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ヨシタケシンスケさんと、クリントンのスキャンダル

ヨシタケシンスケさんが大好きです。

最近ワールドにすっかりハマって、Amazonでポチってみたり、図書館で探してきては読んでます。先日借りてきたのはこちら。

ヨシタケシンスケ
『それしかないわけないでしょう』(白泉社)


大人の言う「当たり前」って、ほんとにほんと?
未来も答えも「それしかない」って、ほんとにほんと?

と、子ども目線のヨシタケ節でユーモラスに深掘りし続けて、「それしかないわけないでしょう」ってぐにゃりと切り込んでいく。

あひゃひゃひゃ!って笑い転げつつ、いや…ほんとそうだよね、と不意に真顔になる。大人も子供も何度も読み返したい作品です。

表紙につづき裏表紙もまさに
「それしかないわけないでしょう」!

***

笑い転げながら読み進めてきて、このページまで来た時。

そういえば、
「すきか きらいか」とか、「よいか わるいか」とか、
「てきか みかたか」とか、よく きかれたりするけれど、

それだって どっちかしかないわけ ないわよねー。

ヨシタケシンスケ『それしかないわけないでしょう』より

不意に、学生時代の一コマを思い出しました。

遡ること、20年ちょい。

クリントンの不倫スキャンダル*が物議をかもしていた真っ只中に、私はアメリカにいました。それは1ヵ月間のショートステイで、スタンフォード大学の学生達との交流が主目的のとあるプログラムに参加していたのです。

*一応wiki貼っときます▼

学生寮で、ステイの間に知り合ったアメリカ人学生たちとお茶を飲みながら他愛ないことをだべっていると、急に周りがざわつき始めました。

何かと思えば、クリントンのスキャンダルについてテレビ討論があるから、みんなで大広間にテレビを見に行くんだとか。もちろん、テレビの前で自分たちも大激論するために。

へー、って感じでぼけっとしていたら、不意に1人のアジア系の学生さん(女の子)が私に聞いてきました。


ね、あなたはクリントンは悪いと思う?


えっ?

不意を突かれて完全に面食らいました。正直に言うと「わからない」。ぶっちゃけ、アメリカ大統領のスキャンダルには大して興味もなかったし、そもそも事態の真相が当時の私には全然わからなかったから。

そう思って黙っていること2秒ほど。彼女が追い打ちをかけてきました。


YESなの?

NOなの?

どっち?!


…えええっっっ???

「問い質す」と言っていいほどの迫力で2択の答えを求めてくる彼女。正直、めちゃくちゃ戸惑いました。


…い、いえす…
(心の声:まぁ、不倫っていいことではないよね…?)


気おされたかのように小さな声で一言答えた私を見て、彼女は「コイツ、バカだ」と言わんばかりに冷めた目をして

あ、そ。

とつぶやくと、くるりと踵を返して大広間に向かっていきました。その後ろ姿に茫然としながら、私はプログラムで教わったことを思い出しました。


アメリカ人からすると、黙っているヤツ=考えがないヤツだ、と。


それと同時に、思いました。

アジア系の彼女はアメリカに生まれて、小さな頃からきっと今の今まで「すきか きらいか」とか、「よいか わるいか」とか、「てきか みかたか」とか、すぐには判断しづらいことも一瞬でどちらかに振り分ける訓練を積んできたんだな、と。

これはただの私の想像だけど、アジア系の彼女はもしかしたら、アメリカという異国の社会でエリートとして生き抜いていくために、アメリカ社会の価値観を体現しようと人一倍必死に闘ってきたんじゃないか。

意見がない人間には価値がないとされる社会で必要とされるには、自分の意見を誰に対しても常に明確に発信し続けないといけない。

だから、たとえ白か黒か迷ったとしても、留保はしない。してはならない。そんなふうに無意識のうちに思い込んで育ってきたんじゃないか…?

***

帰国してからやがて社会に出た私は、相変わらず白か黒かとっさに判断することがとても苦手で、そのたびに彼女の冷めた目を思い出しました。自分の意見をハッキリと瞬時にわかりやすく説明するのが下手な自分は、社会人として劣っているような気がして、ずっと焦っていたのです。

でもある時ふと、思いました。

「すきか きらいか」とか、
「よいか わるいか」とか、
「てきか みかたか」とか、

どっちとも言い切れない時だって、あるじゃない?
その気持ちは、別にそのままでもいいんじゃない?
無理やりどちらかに括ろうとするなんて、私にはすごくしんどいもん。

だから、

どっちかしかないわけ ないわよねー。

と、ヨシタケシンスケさんに言ってもらえて、なんだかすごくホッとしたのです。やっぱりそれでいいんだ、と。「すき」でも「きらい」でもない「すらい」でいいじゃない!


あれから20年ちょい。彼女は今、どうしてるんだろうなぁ。

当時の彼女の生き方も、今日現在の私のあり方も、

どっちだって いいわよねー。



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