【瓦版】スプーン曲げピアス事件
「取りますね、ちょっと痛むかも」
ギュュッポンッ。
「お疲れ様でした」
1つの恋が終わり、とある新宿の皮膚科の硬い硬いベットに私は寝ています。女医さんのねぎらいの言葉が重い。
最近、大好きだった男がいた。マッチングアプリで一目惚れした。顔がとにかく好き。出会う男たちの9割タイプじゃない中で、その彼を間違えて左にスワイプしそうになった瞬間に親指をグッと止めた。あっぶねぇ、すきだ。
初手のメッセージはもちろん私から送る。
「はじめまして、イケメンですね。好きです。」
挨拶から興味があることを早く言い過ぎた。いや言わせて欲しい。プロフィールに「ゆっくり愛を育てていきたい」と書いてあった。そこはまじで任せて欲しい。なんの苦労もさせたくないよ。
そして、iPhoneを伏せて一回お風呂に入った。どんな返事がくるんだろう。来ないかもしれない。それだと悲しい、なんで今風呂に入ってるんだ私は。楽しみは後にとっておくタイプ。頭皮に爪が立って痛む。
返事がきた、選ばれた気がした。「イケメンじゃないですよ笑」とのご返信に、謙遜王の称号をあげたい。
メッセージがテンポよく進む。大事にしてること、最近食べた美味しいカレー、シーシャを吸う楽しさに気づいた話。そしてあっという間に2時間ほど経ったころ、テレビ電話をしない?と誘ってくれ、2分後ならいいよと喉と表情筋の調子を高めてみた。
相手は暗闇の中にいるのか、私だけが2画面の片方で愛想よく笑っている。
「最近、新興宗教の研究をしているんだ」
なるほどね、1時間最近の暗い宗教の話をされ続ける。共感できる気がしたい。努力は聞いてるポーズでなんとかなりそう。
話を変えよう。「私ね、最近かわいい照明を買ったの。」
暗闇を照らす会話をしたい。早く出てこいイケメン。彼の顔がやっと出てきて、やはりかっこいい。すきぴの森の住人になりたい。
「明日、君の家に行っていい?その照明を見に行きたい」
「うん、もちろんだよ」
アプリで会って、翌日に家に来るイケメン配達システム。オッケー、とりあえず大掃除をして明日を迎えるぜ。
住所を送り、うちの前に来てくれた彼。「かっこよ」っていう心の声が漏れて、彼がそれに笑い、さらにカッコよくなってしまった。人の笑顔を見るだけで、こんなに体調よくなりますっけ。あはははは。
硬い椅子に座ってもらい、お茶を献上する。彼が目の前にいることにだんだん緊張してしまい、なんの用事もないのにMacを広げブラインドタッチをしはじめた私。いいんだよ、今は最近の中国の情勢を調べなくても!
お酒でも飲んだら?という提案に応じ、度数が鬼の日本酒をマグカップに注いでもらいグビグビと飲んだ。おちついてきた〜。部屋中が居酒屋の香り。
そうだ、肝心の照明をつける。まばゆい光が2人を照らしてくれ、影がなんかエロいぞ!ね!
そこからやっとちゃんとした自己紹介をして、最近占い師をやっていることを告げた。すごく興味を持ってくれて、超能力の話をはじめた彼。「スプーン曲げできる?」「前に少しできたね」「占い師でしょ、今もできるんじゃない?してよ」「え、キスしたいんだけど」「え?スプーン曲げれたらいいよ」
突如始まったキスを賭けたスプーン曲げ大会。
ごついスプーンしか家にない。日本酒もベロベロになってきている中で超能力を試されるなんて予想してなかったよ。
彼と私の間にスプーンを掲げ、念力を込める。
「がんばれ!がんばれ!曲げれたらキスもできるし、高いスプーンも買ってあげるよ」
ねぇ、私、高いスプーンいらないよ。ねぇ、今キスがしたいだけなんですけど。
「曲げられない今日は。ごめんなさい。」と言うときつく抱きしめられた。
「頑張ったね」
なんだろうこの展開。まぁいいや好きだ。顔を離すとキスされた。うわぁ、最高の嘘つき。
私たちはスプーンと身をベットに放り投げ、始まった。
事前に聞いていたちんちんのサイズは小。彼のパンツをおろすと特大サイズのSHOWタイム!嘘を連続でつかれても嫌いにならないの初めてです。
メリメリと、受け入れたことのない幅と長さにびっくり顔になってしまう。まずい、可愛い顔しないと嫌われちゃうよ。息を吸いながら痛みを軽減しながら、彼に合わせる方向で頑張った。よく動くタイプだ。ム、ムリしなくていいんだよ。焦ってもいいことないし、ほら、だって、気持ちいいなおい!
自分の対応能力に惚れ惚れする。最高じゃないか。
動きが止まり、彼が一言ぽつり。「ねぇ、他の男としないでよ」
付き合ってもないのにそんなことを言われても困ってしまった私は「おおんん」とYESとNOの中間の声を出した。嬉しそうだ、ノリに乗ってきた、その調子で私たちどこまでもイこうよ。
4回もして脱水症状になってきて、頭がクラクラする。最後のハグ。左耳を強く噛まれた。これが愛のしるし〜?
イッテェけど、今はこれもなんか好きだ!
彼は翌朝、バスで帰って行った。別れ際、つないでいた手を解くのがしんどいけど、お互いに体力がなく簡単に離れた。
すぐラインが来た。
「楽しかった。他の男としないでよ。今から仕事、本当に嫌すぎる。やめたい。」
痛かった左耳を触って、その傷跡を確かめる。なにか埋まっている。噛まれた拍子にピアスが耳たぶの中にめり込んで抜けなくなっていた。それに気づいたプラスで、私は仕事が大好きな男が好きだという基本の気持ちを思い出し、一気に恋が醒めた。だいきらい。
すぐに新宿の皮膚科を予約。電話で「めりこみました」と告げる自分のバカバカしさに泣きそうになった。女医さんが「何があったんですか?」と心配してくれた。「覚えてないです」と即答し、硬い処置室のベットの上に寝て目をつむった。帰ったらスプーン曲げの練習しよう。
思いっきり次の執筆をたのしみます