【日曜興奮更新】忘年会

忘年会。

激安中華料理店でチャーハン食べ放題というのがここの売りである。金がなくて時間がある我々にお似合いの場所だった。

毎年ある集まりに懐かしい顔ぶれが。

8人掛けの椅子には男が5人、女が3人座っていた。私の前には、元彼とセックスフレンドがいる。

誰が何の目的でこの飲み会を開くのか、分かっているのに来た8人。

ここには、関係が入り乱れた人間が集まった。

合コンという名の、兄弟といいますか姉妹といいますか、棒と穴を懐かしむ最悪な会。

1杯280円のハイボールを思いっきりぶつけて、乾杯してみると、今のセックスフレンドのユウスケだけが他の者より1秒、いや1.5秒遅く、私のグラスから離れていく。


一昨日、廃墟ビルの屋上でしてからなんだか気持ちが冷めてしまっていた。寒い冬にお尻をスパンキングされ、快感よりも怒りが勝ってしまって、帰りに自動販売機でコンポタージュの缶を買わせた。

「あったかいね。今日寒いよ。」
「お前、今日いつもより感じてたよなー。」

缶を両手でこすりながら、さっきのことをなかったことにしたいのに、お前というやつは何も分かってない。感じたように見えたのは、君に直接怒りたくなくて、寒空に吠えただけなのである。遠くにいる、仲間に、SOSを言ったんだ。缶の底に残ってなかなか取れないとうもろこしの粒に、今夜完璧に成し遂げられなかった思いが乗って、さらにむかついてしまう。

乾杯から、ぷりぷりのエビチリが目の前にほかほかと届いて食欲が湧いてきたから全て忘れてしまおう。

ユウスケと元彼は、今日初対面だ。

「ショウゴさん、どこに住んでるんですか?」
「あ、蒲田です。」

蒲田か。まだ住んでるのか。蒲田はトンカツの聖地。サクサクで美味しいんだよって、君が教えてくれてから、なんだか他の街で食べるのがダメなような気がして、別れてからもまだ呪いにかかっている。

「ユウスケさんは、どこに住んでるんですか?」
「ぼく、錦糸町です。」

錦糸町って私の家じゃないか。ほんとうは清瀬なのに、すこし都会に住んでるって思われたいのか。

「君も錦糸町だったよね。」

エビチリの1番美味しいところ、つまり全部なんだけど、そこを堪能してる時に元彼からの質問が私に刺さった。

「うん。まだ住んでるよ。まだね。スカイツリー、この前さ、3色になってたんだよ。」
「それ、前も言ってたよね。変わってないな。」
「二人って、前から知り合いなんですか?」

よくぞ聞いてくれました。コンポタージュ野郎の質問により、私たちは少し背筋が伸びる。

「昔、高めあっててね。」
「そうそう、高めあっててね。」

こういう言葉選びが好きだった。続いて真似する時間が好きだった。今でも昔と同じように出来たことが素直に嬉しい。

「へー。そうなんすね。」

もっと興味を持ってくれ、コンポタよ。

なんで直近でセックスした人の身体って、エロく見えないんだろう。

元彼の着込んだ服の膨らみに目が行く。

「えーー、幹事のユミです!ここは、みなさんご存知のとおり、チャーハン食べ放題です。ウチらには夢とチャーハンがあります。みんな、食べてね。」
「もっといい店に行きてーよ。」
「本当だよ。チャーハンってそんなにたくさん食べれないから。」
「はいはい、うるさい。チャーハンでお腹を満たしたら、この後のラブラブデートに繋がりやすいかもー。」
「ラブラブデートってなんだよ。」

みんな呆れたフリが上手い。

20歳前後の男女がヤりたいこと、いくら隠しても少し浮ついている微かな表情の変化で全員にバレていく。

しかし、バレるために来ている。

二の腕にたっぷり脂肪がついたバンダナを巻いている店員さんが大盛りのチャーハンを持ってきてくれた。

黙々と食べる。中国4000年の歴史が、この円卓の浅い歴史に優しい。


黒烏龍茶で流し込んで、またおかわりをする。おかわりをする時に振り返って、足を今夜の相手に当てる。

この足で好意の表明をすることが、より緊張して、より楽しいのであった。

左足が、微妙にサイズが違う2つの靴に挟まれた。

熱々のスープを飲み干して、少し目線を落とすと元彼とコンポタージュだった。

だけれど私は、この前少しだけ話した青学の男が気になっている。

空いている右足を伸ばそう。

横にいるユミが膝を小指で押してきた。

「わたしの青」

ごめんなさい。仕方ない。今夜は女の友情を優先させよう。お馴染みの味を楽しんでいくしかない。

わたしは2回目のチャーハンを頼んで、化粧室へ行った。

スカートのポケットに入れた赤リップが太ももの熱で溶けかけている。油をたっぷり使った料理で潤っている唇には、なめらかに色が付いていった。

鏡にうつる自分は2つの選択肢を抱えている贅沢者なのに、なんだか古くてダサい女に見えてきた。

いつまで自分はこんなバカな出会いとセックスを楽しんでいるのだろう。誰のためにやっているのだろう。なのに若いこの精神と、先ほど挟まれた左足はこの後を期待している。

左耳に髪をかけ、化粧室を出る。

青学が立っていた。

「チャーハンって飽きるよね。」

その一言で、はやく飽きてしまうことのダメさが口に広がった。

「まだわたし、食べれるから。」

塗りたての赤をハンカチでぬぐって、席に戻った。お馴染みの2人が嬉しそうだ。まだ、ここにいよう。来年のことなんか未来なんか誰にも分からない。繰り返していくこのループを、まだ楽しめますように。

思いっきり次の執筆をたのしみます