化を追跡します。
つまり、過去、現在、未来という時間経過とともに調べたいものの数値が変化するかを観察する方法です。

縦断研究はケースコントロール研究とコホート研究に分かれる

縦断研究は時間経過があると先ほど話しました。現在を基準に過去を観察することを後向き、未来を観察することを前向きという表現を使います。
観察研究の中でも後向きのものをケースコントロール研究といい、前向きのものをコホート研究とすることが多いです。また、ケースシリーズ研究というものもありますが、見る機会はほとんどないでしょう。

ケースコントロール研究 (Case-Control Studies)、症例対照研究

特徴:

  • ケースコントロール研究は、病気や状態を持つ症例群(ケース)と持たない対照群(コントロール)を比較することで、リスク要因や原因を特定するために設計されています。

  • このタイプの研究は通常、レトロスペクティブ(後向き)であり、既に発生したアウトカム(結果)に対するリスク要因(原因)を調査します。

  • 例)肺がん患者と非肺がん患者を比較し、喫煙、アルコール摂取、アスベスト露曝などのリスク要因を調査する。

コホート研究 (Cohort Studies):

特徴:

  • コホート研究は、特定の露出やリスク要因を持つ集団と持たない集団を比較し、時間の経過とともにアウトカム(例: 病気の発生)を調査します。

  • このタイプの研究は通常、基本的にプロスペクティブ(前向き)であり、時間の経過とともに露出とアウトカムの関係を追跡します。

  • 後向きに追跡して調査することも可能で、その場合「後向きコホート」と言われることが多い

  • 例)喫煙している人々と、喫煙していない人々の間で、時間の経過とともに肺がんの発生率を比較する。

ケースコントロール研究とコホート研究の違い

  1. 時点

    • ケースコントロール研究は通常、後向きであり、過去のデータを分析します。一方、コホート研究は前向きまたは後向きであり、時間の経過とともにデータを収集・分析します。

  2. 選択基準

    • ケースコントロール研究では、病気の有無に基づいて個人を選択します。コホート研究では、露出(原因)の有無に基づいて集団を選択します。

  3. 目的

    • ケースコントロール研究は、病気や状態のリスク要因を特定することを目的としています。コホート研究は、露出(原因)とアウトカム(結果)の関係を調査することを目的としています。

  4. 時間とリソース

    • コホート研究は通常、時間とリソースが多く必要とされる一方で、ケースコントロール研究は比較的低コストで短期間に実施することが可能です。

  5. 信頼性

    • 基本的に前向きの研究のほうが、後向きの研究よりも信頼性が高いとされています。その要因としては、後向きの研究はバイアス(歪み)が入りやすいことが関係します。前向きの研究はある程度バイアスが入らないようにデータを収集できます。対して、後向きの研究は過去のデータを収集するため、本人が嘘をつくつもりはなくても記憶違いなどから数値にぶれが出ることが考えられます。

    • 例)肺がん発症患者に対して、いつから一日何本ぐらい吸っているか?と質問したとして、正確に答えられる人はほとんどいないでしょう。

ケースシリーズ研究

ケースシリーズ研究は、特定の病気や状態、治療の影響、または他の医学的・臨床的関心事項を持つ一連の個別のケースを調査し、その特性、結果、および他の関連変数を記述します。

ケースシリーズ研究の特徴は以下の通りです:

  1. 記述的な性質: ケースシリーズ研究は、基本的に記述的であり、参加者の特定の特性や結果を記述し、解釈します。

  2. 比較群の欠如: 通常、ケースシリーズ研究は比較群を持たず、それゆえに、ケース間の比較や因果関係の推定は困難です。

  3. 個々のケースの詳細: ケースシリーズ研究は個々のケースの詳細な情報を提供し、それぞれのケースの臨床的経過や結果を記述します。

  4. 初期の探索的研究: ケースシリーズ研究は、新しい病気、珍しい発表、または新しい治療法の効果を初期に調査するのに役立つことがあります。

ケースシリーズ研究は、特定の状況や条件を理解する初期段階で有用であり、研究者が新しい仮説を生成し、さらなる研究を計画するための基盤を提供することがあります。しかし、エビデンスの階層においては、ケースシリーズ研究は通常、比較的低いエビデンスレベルを提供し、因果関係の推定には適していません。

介入研究

ランダム化比較試験 (Randomized Controlled Trials, RCTs)

特徴

  • RCTは、参加者をランダムに異なるグループ(通常は実験グループとコントロールグループ)に割り付けることにより、介入の効果を評価します。

  • RCTは、偏りのリスクを最小限に抑えることができるため、エビデンスの階層において最も信頼性が高い研究デザインとされています。

  • 通常、RCTはコンシールメント(ランダム割り付けを利害関係のない第三者に依頼すること)やブラインディング(対象者の割付がわからないようにすること。対象者、介入者、評価者、解析者ですべての人が割付がわからないようにしていたら四重盲検、以下三重、二重、一重)することで、データ操作を防ぎ、質を高める。

  • 例)新しい抗がん剤の効果を評価するために、がん患者をランダムに2つのグループ(新しい抗がん剤を受けるグループと標準治療を受けるグループ)に分け、治療の効果を比較する。

準ランダム化比較試験 (Quasi-Randomized Controlled Trials, qRCTs)

特徴:

  • qRCTは、完全にランダムではない方法(例: 日付や生年月日などの変数に基づく)で参加者をグループに割り付けることにより、介入の効果を評価します。

  • qRCTは、ランダム化が不完全であるため、RCTほどの信頼性は提供しませんが、実際の臨床環境での介入の効果を評価するのに役立ちます。

例:

  • 新しい肺リハビリテーションプログラムの効果を評価するために、患者を奇数と偶数の生年月日に基づいて2つのグループ(新しいリハビリテーションプログラムを受けるグループと通常のケアを受けるグループ)に分け、プログラムの効果を比較する。

違い

  1. ランダム化の完全性:

    • RCTは完全なランダム化を行い、qRCTは準ランダム化(完全にランダムではない方法でのグループ分け)を行います。

  2. バイアスのリスク:

    • RCTはランダム化により選択バイアスのリスクを最小限に抑えますが、qRCTは準ランダム化によりバイアスのリスクが高まる可能性があります。

  3. 信頼性とエビデンスのレベル:

    • RCTは信頼性が高く、エビデンスのレベルも高いとされています。一方、qRCTはバイアスのリスクが高いため、エビデンスのレベルはRCTよりも低いとされています。

  4. 実施の容易性:

    • qRCTは、実際の臨床環境やリソースに制約がある場合に、RCTよりも実施しやすい場合があります。

ランダム化の完全性とバイアスのリスクの違いにより、RCTとqRCTはエビデンスのレベルと信頼性において異なります。

小規模研究

シングルケースデザイン

シングルケースデザイン(Single-Case Design, SCD)は主に行動科学や教育、臨床心理学の分野で発達してきた研究デザインであり、個人や小規模なグループを対象に、特定の介入の効果を評価することを目的としています。

  • 特徴:

  1. 個別の評価: シングルケースデザインは個人や小規模なグループのパフォーマンスを評価し、介入の効果を測定することに焦点を当てています。

  2. 繰り返し測定: このデザインでは、介入前、介入中、および介入後に繰り返しデータを収集し、介入の効果を評価します。

  3. ベースラインの確立: シングルケースデザインでは、介入前のベースラインデータを収集し、介入の効果を評価する基準として使用します。

  4. 視覚的分析: シングルケースデザインでは、データを視覚的に表示し、介入の効果を分析します。これには、グラフやチャートを使用することが含まれます。

  5. 実験的制御: シングルケースデザインは実験的な制御を提供し、介入の効果を明確に評価することができます。

例:

  • ABデザイン: シンプルなシングルケースデザインで、ベースライン期間(A)と介入期間(B)の2つのフェーズがあります。たとえば、子供の特定の行動(例: 警告を受けた後のタスク完了)を改善するための行動介入の効果を評価することができます。

  • ABABデザイン (またはリバーサルデザイン): これは、ベースライン期間(A)と介入期間(B)を交互に繰り返すデザインです。例として、言語療法の影響を評価するために、発話障害を持つ個人に対して用いることができます。最初のベースライン期間(A1)の後に最初の介入期間(B1)が行われ、その後再びベースライン期間(A2)と介入期間(B2)が行われます。

  • 多要素デザイン: このデザインは、複数の条件や介入を評価するために使用されます。例えば、自閉症スペクトラム障害を持つ子供に対する異なる教育介入の効果を比較することができます。

これらのデザインは、特定の介入が個人や小規模なグループにどのような影響を与えるかを理解するのに役立ち、実際の臨床や教育の状況での介入の効果を評価するのに非常に有用です。

シングルケーススタディ

シングルケーススタディ(Single Case Study)は、特定の個人、組織、イベント、またはコミュニティを深く掘り下げて調査する質的研究アプローチです。症例報告が身近な例でしょう。

特徴:

  1. 深度調査: シングルケーススタディは、特定のケースに焦点を当てて深く掘り下げて調査し、その文脈や特定の状況を理解しようとします。

  2. 質的データ収集: インタビュー、観察、文書分析などの質的データ収集方法を使用して、ケースの背景や特徴を詳細に調査します。

  3. 文脈依存性: ケースの特定の文脈や環境を理解し、その影響を評価することが重要です。

  4. 理論生成: シングルケーススタディは、新しい理論やフレームワークを生成し、既存の理論をテストするのに有用です。

  5. 詳細な報告: ケースの詳細な説明と分析を提供し、その結果と意義を報告します。

例:

  1. 個人のケーススタディ: 例えば、特定の心理療法が重度の不安障害を持つ個人にどのように影響するかを調査するケーススタディ。このケーススタディは、治療のプロセスと結果を詳細に調査し、その効果を理解します。

  2. 組織のケーススタディ: ある企業が組織変革を実施した際の影響を調査するケーススタディ。このケーススタディは、変革のプロセス、実施された戦略、および組織のパフォーマンスに対する影響を詳細に調査します。

  3. イベントのケーススタディ: 特定のイベントや危機(例: 自然災害や金融危機)がコミュニティや国に与えた影響を調査するケーススタディ。

これらの例は、シングルケーススタディがいかに特定のケースを深く掘り下げ、その文脈と動態を理解するために質的データ収集と分析を使用するかを示しています。また、シングルケーススタディが、特定の現象や状況を理解し、それに対する新しい洞察や理論を生成するのに有用であることも示しています。

エビデンスレベル最上位

システマティックレビュー

システマティックレビューは、特定の研究問題に関連する全ての利用可能なエビデンスを網羅的かつ組織的に探し、評価し、合成するプロセスを指します。これは、特定のテーマまたは質問に対する既存の研究の全体像を明らかにし、それらの研究の信頼性と有用性を評価するために行われます。以下は、システマティックレビューの主要な特徴と手順です:

  1. 明確な研究問題:

    • システマティックレビューは明確で具体的な研究問題または目的に基づいて行われます。

  2. プロトコルの作成:

    • レビューの方法論、選定基準、データ抽出、品質評価の方法などを事前に明確に定義するプロトコルが作成されます。

  3. 包括的な検索:

    • 複数のデータベースやソースを利用して、テーマに関連する全ての公開された研究を網羅的に検索します。

  4. 選定:

    • 選定基準に従って研究を選び、関連する研究を含め、不関連な研究を除外します。

  5. データ抽出と品質評価:

    • 各研究から必要なデータを抽出し、研究の品質と偏りのリスクを評価します。

  6. データ合成:

    • 関連する研究の結果を合成し、全体的な結論を導き出します。これにはメタアナリシス(統計的合成)が含まれることがあります。

  7. 結果の解釈と推薦:

    • システマティックレビューの結果を解釈し、研究の限界を考慮しながら推薦を提供します。

システマティックレビューは、バイアスのリスクを最小限に抑え、透明性と再現可能性を確保することを目的としており、エビデンスベースの意思決定において重要な役割を果たします。

メタアナリシス

メタアナリシスは、異なる研究から得られたデータを統計的に合成する手法です。これにより、個々の研究の結果を集約し、全体的な効果の推定や研究間の異質性の評価を行います。メタアナリシスはしばしばシステマティックレビューの一部として実施され、特定の研究問題に関するより強力な結論を導くために利用されます。以下は、メタアナリシスの主要な特徴と手順です。

  1. 明確な研究問題とプロトコル:

    • メタアナリシスは、明確な研究問題や仮説に基づいて行われ、事前に定義されたプロトコルに従います。

  2. 広範な文献検索:

    • 関連する全ての研究を特定し、選定するために広範な文献検索が行われます。

  3. データ抽出:

    • 選定された研究から、関連するデータを抽出します。これには、効果の推定値、標準誤差、信頼区間などが含まれます。

  4. 品質評価:

    • 各研究の品質とバイアスのリスクを評価します。

  5. 統計的合成:

    • 異なる研究の結果を統計的に合成し、全体的な効果の推定値を計算します。これには、固定効果モデルやランダム効果モデルを使用することがあります。

  6. 異質性の評価:

    • 研究間の異質性を評価し、可能な場合はその原因を特定します。

  7. 結果の解釈と報告:

    • 結果を解釈し、メタアナリシスの限界、結論、そして推奨事項を明確に報告します。

メタアナリシスは、多くの研究の結果を一つの統一された解析に統合することで、特定の介入や治療の効果に関する信頼性の高い結論を導くことを目的としています。また、異なる研究の結果の一貫性と、研究間の異質性の程度を評価することで、研究の信頼性と有効性をさらに理解することができます。


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