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露光装置のステッピングの話

露光装置の肝のひとつ、ステッピングについてのお話です。

露光の教本などには、一番最初に「コンタクト露光」と「縮小投影露光」の説明があるかと思います。ここでのお話は後者です。マスクを透過した光がレンズにより1/4または1/5に縮小され、ウェハに露光されるタイプのものです。その現場寄りなお話し。

ステップ&リピート = ステッパ
ステップ&スキャン = スキャナ、今回は双方に共通で使える考え方です。

※ 上記のASMLさんの動画、正確に言うと露光しているのは右上で動いているステージになります。手前は事前の計測系ステージです。

■ 露光ステッピングは蛇行が基本、だけど

半導体リソグラフィの縮小投影露光は、1ショット(最大サイズ22x22mmまたは26x33mm)ずつ、蛇行の順番で露光する方式が一般的です。この動作機能をステッピングと呼びます。

蛇行ステッピングは効率的であることが1番の理由ですが、ショット毎で露光順番のカスタマイズしたり、一括の設定変更でのX/Yの一方通行や螺旋順での設定も可能です。ごくたまにですがこれら設定が必要になることがあります。

露光ひとつ分の長方形をショットと呼んでます

ニコンでいうところのi線露光機NSR i12以前のウエハステージ駆動は、ボールネジ機構でした。このボールねじはXとYはそれぞれ機械的なクセを持ちます。

たとえば横蛇行の場合、ウェハエッジでのターン時(Yで一段下がる)での不具合、または右方向ステップと左方向ステップでの送りピッチのわずかな違いで非線形な重ね合わせズレが生じるなどがあります。

この「非線形」という点が極めて厄介です。この段々ずれが生じた際、次のレイヤーでの露光はどう重ね合わせればいいでしょう?

理想的には、段々ずれに追随する必要があります。しかし露光プロセスの一般的なアライメント手法として、ウェハ上の数ショットを代表してアライメント計測をする(版画でたとえば角4点だけで合わせて全面を保証する、あの感じ)方式をとるため、段々ずれは残ったまま工程が進行します。これが後になって信頼性、電気特性の不良要因になりうるわけです。

ちなみにこの症状は、ボールねじからリニアタイプになった次世代露光機でかなりの改善を見ました。設備の進化はすごい。

※ 横道に逸れますが、ニコンは2024年に向けてi12の復刻版をリリース予定です。おそらくはボールねじはリニアタイプに変更、あとさすがにブラウン管ということもないと思われます。。

■ のちのち「映えてしまう」ステッピングのくせ

閑話休題。
またレアケースとして、ステップ速度はきっちり出ているが故にレンズ側の露光負荷調整が追いつかず、グラデーション的なデフォーカスが起きることもあります。これは補正機能のトラブルなので修理が第一なものの、応急的に一方通行モードにして負荷の分散したこともありました。

よく新幹線出張をされる方なら見たことあるかもなこのポスター。よく見ると、なんとなく横蛇行っぽい色むらが見えませんか。これはステッピングでの極めて微妙な出来栄えを忠実に描写しているものと思われます。もし意図的に表現されていれば相当な知見者です。

東海道新幹線でおなじみ、中興化成工業さんのポスター

■ おわりに

露光機のステッピングの肝はスピード、水平、そして何といっても重ね合わせ/オーバーレイです。私(@ProbablyClass1)は微細加工そっちのけで、重ね合わせ向上と測定手法のアイデア出しをひたすらやっていた時期もありました。楽しかったですねえ。

ステッピングは、msec単位でz方向/チルト調整、振動減衰計測、環境計測、積算露光量計測、スキャナに至ってはレチクル駆動同期での動作制御、これらを同時にnmオーダーで実現してるのはとてつもない技術なのです。

「彼の両親はクリティカルディメンションとオーバーレイに関心がありません」
by ASMLのYoutube

いや、関心あるやで。
伝われこの気持ち。(何様

おしまい。

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