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私にはわかりません 中②

いや、危なかった

メモしていた順を逆にして紐を回収する帰り道
夕方になると色が判別しにくいことを考えずに思いのほか手こずってしまった
次に行くときは、1時までをタイムリミットにしよう

疲労困憊でアパートにたどり着いたのが9時半…明日が休みで心底良かった
きっと明日は筋肉痛になるだろう

……眠れない

時計を見れば2時だ
うつらうつらはしたのだろうが、眠れない
原因は解っている
休みの日にゆっくり見ようと思っている、あのリュック…
大きなビニール袋に入ったままの存在感が、どんどんと増していき、無視出来なくなっていた

…だめだ、開けてみよう

ほとんど諦めの気持ちで、猛抗議をしている間接を伸ばし冷えた缶コーヒーを取り出す
一気に煽り、廊下に置いたままのビニール袋を掴んだ

リビングに古新聞を敷き、袋を逆さまにしリュックを取り出す
回収した時には気づかなかった僅かなカビ臭さが鼻を突いた
しかし、改めて見てもやはり状態は良い
破損も無くネオングリーンのカラーも失われていない
あそこに打ち捨てられてまだ日は浅いのだろう

手前の小さなポケットのファスナーを開いた
バイ菌が着くと嫌なので軍手をして、中を探る

何かある

引き出すと、それは真っ赤な刺繍入りの御守りだった
だが、不気味なことに真ん中から切り落とされている

どういう状況だ

御守りの断面図を見ると、中心には木っ端が入っていて真っ二つになっている
刃物でストン、と魚の頭よろしく一気に落とされたような有り様だ
木っ端を引き出すと、上半分は「喜来」
下半分は「大神」と書いてある
どこかの神社の御守りらしい

このポケットにはそれ以外何もない
いよいよメインのファスナーを開けた

大きく開くと、男性ものの衣服が入っていた
取り出すと、ネルシャツと短パンだ

…何かある

ネルシャツを取り出すと、胸ポケットに重さを感じた
確かめると、それは白いスマートフォンだった
思わず力が入った
誰のものかはわからないが、もしかしたら…もし中身を見ることができたら
この人が死んでいるかどうかがわかるのじゃないか?

遺体があると期待したあの高揚感が再び帰ってきた
もちろん本物の遺体を見るよりは劣るが、ここにあるものがもしも死を決意した人間の遺留品なら……興味がつきない



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