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柳亭市馬の「妾馬」を聴く(2021/5/17)

仕事においてお上の一言で決まってしまうことは多々あります。
課員は反対していても課長の意見でシステムが導入されたり、社長の方針で在宅勤務をしないことが決まったりと、大抵は碌なことにならない印象。
もちろんリーダーシップを発揮して解決の判断を即座に下すなんてこともありますが。
そんな良い方向へ向かう一声は大歓迎です。

落語「妾馬」
長屋を通りがかったお大名様に見初められ側室に迎えられるお鶴。このお鶴がお世継ぎを産み一躍出世する。お鶴には傍若無人な兄の八五郎がいるのだが、お鶴たっての願いで屋敷に迎え入れることとなる。屋敷に着いた八五郎は柄にもなく仰々しい言葉遣いを試みるが、「今日は無礼講、友人に話すようにしても良い」とお大名様に勧められるといつもの如く傍若無人に振る舞う。側用人はその態度にイライラするのだが、お大名様は八五郎を気に入り侍に取り立てる。まさに、「鶴の一声」。

兄妹愛にじんわりと心打たれ、八五郎とお大名様、側用人の掛け合いが面白い、そして綺麗にオチる。落語の魅力が詰まった、好きな演目の一つです。

ここ最近は柳亭市馬が演じる「妾馬」をSpotifyで何度も聴いています。

何よりまず枕が良いんです。
人間国宝に認定されたことでことで園遊会に呼ばれた師匠の五代目柳家小さん。二二六事件当時、従軍していたものだから引け目があって……。
何ですか、そのスケール感は。
誰でも話せるものではなく興味深く面白いという完璧な枕だと思います。

噺本体も柳亭市馬の伸びる声と快活な喋りが八五郎にぴったりで、聴いていてまず心地が良い。
この話のクライマックスである都々逸にかけて次第にしんみりしていく八五郎の心情変化も実に見事に演じています。
何度も何度も聴いて機微を感じ取りたくなります。

理不尽な一言に振り回された一日の終わりを市馬の「妾馬」で締め括るのはいかがでしょうか。

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