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ファンノベル・アシアン戦記#6

始めに・ご注意

※この物語は海神蒼月の空想・妄想の産物です。登場人物に実在のライバーさんのお名前が登場しますがご本人とは直接関係ありませんので、この作品に関するお問い合わせ等はご迷惑になるためお控え下さい。

聖ファーリア大陸略図

#6:ブルームーンと蒼い月

商業都市・フェティクス、流星亭の一室。
ひつじ娘、雪乃メノウは朝日に頬を温められて目を覚ました。
ベッドに横たえた上半身を垂直にして、寝ぼけまなこを こしこし 擦ると拳を天井に向けてぐぐぐっと。
「ん~~」
からだ伸びーっと、それから脱力。
パチパチと瞬きをするとなんとなく合わなかった視界のぼやけがきちんと合う。
「んーー?」
こうして見ると結構広い部屋だ。
ぐるりと見回す。
「…ふぇてぃくす」
誰にともなくつぶやく。
そこでふと、アシアンの姿がないことに気がつく。
…昨日はアシアンに襟首持たれて、半ば放り投げられるようにこのベッドに寝かされたんだっけ。
きっとアシアンは、あんな憎まれ口も叩くし失礼なときもあるけど私に恩義を感じてて。
床で眠ったに違いない。
毛布も被らず、座ったままで。

多分眠りは浅かったに違いない。
だから、日の光を受けてすぐに目を覚ましたのだろう。
自分は…とてもよく眠れた。
まだなんとなく ぼうっとするけど、身体の疲れはほとんど感じない。
ああ、そうか。
食事を摂りに出たのだろうか。
それなら起こして声を掛けてくれれば良かったのに。

「さ、起きるか!」
朝の陽ほどの清々しさで、雪乃メノウを今日も開店しよう。

暁。
夜の月と星が薄くなり、空が紫に赤くなっていこうかという頃。
アシアン・ブルームーンの身体は目を覚ました。
メノウはいつもはあんな感じだが、意外と寝相がいいらしい。
そういえば馬車の荷台でもあの狭い中でちゃんと小さく丸まってたっけな。
音を立てないように立ち上がり、そっとベッドに近づく。
コロコロ変わる表情も、今は安らかに。

しばらく、眺める。
父性というか、なんか優しい気持ちをゆっくり噛みしめる。

異世界。
海神蒼月じぶんが想像し、創造した世界。
そして、自分の創造した世界に居るはずのない、仮想バーチャルの存在。
何故、混入したのだろうか?
いや、そもそもにして海神蒼月オレは現実世界でどうなっているのだろうか?
この身体も、本来の自分のものではない。
確かにフォース戦記を書いたときに、この世界に自分の分身として描いた。
だから相性が良かったと言われれば納得はするが、疑問点はそこではない。
海神蒼月じぶんの身体は今どこでどうなっているのだろうか?と言う疑問。

ぼんやりとメノウを眺めていたことに気づき、我に返る。
踵を返し、そっと部屋の扉を開いた。
廊下は人の気配が無かった。
俺は誰ともすれ違うことも無く、正面ロビーを通り抜けて街へと。
さすがに大都市だけあっていくつかの建物の窓からは明かりが漏れている。その明かりを視界の隅に通らせながら、俺はどこへともなく歩みを進める。
急に訪れる漠然とした、しかし確実に大きな不安。
「!!」
背後に気配を感じて反射的に身を屈め、低く前へ飛ぶ。
それとほぼ同時に頭の上を鋭利な風が通った。
前転1回で立ち上がり、振り返る。
「ふん、かわしたか」
どこか楽しそうな、男の声。
細身ではあるが身体は引き締まり、強者のオーラを放つ男。
身なりは綺麗で位の高い人物。
「今のは完全に殺す気でしたよ?」
男の後ろから、フルートのような美しい声がする。
俺には──海神蒼月にもアシアン・ブルームーンにも──男にも、その「フルートのような声」にも心当たりがあった。

街の外れ。
大きな岩に3人は腰を掛ける。
「何故、こんなところに?」
俺は2人に問う。
「知れたことだ、アシアンがいるなんて戯れ言を抜かす奴がいたのでな、この目で確かめに来たんだ」
男…いや、今や一国の王になっているフォース・ランデルティナ・トラップがにやりと笑って答えた。
女性の方はロザリー・ルナ・ファースト。
元はバラクス・シダハーヌで神官をしていていた。
そして2人とも──
「第二次神聖大戦の英雄様が直々に、か」
海神蒼月オレは空を見上げる。
「ああ、そうだ」
なんでコイツフォースはこんなにも楽しげなんだ?
まぁ、それはいい。
それにしても やっぱりフォースから見て、俺はアシアン・ブルームーンなんだろうか。
「あの、アシアン?」
ロザリーがこちらを見る。
「ん?」
俺もつられてロザリーを見遣る。
第2次神聖大戦はもう伝説になるくらい昔のハズなのに、どうしてこんなにも美しいままなのだろうか?
…それはフォースも、そしてこのアシアンの身体も同様だ。
それになんの疑問も持っていないように見える。
俺には事情がわからない。
世界の創造主海神蒼月はこんなところまで設定なんかしていないのだから。
「貴方は、誰?」
ロザリーは、その疑問を口にした。

「…バレてたんだな」
俺は両手を挙げて降参のポーズ。
「フォースは俺をってるんじゃないのか?」
俺が問うとフォースは「ふっ」と笑う。
「ああ、一度だけ夢の中で会った。そうだろ?」
俺はその言葉に頷く。
「どういうことですか?」
今度はロザリーが小首を傾げる。
「今、アシアンの中に入っている俺はこの世界を創った者。海神蒼月だ」
ロザリーは何故か納得顔。
フォースもうむうむ頷いている。
「なるほど、得心しました」
などとロザリーさんは手を胸に当てて目を閉じ頷く始末。
「何故バレた?」
俺は素朴な疑問を口にした。
「俺がどれだけの時間アシアンとともに居たと思う? 口調も雰囲気もまるでアシアンらしくは無かったぞ」
フォースはそう言いながらゲラゲラ笑いやがった。
コイツ、王様やってても根っこは変わらねぇな。
「いつ俺が海神蒼月だと気付いた?」
中身がアシアンでないことは会ってすぐに気がついたから襲ったのだろう。
中身が不逞の輩なら切り伏せて滅してやろう、と。
「話し口調だ。その語り口を聞いて、あの夢を鮮明に思い返したのだ」
フォースはマジ顔で答えた。
「…だから会っていきなり襲ったのか。マジで死ぬかと思ったぞ」
事実、瞬時に気がつかずにあのまま居たら上半身と下半身が離ればなれのお別れをしていただろう。
「あれしき躱せぬ奴にアシアンは名乗らせぬ」
フォースはにやりと笑う。
ああ、その笑い方を共に戦ったあの日々でどれほど見たことか。
そしてその後は決まって、アシアンはロクな目に遭わなかったのだ。

「なぜここに居る?」
フォースは空を眺め、問う。
「さてな。元いた世界で寝て起きたらセイファルアの傍で行き倒れてたよ」
俺の言葉にフォースは押し殺した笑い声を上げる。
「…なぁ、フォース? この世界はどうなっているんだ?」
色々言葉を選んだが、結局俺の口からはそんなストレートな疑問の言葉が出た。
「どうなっている、とは?」
さすがのフォースも真意を測りかねているようだ。
まぁ、そりゃそうだろうな。
「俺はフォース達の第2次神聖大戦の様子を、俺の元いた世界で綴った。この世界はそこの時点までは確定していた」
俺はすごくメタな話を始めたが、2人は真剣に耳を傾けてくれた。
「…だが今の世界は俺にもどうなっていくのかが解らないし、なによりこの世界に居るはずのない存在が紛れている」
そう言いながら、俺の頭には雪乃メノウを始めここまでであってきた「元の世界」のバーチャルライバー達を思った。
「「居るはずのない存在?」」
フォースとロザリーの声がハモる。
さすが長年の連れ添い、息が合っているな。
「ああ。俺が創造していない存在が、この世界には存在するんだ」
ここまで言って俺は自分で「なにを言ってるんだろう」と思う。
こんなメタな話を、この世界の住人にして解るはずがないじゃないか。
だが、こうして誰かに打ち明けないときっとこの漠然とした不安は晴れないんだろうと思った。
フォースもロザリーも ふむむと考え込む。
この話を当人なりに理解しようとしてくれているらしい。
俺は2人に「元いた世界には仮想の存在がいて、それらは人々を楽しませていて、自分もそういう存在に救われて生きてきた」こと、「その触れ得ぬバーチャルライバー達がこの世界では生身の存在となって顕現していること」を(ダメ元で)話して聞かせた。
頭を悩ませていた2人だったが、不意にロザリーが顔を上げる。
「私たちの世界とアシア…いえ、蒼月さんの世界が交わっているということなのかしら?」
ロザリーという女性はさとい人だ。
こんな荒唐無稽とも言えるもしも話を、きちんと受け止めて理解してくれたようだ。
「多分、な」
俺はつぶやくように言った。
「じゃあその接点を見つけることから始めないといけないかもな。蒼月が元の世界に戻る方法はそこに切欠キッカケがあるように思う」
フォースも神聖大戦の時は色々不可思議な目に遭ってるからか、理解は早い方のようだ。
「接点なぁ…」
今度は俺が唸る番だった。
この世界と海神蒼月の接点はここが「俺が作った世界」である事だろう。
「そういう神秘の話は『大聖堂』か『監獄島』か『穴蔵』辺りが詳しそうだな」
フォースが言う。
「ちょっと待ってくれ。『大聖堂』はトモケナギノ大聖堂で、『穴蔵』はドングレフェの魔導機関の研究所、そして『監獄島』…ってなんだっけ?」
いやはや、この世界を作ったのって高校生とかその辺の話だからかなり記憶から抜けてしまってるなぁ。
「『監獄島』とはペチェフ湖にあるサベル=シャシムエリクノ魔術院の事です」
ロザリーがフォローをくれる。
ああ、そうだった。
聖󠄀ファーリア大陸の南にあるペチェフ地方にある魔術研究院の総本山か。
ちなみにトモケナギノ大聖堂は聖ファーリア大陸に流布しているムルド教の総本山だ。
確かにその辺ならこんなトンデモ話でも、まともに真面目に研究していそうではある。
「ふむ。まずはその辺を当たってみるか」
俺は腕を組む。
「それがいいかもしれんな。なに、俺たちも困ったら力になるからすぐに連絡を寄越すといい」
フォースは岩から飛び降りて俺に向き直って言う。
「連絡って、どうやってだよ?」
この世界だ、スマホなんて在る訳ないだろ。
「これを使え」
フォースはスマホ大の板状のものを投げて寄越した。
受け取るとそれは本当にスマホのように画面のようなものがある。
「かつてユリスが発明した通信機だ。超小型の魔導機関が組み込まれていてどれだけ離れていてもこの世界に居るなら俺のと通じるようになっている」
そう言ってフォースも同じものをひらひら見せてきた。
…そういえば魔導機関の第一人者のユリス・モンドランドという女性も神聖大戦のパーティーに絡みがあっておよそ中世ファンタジーらしくない機械を生みまくってたっけな。
だが、今自分がこうしてこの世界に居る状況では、あの頃色々無茶した設定が生きてくれている。
あの時の俺、GJ!
「あとな、フォース。早速困っているんだが…」
俺は申し訳ないと思いつつ申し出る。
「ん?なんだ?なんでも言ってみろ」
立ちはだかるフォース、腕なんか組んじゃって胸まで張ってドヤ顔。
「あのな…切実な話、路銀がないんだ。こっちに来たときには無一文で持ってたのはこの ふた振りの剣だけだったんだよ」
俺がそう言うと、フォースはきょとんとした顔をした。
「あら、それは大変だったわね」
あらあらまぁまぁ、と言わん勢いでロザリーは胸の前で手を合わせる。
「む…路銀か」
フォースが複雑そうな表情をする。
「おい王様?どうかしたのか?」
わざとらしくそう言ってやる。
さっきゲラゲラ笑った意趣返しだ、こんにゃろめ。
「む。路銀は全てロザリーが管理していてな。実は俺は一文無しなんだ」
フォースが気まずそうにそう言う。
おい、聖フォース大陸を統べる王様だろ?
「ふふふ。フォースにお金なんて持たせたらなにに使うか解ったものではありませんものね」
と、ロザリーは端整な顔立ちで美しく黒い笑みを浮かべた。
…こりゃ完全にプライベートは尻に敷かれてるな、この王様。
「蒼月さん、あまり多くはありませんがこれをお持ちください」
ロザリーは腰に付けたポーチから小ぶりな巾着袋を取り出して渡してくれた。
俺の手に乗ったときにジャラと金属の硬貨の音がしたので路銀を恵んでくれたのだろう。
「恩に着る、ありがとう」
俺は恭しく礼をする。
無くさないように懐にしまう。
「さて、アシアンの正体もわかったことだし そろそろ戻らないとミュランの連中が五月蠅い」
フォースがそう言いながら後頭部をポリポリやるとロザリーがクスクス笑う。
ミュランというと確か聖フォース王国の王室警護隊じゃなかったか。
まぁ、フォースのことだからちょいちょい抜け出しては物見遊山の旅に出てそうなもんだが。
「…ったく、国は太平なんだからちょっとくらい良いだろうが。カレンの頃から監視が厳しいぞ…ブツブツ」
フォースが悪態をついているのを俺とロザリーが生温い目で見遣る。
「では、参りましょうか。蒼月さんに、神の加護があらんことを」
ロザリーは胸の前で手を組んで祈りを捧げてくれる。
「ああ、しばしの別れだ。またな」
フォースもそう言い残して颯爽と踵を返した。
「ああ、また」
俺もそう言って2人を見送るのだった。


あとがき

第6話にして主人公、アシアンと海神蒼月の話を書きました。
この後、話を展開させる為にはこの話は語っておく方が良いと思い、今回はバーチャルライバーよりも この世界、そして主人公達(1人で2人)、そしてこの世界を語るに外せない第2次神聖大戦の英雄の筆頭であるフォースとロザリーの側に話の重心を振りました。

さて、メノウとの旅はどうやらまだ続きそうです。
そしてこれからどのライバーさんをこの話に巻き込もうかと書きながらワクワクしています。
なかなか仕事や配信で執筆は遅々と進んでいませんが、忘れてないし続けていきます。
どんな結末になろうとも、最後まで書き切りたいです。
それが例えライフワークになっても。
それではまた次回、第7話でお会いしましょう。

2023.09.21 海神蒼月

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