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食いしん坊が縁をつないだ話

2023年12月、私の地元の本屋さんで、私が作った本の著者のフェアをやってもらえることになった。

これはそこに至るまでのおはなし。

私には、スミちゃんという中学、高校が一緒の友人がいる。
中学生のころは、そんなに親しくなかったのだが、高校でクラスが一緒になると仲良くなって、早弁したり、映画を見に行ったり、卒業旅行でスキーに行ったりした。
大学は違ったけれど、やっぱりスキーに行ったり、スミちゃんがバイトしている飲食店に顔を出したりして、よく遊んだ。

就職すると、そんなに頻繁には会えなくなって、そのうちスミちゃんは結婚し、子どもを産んだ。しばらくして私も結婚して子供を産んだので、何年も会うことがなかった。お互い、共働きで子育てしていると、自分の友達と会うのは常に後回しだ。

子どもに手がかからなくなって、やっと会えるね! と喜んでいたら、コロナだ。またしばらくお預けとなった。そうこうするうち、私は仕事を辞め、ひとり出版社を始めたのだ。友達には年賀状で知らせた。

   ***

さて、私とスミちゃんにはもう一人一緒につるんでいたキョウちゃんという友達がいる。もちろん、キョウちゃんとも全然会えていない。私の年賀状を受け取ったキョウちゃんは、すぐにメールをくれて、会おうよ!と言った。

キョウちゃんはフットワークが軽く、会おうとなったらすぐにお店を探して、予約を取ってくれた。昔から、そういう役目を買って出る、骨身を惜しまない人だった。美味しいお店を見つけるのがうまくて、その日も「前に別の支店に行ったことがあって、おいしかったから」といって、目の前が公園になっているおしゃれなレストランをチョイス。その日はお天気がよかったので、公園でくつろぐ人たちをみながら、昼飲みをした。
お酒が好きなのは三人共通していて、その日もビールやワインを飲んで、近況報告をしたり、家族の愚痴を言ったりして大いに盛り上がった。

その日の最後に、スミちゃんが「二人に食べてもらおうと思ってお土産を持ってきたんだ」と言って、パウンドケーキをひと切れずつくれた。
自分の勤務先の近くに新しくできたパン屋さんのレモンケーキがとてもおいしかったから、どうしても二人に食べて欲しくてという。
お店に電話をかけて取り置きしてもらって、昼休みに取りに行ってくれたんだそう。その心遣いに感激した。スミちゃんは昔からこういうさりげない心遣いのできる人だった。

私自身は気が利かないお尻の重い人間だけれど、素敵な友人に恵まれて、本当に幸せだ。

   ***

さて、前置きが長く長くなったけれど、キョウちゃんがセッティングしてくれた女子会に、スミちゃんが持ってきてくれたレモンケーキを売っていたお店が、マルサン堂というパン屋さんだった。
スミちゃんの勤務先の近くで、私の自宅からは車で20分くらいのところ。ほかにもおいしいパンや焼き菓子があるよ、と言われて、さっそく休日に行ってみた。マンションの1階にあるお店は小さいけれど、いろんなパンがどんどん焼かれて店頭に並ぶ。食パンもお菓子もドーナツもみんなおいしかった。店主と思しき男性は、赤ちゃんをおんぶしてパンを焼いていた。

何度か通っているうちに、お店の入り口付近にいつもフリーペーパーのようなものが置かれていることに気づいた。それは、近所のフリーマーケットのお知らせだったり、新店案内のチラシだったりした。
その中に、本屋BREAD&ROSESさんの開店チラシもあった。町の本屋がどんどんつぶれているこのご時世に、新たに本屋を開店させるという心意気が素晴らしいではないか。
地元つながりで、典々堂の本を置いてもらえないかと図々しくお願いをしたら「何かフェアをやりませんか」というありがたいお申し出をいただいた。

そこからは、あれよあれよと日程が決まり、展示内容を考え、準備をし、無事開催となった。
著者直筆のサイン色紙、詳細な年譜、影響を受けた本の選書など、充実した内容だ。最寄り駅からの常盤平さくら通りも、日本の道100選に入っている散歩にぴったりの道なので、ぜひ足を運んでもらいたい。

   ***

というわけで、今回のフェアは、スミちゃんと私が美味しいものが好きな食いしん坊だったことで開催されたと言っても過言ではない。(笑)


追記
スミちゃんは、律儀にもフェア初日に、お花を持って来てくれた。
「こんなところに本屋ができてたなんて全然知らなかったよ~」
そしてこの日も、別のパン屋のパンとお菓子を差し入れしてくれたのだった。
スミちゃんの美味しいもの探しの旅は終わらない。


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