ストリートファイターシリーズのプロライセンスの在り方を考える

 去る1月22日、株式会社カプコン(以下カプコンと表記)は「ストリートファイター5」(以下スト5と表記)のJeSUプロライセンスについて、スト5のJeSUプロライセンス所持者は6月2日発売予定の次回作である「ストリートファイター6」(以下スト6と表記)においてもライセンスが継承される予定であると発表した。

 プロに類する実力がなく、eスポーツチームを運営しているわけでもない私のような人間があーだこーだ言っても仕方ないと言われればそれまでなのだが、それでは面白くない。
 この発表に感じた違和感と将来的にこうなったらいいなという意見を記すことにする。

1.この発表に対しての率直な感想
 
 まず第一に感じたのが、「まだ発売されていないゲームのプロが80人ぐらい誕生した」という不可思議極まりない事態への疑問だった。というかよく意味わかんないよね。

 この判断に至ったバックボーンはこの後ひも解いていくが、最初に聞いた時の率直な思いは「それはどうなの」だった。
というのもスト5の時のライセンス付与の判断基準がこの瞬間にぐるっと方向転換されたからだ。
 
※ライセンスがそもそも必要かどうかの議論は今回行いません。すでに存在するものについての発行基準の話です。

 ではスト5のライセンス付与ケースをおさらいしよう。
 取得に際しては3つのケースがあった。

・ライセンスの最初の発行時のケース
 JeSUのライセンス制度発足に合わせて、発足以前に開催されていたカプコンプロツアーランキング100位以内に入っていた日本人プレイヤー21名に自動的に交付された。

・オープン大会での成績優秀者への交付のケース
 カプコンが認定したプロアマ混合で開催されるオープン大会(カプコンプロツアーのプレミア大会、ワールドウォーリア―やその他カプコンが認定した大会)での成績優秀者へ発行される。

・トライアウト大会でのケース
 まだプロライセンスを所持していないプレイヤーのみが参加できるトライアウト大会での1位と2位になった選手に発行される。(アマのみの大会で優勝ないし準優勝したらプロに準ずる実力があると認定されるのもよく考えると「ん?」と思う部分も…)

 途中で紆余曲折他のケースなどもあったが、最終的にこの3つパターンが存在した。

 このライセンスの発行基準についてはメーカーの判断にゆだねており、スト5についてはカプコンが定めているところなのでJeSUはおそらく関わっていないだろう。

 そしてカプコンがスト5のプロライセンス発行について一貫して示していた姿勢が「スト5の高い技量を持つプレイヤーに付与する」という一点だったのだが・・・

 今回のスト6プロライセンスへスライドされるという発表により、この姿勢が崩れてしまったのだ。

 まだ発売されていないゲームなのだから、スト5で強かったプレイヤーがスト6で強いかどうかは全くの未知数。特にスト5の場合だと「スト5で初めて対戦格闘ゲームを遊び始めてプロになった」というプレイヤーも結構な数存在している。彼らにとって初めてシーンが完全に切り替わる機会なのだ。私もこれまで4つ、5つほどのタイトルを遊んできたが、過去作での超強豪プレイヤーが新作に変わってゲームシステムが変わったことでシーンから姿を消したというケースはいくつも見てきたのだ。

 特に現時点でスト6のベータテストをプレイしたスト5のプロプレイヤーから「スト6ではゲーム性がガラリと変わる」という言葉が多く聞かれている現状もあり、「スト5のように勝てなくなるプレイヤー」や「スト6と合わなくてゲームをやめてしまうプレイヤー」は必ず発生するだろうと見込んでいる。そのプレイヤーもひっくるめて全部プロライセンスを発行するということなのだ。

 今回の決定は実力至上主義だったライセンスの側面を無視しての交付となるため、そこに私は違和感を覚えたのである。

2.この決断に至ったカプコンの事情を考える

 さすがにこの矛盾についてはカプコンも頭では理解しているはず。
 ただ事情が許さなかったのだろうというのは推察できる。その一番大きな事情というのがストリートファイターリーグ(以下SFLと表記)の存在だ。
2023年1月30日現在、すでに2023年内にもスト6でSFLを開催することが発表されている。しかしゲームの発売日は6月2日、例年のSFLスケジュールと同様で開催するとなると9月の頭にはもうリーグ戦が始まる。

 スト6発売から9月のリーグまでの3か月間に昨年のような8チーム32名のSFL出場者を確保できるだけのライセンス発行大会ができるわけもなく、またタレント性の高いプレイヤーのライセンス取得が担保されていないという現状もあり、もしスト6でライセンスを一新するとなると年々盛り上がりを増すSFL開催が危ぶまれるほどの大きな影響は避けられないものとなっていた。

 やむにやまれぬ事情というやつなのだろうが、だからといって今後また大会優秀者にのみライセンスが発行というスタイルに戻ると一貫性がない。

 じゃあどうするのかというところを考えてみた。

・ライセンスの取得の簡略化はすべきなのか?
 プロライセンスの存在価値は人によって受け止め方が違うだろう。ある人にとっては「己の実力を証明するもの」、ある人にとっては「プロゲーマーとわかりやすく名乗れる証明」、ただメーカーであるカプコンにとっては「賞金を渡す際に持っておいてもらえると面倒が解消されるもの」というポジション。
 つまりカプコンとしては持っておいてくれたらいいというものなので、何人が持っていても構わない。これを機に取得の難易度をいっきに下げてしまうのも手ではないだろうか。
 ただ、元々のライセンスの発行理由に背くことになるので、ライセンス所持者の中での実力差に大きな乖離が起き、一気にライセンスの価値が下がり、その中でスポンサードを受けている人間やSFL出場選手の価値がさらに上がることになるだろう。そう考えるとあまりいい判断ではないようだ。

 ではライセンス自体は何人持っていても構わないというところで、いかに実力を担保しながらライセンス取得者を増やすのかという両立する制度を考えたい。

 
3.新しいライセンス制度を考える
 というわけですでに制度が確立されている他のプロ競技かつ、1対1の対人戦が行われる競技のライセンス制度を参考にしてみた。

例:将棋の場合
 公益社団法人日本将棋連盟の奨励会に入会して四段まで昇段することでプロの認定を受けられる。ただ奨励会へ入会するためにはプロ棋士の弟子になり推薦を受けるか、アマチュア大会で好成績を残し免除された19歳以下の選手に入会試験の資格が与えられる。さらに奨励会の中でも21歳までに初段、26歳までに4段になれなければ強制的に退会させられる非常に厳しい世界だ。
 プロになる前段ですでに年齢制限や非常に厳しいリーグ戦の突破が条件となっているあまりに厳しい世界、さらに半年に一回2名ずつしかプロになることができない。
 将棋と並んで名前が挙がるであろう囲碁でも年齢制限とプロの前段階で日本棋院または関西棋院の院生になる必要があり、その後は将棋よろしく厳しいリーグ戦の上位者のみがプロになれる。
 確かにプロの強さの質をキープするという一点に重点を置かれた厳しい試験。ただこれを真似しては数など到底増えるわけがないので実力をしっかり評価する部分を参考にしてみよう。

例:プロボクシングの場合
 プロボクシングライセンスはA級、B級、C級と3段階に分かれており、C級が一番下にあたる。C級ライセンスでは4ラウンド制の試合しか組まれず、男子の場合C級で4勝を挙げる、またはプロボクサー相手に実技試験を行うB級ライセンステストをパスすることで6ラウンドを戦う6回戦を戦うことができる。B級からA級へのステップアップは6回戦を2勝することでA級ライセンスへ、A級ライセンスで8回戦を勝利するとついに日本ランキングへ登録される。
 まず入り口となるC級ライセンスでは筆記試験と実技試験が行われ、実技ではあくまで基本的なコンビネーションパンチが打てるのか、ガードを中心とした守備の技能をチェックするものでおおよそ50%~30%ほどの合格率であり、いきなり高い技量を求めるものではないことや、人数を絞ろうというものではないことがわかる。

 そう、ボクシングの場合はライセンス内にも段階があるのだ。
 そして相手と対戦する1対1の格闘技の競技という点からも格闘ゲームに近しいものがある。このプロボクシング制度の要素は面白いのではないかと思うので少し拝借したい。

 ボクシングのライセンス制度とスト5のライセンスを照らし合わせると、実戦で実力を示したうえ発行されることを鑑みB級、A級という部分がマッチしそうだ。
 
 というわけでスト6のライセンスにA級B級を導入してみよう、これを導入することで前述の約80名に対しても再度実力の評価がなされる瞬間が訪れるというわけだ。そしてそれに合わせてついにスト6にもポイント制度に基づく国内ランキングを導入、ここの結果いかんでA級とB級を分ける基準としたい。
 仮に上位50名をA級ライセンス、それ以下をB級ライセンスと置くとする。

 例えば出場者が200人を超えるような大型のオープン大会が開かれた場合5位以上に残った選手は自動的に1年間のA級ライセンスが付与されるなど、最高順位に対してもある程度の高い評価を下す仕組みにしたい。
 その中でSFLのドラフト指名候補に入れるのはA級ライセンス保持者のみなどの条件があれば、SFLの選手のアベレージをある程度高くキープ出来のではないだろうか。

 さらにライセンスの発行に関する制度として、従来通りのオープン大会の結果に加えて年2〜3回の「プロテスト」を開催するのはどうだろうか。
 テストの内容はもちろん実技、先ほどアマだけの大会の結果プロが生まれるという構図にやや疑問があった上、一度で合格する人数がかなり限られる点を緩和するためにこのような形式を考えてみた。

 B級ライセンス保持者4名とA級ライセンス保持者1名の計5名のプロと3先勝負を行い、その通算勝率50%以上の選手を全員プロテスト合格とするというものだ。先述のボクシングや囲碁でもプロ選手との実戦形式のテストが行われるため、その部分をスト6にも導入するという考えである。もちろんテストに協力したプロ側にも報酬が出るのはもちろん、著しく勝敗が悪いプロ選手に関してはそれなりの結果が待つというのもありかもしれない。つまり入れ替え戦のような意味合いもあるシビアなテストを目指す。
 もちろん条件を満たした選手全員にライセンスを与えるため、複数人がライセンス取得することも大いにあるだろう。ちなみにプロゴルファーのライセンスの場合プロテストの成績上位50位タイにまでライセンスが発行されるため、実は結構な数のプロが毎年生まれていることになる。こういったレベルの合格者数を目指すものの、やはり1対1で対戦する競技ある以上、勝率50%というラインは見ておきたいという思いもある。この形式はライセンス保持者にも負担があるものではあるが報酬はもちろんのことだが、シーンを支えるという意識やこの負担を回避すべくA級を目指すモチベーションとしてもらえたらと思う。

 今回はとりあえず実力の証明の部分に重きを置いた形でのプロテスト案を考えてみた。もちろんこれは専業プロプレイヤーが多い前提での仕組みであるため、兼業プレイヤーにとっては厳しい部分もあるかもしれない、ただ今後のスト6シーンがより大きなものになっていくのであれば専業プロの価値も上がっていくことになる。私自信の思いとしては「ライセンスは強い人が持っているもの」という当初の前提はやはり崩して欲しくない。さらにいうとプロの中でも明確なランクというものがあっても良いだろう。
 JeSUの発足から5年が経過し、当時のタイトルから新しいタイトルへの移行が次々始まっている中、新しい動きがそろそろ起きてもいい頃だと思う。

 長々と書き連ねたが、このあたりで筆をおくとする。

 
 

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