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出会いを形に。露光機のマッチング

"ミックス アンド マッチ" という言葉があります。ググってみると、ファッションにおいて様々な種類のデザインを組み合わせて着こなすこと、らしいです。

この言葉、ものづくりでは装置性能の組み合わせを指し、特に半導体工場における露光機の組み合わせという特化した意味合いを持ちます。(どうも他の業界ではあまり使われていないっぽい)

このNoteは工場立ち上げ・運営における露光機マッチングの重要性についてのお話です。広告サイトではありません。

■ 露光機のマッチング特性

半導体工場には露光機が数十台あることが通例です。それぞれが単体性能を出すことは必須として、さらに機台間マッチングも重要特性となります。

マッチング特性は大別して
①レンズ光学系
②ステージ駆動系
があります。

露光機を複数駆使して何十何百ものレイヤーを作り込むためには、①②ともに確固とした「基準」、ベースラインを持たなければなりません。

しかし、

①の場合:理想格子に対して取り除けないレンズ収差、縮小投影倍率ずれ、環境に対する補正ばらつき等々が存在します。

②の場合:ステッピング機構ばらつき、制御センサ性能、ウェーハチャック差が存在します。

これら機台差の蓄積がプロセスマージンを削り取ってしまいます。ではどうするか?

■ 露光機の選定と運用

一番シンプルな手段は、可能な限り類似した装置で揃えることです。端的に言えば同メーカー、同プラットフォームの装置に揃えるということです。

そらそうやろと思われるかもしれません。しかし短期・中長期でのコストトレードオフ、または他工場連携(例えばM&A工場とのコンパチ化)をするケースを考えると、一筋縄ではいかない話です。

露光プロセス立ち上げは、

  • まず基準となる露光機の基本的性能出しと再現性評価をし、QC工程標準に従い重点的かつ高頻度の管理を開始します。

そして、

  • 他露光機群に対し、個別性能を担保(基本検収)したのち、基準露光機とのマッチング調整(特別検収)を行い、同じく管理を開始します。

運用フェーズにおいても、 何らかの①レンズ光学系 または ②ステージ駆動系の改修に迫られた場合、基準装置とのマッチング検収を考慮して実施します。

このマッチングにかかる工数は単に装置性能のみに依存されず、精度出しにおける基準の違い(フォーカス精度やステージ平坦性の分解度、スループット計測の基準、使用されるウェーハグレード)などでも変わってきます。

このマッチングのための労力や必要とされる知識・ノウハウを鑑みたとき、同メーカー・同プラットフォームでの合わせ込み作業と運用はまさに「早い、うまい、安い」なわけです。

この露光機間マッチングを表す一つの代表的な指標として、重ね合わせズレ量を定量化した

MMO(Matched machine overlay、またはMachine to machine overlay)

があります。

この指標は数字が独り歩きしがちなのですが、注意が必要なのはあくまで「同プラットフォームの装置同士」が前提の数値だということです。異なるプラットフォームでは個別性能を表す参考値に過ぎません。

しれっと書いてある場合もあるし・・・
「同一機種間の重ね合わせ」の但し書きしている場合もある

■ そして工場は独立国になる

こうなると例えば多少コストメリットある他メーカーや管理履歴不明な中古装置の導入に大きな抵抗が生まれます。 そしてノウハウは一部のプラットフォームに集約され、工場は排他的な進化を遂げます。

時にはリソとそれ以外のプロセス装置も「現場合わせ」的合わせ込みを行い、益々血は濃くなります。

このあたりの背景を把握しておくと、@lithos_graphein 氏のポストにある「中国SMEE社がASMLに匹敵するArF液浸を作るのに10年じゃ足りない」の根拠がわかりやすくなります。

良い装置ができたとしで物理的にも運用的にも基準(=installation base)が確立できなければ実用化実現はできません。

このポストの中にある
「ASMLの中ですらPASプラットフォームは基準としての実績が確立できずNXTプラットフォームに淘汰された。いわんや新興企業の装置をや(意訳)」
とのコメントには説得力があります。

半導体の微細化と性能向上は、リソプロセスのnatural selection(自然淘汰)のもとに成り立っていると言えます。

■ 以下妄想。

露光機は製造業界において最も単価が高い装置と言われます。しかしその要求性能は、微小な個体差が品質に直結するほどシビアな世界です。

最先端企業が大量購入しているニュースばかりにどうしても目が行ってしまいますが、そんな装置は容易に買い替えることなどできるわけもなく、世界各地でそれぞれの個性を発揮しながら24時間365日働いているわけです。

せっかく末永く働くなら、気の合う仲間、気の合うパートナーと… 💛💛

そんなわけで、世界中の露光機の

  • 基本性能(スペック)

  • 実績性能(アピールポイント)

  • トラブル履歴(チャームポイント)

を網羅したマッチングアプリサービスがあったら、半導体業界の全体最適を促してものすごく世の中の役に立つのではないだろうか?

これってビジネスになりませんか?よろしくお願いします。

おしまい

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