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【瓦版】道で何度も再会する人

何度も道端で会ってしまう人は、いますか?
それは簡単に運命というしかないけれど、それを言うと物語が進みそうで怖い。

先日、突然というかひっそりといなくなった知り合いがいた。もしかしたら会うたびに変な咳をしてたし、死んでしまったかもしれない。その人は、やさしくて思いやりがあって、誰からも好かれていたと思う。多分。ここではその人を、先輩と呼ぶ。

5年前の元旦の午後、お腹をくだしながら渋谷の宮益坂を下っている途中、後ろから名前を呼ばれ、振り返るとその人だった。
「わ、お久しぶりです。あけましておめでとうございます」
「おめでとう、元旦から渋谷歩いてる地方出身者、君だけだよ。ゴホッ」
「いや、先輩もでしょ。長野でしょ」
「もう、ゴホッゴホッ。俺は三十年すんでるから。東京産と嘘ついてもバレない」
「ずる」
「元気そうでよかった、じゃあまたね」

この日からまた細切れに、都内のいろんな場所で偶然に再会することが続いた。特に一緒に遊ぶ仲でもなかったけれど、ゲームの中で時々会えるあまり物語に必要でないヒントをくれる村人のようだった。会うと毎回「元気そうでよかった」と言ってどこかに消えてしまうのだ。自分は具合わるそうなのに。最初の出会いは、あるイベントで挨拶して意気投合して連絡先を交換したんだと思う。共通の知り合いはいない。SNSも交換していない。本名も知らない。

二人きりで会ったことはなく、いつも会えるのは道端であった。

ある時の再会は、中野だった。当時、わたしは中野に住んでいて、男とのデートも近場でやっていた。喫茶店に座って、はじめて会った男との会話を楽しみつつ、時につまんねーと思いなんとか自分を奮い立たせていた。この男、さっきからしつこく経験人数を聞き出そうとしてくる。聞いてどうするんだ。仕方ない、100人ほど盛って伝えよう。
「きみって遊んでるんだね」と男はがっかりした。ちくしょう、聞いてきた癖に。かなり修行なさったんですね、と返すのが筋だろう。

「まぁ、世の中の女たちは、かなり人数うそついてますよ」

私は今回のデートを諦め、千円を置いて先に店を出た。こういう時、一服できたら頭がクリアになるんだろうけどタバコの味がどうも苦手だ。代わりにミント入りのガムを何粒か噛みしめ歩いていると、半年ぶりに先輩が向こうから現れた。なぜだか分からないけれど、普通道端で久しぶりに会うとびっくりするはずなんだが、毎回この人の姿を目にしても平常心だった。

「よー。元気そうじゃん」
「お久しぶりです」
「なに?そんなラメの服着て。未来人?ゴホッ」
「くそみたいなデートしてきました」
「まじか。そんな時もあるよ。ゴホッゴホッ。でも、元気そうでよかった」

お決まりの締め言葉で、今回も数分の再会は終わった。
先輩は私に興味ないんだろうけど、こちらも深い会話をしようという気にはなれず、また数ヶ月後に再会するんだろうと思った。なんか前に会った時より、咳が変な音してたな。喉に穴空いてそうな音、いやラムネの笛を吹いた時のような。でもそれを深堀りしない方が、この呑気な再会のためにいい気がした。

そして最後の再会は、私が東京を離れるギリギリのタイミングだった。
キャリケースを持ち羽田へ向かう途中、くたびれてベンチに座って休憩している時だった。休憩所のガラス越しに彼が歩いていたので、立ち上がりドンドンとガラスを叩いてアピールした。ガラスが厚くて、声が通らないが先輩の口元が「元気そうでよかった」と動いているのが分かった。

あれ?そういえば私がいつも絶好調ではない時に、再会しているな。そしてその状態を打ち消すために先輩が現れているようだと気づいた。でも、偶然だろう。先輩は急いでどこかに向かっているようで、手を振って去っていった。

この時ばかりはもう会えないかもしれないと思い、「さっき会えましたね!嬉しい!」とメッセージを送ったが未だに返事がない。どうしよう、死んでしまっていたら。古代の神話では神様や天使が時々、人間の前に現れて示唆を与えているようだけど、この人もその部類かもしれない。考えすぎか。ただの具合悪い人かも。

しかし再会すると、ちょっと人生が上向きになる、特効薬みたいな人間が存在していたことは確かだ。

毎日、瓦版のように世の中で起きたかもしれない、いや起きてないかもしれない個人的大事件を軽く書き連ねていきます。世の中、苦しいニュースばかりで耐えられないので自分で書くことにしました(動物が産まれたニュースばかり希望)。完全見切り発車小説、としとこう。瓦版があった当時、2〜3文で売られていたようなので、今回から書いていく瓦版も100円にしたいです。これを最後まで読んで気に入ったら100円サポートしてください。記事のオススメボタンも押してもらえると飛んで喜びます(^^)やった〜。



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