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空からのせっけん玉で汚れすっきり、無病息災!~じいちゃんの小さな博物記㉑
「先日の散歩で、ムクロジの実が落ちているのを見つけました。羽根つきの玉にするタネが入っていて、実の殻で洗濯実験ができます。」と谷本さん。早速、実験をしてくれました。さて、汚れは落ちたのでしょうか?
『草木とみた夢 牧野富太郎ものがたり』(出版ワークス)、『週末ナチュラリストのすすめ 』(岩波科学ライブラリー)などの著者、谷本雄治さんの「じいちゃんの小さな博物記」第21回をお届けします。
谷本雄治(たにもと ゆうじ)
1953年、名古屋市生まれ。プチ生物研究家。著書に『ちいさな虫のおくりもの』(文研出版)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)、『ぼくは農家のファーブルだ』(岩崎書店)、『とびだせ!にんじゃ虫』(文渓堂)、『カブトエビの寒い夏』(農山漁村文化協会)、『野菜を守れ!テントウムシ大作戦』(汐文社)など多数。
ころころ、ころころ――。
耳元で振ると、小気味よい音がする。
まあるくて、べっこう色で、表面しわしわ。アヒルのくちにもポットのふたにも似たものが、頭にちょこんとのっかっている。散歩の途中で拾ったムクロジの実は、そんな不思議な形をしていた。
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頭の飾りは、きちんとした実になれなかった名残だとか。本来は3個1セットで実になるらしいが、たいていは1個ずつ、ばらばらになって地上に転がる。だからたまに2、3個くっついた実があると、当たりくじを引いたようでうれしくなる。
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しわだらけの果皮に洗浄成分のサポニンを含み、天然せっけんとして古くから利用されてきた。ムクロジが「せっけんの木」とも呼ばれるのはそのためだ。
そうと知ったら、試さぬ手はない。ペットボトルに果皮を数個入れ、孫に差し出した。
「水を入れて、振ってごらん」
3分の1ほど水を加えて、シャカ、シャカ、シャカ。
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「わっ、すごい。泡がいっぱい出てきた!」
「ふふふ。せっけんの実だからな」
手を洗うだけでもいいけれど、ほんとうのお楽しみはこれからだ。そのために、新品のガーゼタオルをわざわざ汚しておいた。
洗濯用の果皮を新たに用意し、サポニンがよく溶けだすように、ぬるま湯を注いだ。手でかきまわすと、気持ちよく泡が出る。
手洗いなんて、何年ぶりだろう。学生時代にキャンプ場でして以来かも……。
なんて思いながら、ごしごしごし。
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手を休めて汚れの落ち具合をみると、まっ黒だった部分がいくらか薄くなっている。
気を良くして洗うこと数分。完全なまっ白とはいかないまでも、十分きれいになった。
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「どうだ。汚れが消えたろ」
「うん。本物のせっけんみたい」
「それで奈良時代から、洗濯や洗髪に使われてきたんだって」
布袋に入れた米ぬかせっけんもよく知られるが、遊びを兼ねて試すなら断然、ムクロジがお勧めだ。果皮をすりつぶして粉末にすれば、粉せっけんとして持ち歩ける。
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「この黒いタネはどうするの?」
おっと、忘れてた。ムクロジは漢字で「無患子」と書き、タネは子どもの健康を守る縁起物。羽根つきの玉にしてカーンカーンと羽子板でつき、魔よけ、厄払いをしたものだ。
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タネに付いている絹毛は、枝から栄養をもらっていた名残だろうか
現代っ子が羽根つきに興じるのはまれだが、数個まとめて数珠にしたり、ブレスレットの材料として売られたりすることもある。果皮もタネも利用価値は高いのだ。
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「タネを埋めておけば、芽が出るのかなあ」
そうそう、その手もある。羽状複葉の若い葉は、観葉植物っぽくていい感じ。時間はかかりそうだが、さっそく埋めよう。
「あっ、芽が出た!」
最初にそう言うのはだれだろう。