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経済

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日本が貧乏国に転落したのは日本人がエコノミック・アニマルだから

日本が貧乏になっているという言説が増えている。 実のところ、1人当たり実質GDP成長率は他の主要先進国と比べて低くなかったのだが、賃金が上がらない+円安のために、国民の購買力が相対的に著しく低下している。プラザ合意後によく聞かれるようになった「内外価格差」という言葉も、いつの間にか「高い日本」から「安い日本」の意味に逆転している。 その急速な貧乏化の原因だが、日本を敗戦からわずか23年後(1968年)に世界第二位の経済大国へと成長させ、1979年にはアメリカ人に"Japa

デジタル小作人と再版農奴制

先日の"つぶやき"に関してもう少し詳しく書く。 「小作人」は言い得て妙だが、これは再版農奴制を想起させる。 東欧が後進的になってしまったのは、世界システムの分業体制に組み込まれて「周辺」に位置付けられてしまったからだが、 日本がデジタル小作人(⇔格安見世物小屋)になったことにも同様のメカニズムが働いているのではないかと考えられる。 食料・資源・エネルギーを輸入に頼る日本が経済的に豊かな「中核」であり続けるためには技術立国の路線しかないが、「もはや国境や国籍にこだわる時

中野の財務省批判の混乱

中野剛志が恒例の財務省批判をしているが、怒りに任せて書き殴ったようで論理が詰められておらず、説得力を欠いている。 これの問題は、租税収入(ここでは歳入の合計と等しいとする)や財政赤字、インフレ率との関係を無視していることである。 名目GDPが100の二つの国AとBがあり、Aは高インフレで租税が自然増収中、Bは名目・実質ゼロ成長で税収も停滞中とする。翌年度にAは自然増収分を支出に充て、Bは景気対策として減税する。 A:税収50・支出50(均衡財政)→税収60・支出60(均

日本とロシアの経済構造改革の類似と相違

これ👇の前半は大筋では当たっている。 👇も同様の主張。 「植民地化」される前の日本型経済システムではメインバンクの株式保有が重要な構成要素の一つだったが、1990年代後半から、債務超過の危機に陥った銀行や生保に保有株式を売却させる→外人投資家が安値で買うことで株式分布が劇的に変化した。「植民地化」は金融ビッグバン・金融再生の裏面だったと言える。 このプロセスはソ連解体後のロシア連邦によく似ている。 吉川顯麿「市場経済移行と今日のロシア資本主義 ─ 特異な「民営化」とそ

インフレが明るい兆し?

岸田首相はインフレで膨れたものを「明るい兆し」と言っているだけのように見える。それから、値上げが相次いでいるのに「デフレ脱却」と唱えるのはいい加減に止めてもらいたい。 「賃金の上昇や民間投資の大幅な増加」 政府と御用学者がデフレを不況や長期停滞と同義としたために、インフレが好況・成長志向を意味することになってしまった。

国力低下と円安

この人👇は冷静で堅実な分析が持ち味なのだが、この記事は「トンデモ」と言いたいがためのストローマン論法になってしまっている。 「国力」の確立した定義がないのは事実だが、一般的にこのような文脈では「経済力」「財・サービスの量×質の生産力及びその成長力」という意味合いで使われていると思われるので、「経済学を逸脱している」という批判は当たらない。また、これらの論者は為替レートが常に「国力」によって決まっていると主張しているわけでもないので、「意味不明の概念では為替相場は説明できない

円は実質「1ドル=360円」時代に逆戻り

対ドルの円相場は160円に迫る34年ぶりの円安水準だが、実質で見るともっと凄いことになっている。 プラザ合意のあった1985年を基準年とすると、日本の物価(ここではGDPデフレータを用いる)はほぼ同じだが、アメリカの物価は2倍以上になっているので、名目為替レートが同じだと実質為替レートは約半分に減価することになる。 👇のマーカーは名目1ドル=158円だが、実質為替レートは(1985年基準)は約360円で、58年前の1966年の水準に相当する。「昔の1ドル=360円はまだま

円相場の長期チャート

円為替レートの長めのチャートを示す。 ロシアのウクライナ侵攻が「有事の円買い」ではなく円安を引き起こしている。 👆の逆数の1円=○ドルとしたもの。 👆の月次版を1965年から。 同期間の名目実効為替レート (27 economies)。 日本は他国よりもインフレ率が低い状態が続いているので、実質為替レートは名目為替レートよりも円安が進んでいる。先進国通貨対象のnarrow指数では1969年の水準まで減価している。 円安の原因は一言では説明できないが、思い切って単純

小林慶一郎『日本の経済政策』・・・条件付で★★★★☆

財政再建派ということでネットの経済論客には評判の悪い小林慶一郎の近著『日本の経済政策』は、小林の分析を「一つの説の紹介」として読むのであれば、1990年以降の日本経済と経済政策を改めて振り返り見る本としては悪くないと言える。 これ👇が小林による総括だが、足りない点が幾つかある。 主な要因を列挙すると、 人口減少と高齢化 クリントン米政権による1993年からの円高誘導 1990年代後半からのICT革命 エレクトロニクス産業における大韓民国・中華民國メーカーの急成長(

キャッシュレス化と政府・日銀の無能さ

こう👇なっているのは政府と日本銀行がアホand/orワルだから。 真の意味でのキャッシュレス化とは、👇の1~3のプロセスを手数料ゼロかニアゼロで電子化することだが、 買い手が自分の預金口座から現金を出金 買い手が売り手に現金を支払って決済完了 売り手が自分の預金口座に現金を入金 現在の日本における◯◯payなどのキャッシュレス決済サービスは似て非なるものなので、5年半前の記事👇にあるような小売店の負担が発生する。 (クレジットカード、ICカード、バーコード・QRコ

日本経済の「意外なポテンシャル」はあったとしても期待できない

この👇記事の元の『一人負けニッポンの勝機』は日本経済の実態を全くつかめていなくて呆れた本だった。 何点かをピックアップする。 先日に記事にしたものと似た見方だが、初めの約10年間はバブル崩壊+超円高+金融危機といったマクロ環境の悪さ、不良債権処理と企業のリストラが一段落してからの約20年間は企業の収益追求がマクロ経済の好循環に逆行する経済構造になったことが主な理由である。 よくある例えだが、金融緩和はアクセルではなく「ブレーキを緩める」といったほうが適切である。なので、

日本経済を相対的に衰退させた「自滅行為」とは

日本経済の相対的衰退について、この👇ようなもっともらしい説明をよく見かけるが、事実とはかなりの相違がある。 このような個人や組織の判断ミス(過去の成功体験に囚われた)に原因があるとする説明が見落としているのは、バブル崩壊から約10年間の日本経済のマクロ環境である。 まず重要なのが、1990~91年のバブル崩壊に続いて、1993年から円高に襲われたことである。日本と同じく、1990年代初頭に不動産バブルが崩壊して不況に陥った北欧諸国では、為替レートの大幅減価→輸出促進によっ

株高が明るさにつながらない日本

株価のバブル期超えについては既に幾つか書いているが、ポイントを二つ挙げると、①株価のバリュエーションが全く違う、②株価形成の最大のファンダメンタルズである利益についての経営者の認識が大きく変化した、ことである。 バブルとは資産価格がファンダメンタルズ(株価の場合は、企業利益のストリームの現在価値合計)から乖離した水準に上昇することだが、日本のバブル期には、予想成長率が潜在成長率からかけ離れた水準に高まった(火が付いた)ところに低金利政策もあって益利回りが急低下した(油が注が

アメリカのGDPは日本の6.5倍

2023年の日本のGDPがドイツに抜かれて世界第4位になったというニュースが話題になったが、1990年代までは日本の約2倍だったアメリカのGDPは6.5倍になっていた。 バブル景気が山を迎えた1991年の1.69倍を基準にすると、1991年→2023年に米/日比は3.86倍になっていた。 これを分解すると、実質GDPが1.75倍(=人口1.32倍×1人当たり実質GDP1.33倍)、実効為替レートが2.20倍だった。 対ドルの実質円為替レートは1980年代前半よりもはるか