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クリス・マック博士について

どの業界にも、指導者やグルと呼ばれる人たちがいて、半導体だとアナロググル(リニアテクノロジー社の創始者たち)が有名ですが、

半導体リソグラフィにも誇るべきグルがいます。クリス・マックという科学者です。いつも以上にマニアックですがとても魅力的なので紹介させてください。

Chris A. Mackは1960年生まれ。高校でテキサスに移住後、Tシャツプリントのビジネスを立ち上げます。シルクスクリーン(孔版)印刷で4色の絵柄をプリントして売るビジネスです。ここですでにリソ職人なのですが本人がそれを自覚するのはまだまだ先のお話。

このビジネスは大学でも細々続けるも学業では天才を発揮、4年の間に4つの学士号(物理学、化学、電気工学、化学工学)を取得、かつ超セキュアな身元調査が必要なアメリカ国家安全保障局(NSA)でインターンシップとして従事します。

博士号まで順風満帆かと思いきや、22歳での結婚をきっかけに退学し、職探しをすることになります。インターンのつてでNSAに申し込みをしたところ、普段なら1年近くかかる身元調査がすでに完了しているため、NSAの新機関であるマイクロエレクトロニクス研究所に就職することができました。ただ受け入れ側も想定外だったため最初は退屈な仕事しか待っていませんでした。

これに同情したのが、エッチングと成膜の研究していた同僚。クリスにプリンタ(ほぼおもちゃ)を託し、テストパターン作製の手伝いを依頼します。これがリソグルとなる第一歩でした。

このときクリスに別の装置をあてがわれていたらムーアの法則(1965年提唱)は余裕でご破算だったのでは・・・というのは私個人の意見。

NSAの所属時代、クリスは半導体産業を大きく動かすソフトを世に出します。それがリソグラフィシミュレータ「PROLITH(プロリス)」です。シミュレータ自体はすでに世の中にあったものの、レジスト溶解モデル(マックモデル)によるアルゴリズムの独自性、かつ無償提供がなされたことでこのソフトは一気に普及します。

1990年にはひとりでFINLE Technologiesを立ち上げPROLIOTHを商用化し、機能は続々と追加されます。世界中のプロセス技術者がこのバージョンアップに必死に追いつこうとしている不思議な様相を呈します。(※これもあくまで私見です)

Ver upの履歴がリソ進展の歴史そのもの。

2000年、FINLE TechnologiesはKLA Tencor(当時)が買収。シミュレータは欠陥検査と極めて相性が良く、PROLITHは現在も進化を続けています。もちろんEUVプロセスになくてはならない存在です。クリスはその後2017年にFRACTILIAという会社を立上げ、現在もCTO、かつ各種学会や共同論文でも活躍中です。

もう一つクリスがグルと呼ばれる所以、それは人材育成を目的とした膨大なリソグラフィ関連のドキュメントの公開です。サイト名はその名もlithoguru。特に1993年から4半期ごとに書き溜めている「Lithography Expert」は、初学者にとっても極めて良質なテキストになっています。自らをGentleman Scientist と呼んでいるのは、私財によって初期科学の切り開いた偉人になぞらえたものと思います。

まあ何といってもこの方、とてもチャーミングです。どのテキストをとってもわかりやすくユーモアがあふれています。ちなみにYouTubeもやってます。リソプロセスの解説動画のすばらしさはもちろんですが・・・私の一押しはこちらです。

現在進行形で業界・学会で愛されまくりのクリス・マック博士についてでした。いかなる技術も人ありき。

おしまい。





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