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自宅の外で読書する


私はかみほん派です。かなりの多読である。毎日出先でベンチを見つけて(あちこちに定番あり)本を広げている。スーパーでも美術館でも、出先でササッと読書。気候が良ければ、駒沢公園脇に車を停め窓を開け、練習に来ているジャズサックスを聴きながら。お金のかからない贅沢な時間。

バスケ少年達は いつも元気


複数の図書館から、新しい本を中心にネットで大量に予約。借りて来ては次々読む。基本ハッピー読書家でして、私の選択チョイスは文句がまぁ多い。
上下連続もの、分厚いものは無条件にうんざりしてしまうし、サスペンス、残酷はとにかくダメ。漢字が多い歴史も、やたら長い名前(ロシア名とか)の登場人物が「え?あらら?」混乱するので避けまくり。回りくどい言い回しの作家や、難解な文体も全く手に負えない。

有名な作家じゃなくて良い。文章も下手で全然構わない。本を読み終わって、たった一行で良い。私の心にガツンと一撃いちげきが欲しい。なんでもかんでも片っ端から忘れてしまう私という呆れる人間に「おい待て!」チクリと(いやグサリと)くぎを刺す、目の覚めるさぶりがただ欲しいのだ。

なぜ自宅で読書しないのか。我家は狭くて常にワサワサ(夫は自宅で仕事)。鍋を火にかけながら針仕事をしていたり、ネットで調べものやらベランダの花の手入れやら。昨日は白髪染めしながら勝新太郎かつしんたろうの「座頭市ざとういち」を観てた。恥ずかしながら私の日常は、集中からは程遠ほどとおい。

自宅にはいつも、最新の雑誌(時々写真集や画集も)が20冊くらいあり、夜はそれらをながら☆☆☆リーディング(付箋ふせんがわりに写メも)。まさに浴びるようですが、これが良いのか、悪いのか。

どこでも良いんです


最近の読んだ本から

☆  町田そのこ 
「52ヘルツのくじらたち」

この作家の小説は、いつも印象が薄く忘れやすい。今回は読み終え、初めてホッとして涙が込み上げた。
52ヘルツの、人間には聞こえない周波数の声を出すというくじら。果てしなく続く海原で大きな体を波に打ち付けながら悠然と泳ぐのだが、その鳴く声は誰にも届かない。頭に浮かぶ雄大な光景がなんとも読者を、遠くのせつない孤独に連れて行く。

ただ1点、主人公が「52ごじゅうに!」と必死で助けたい傷ついた少年を数字で呼ぶのは、あり得ない。52ヘルツを印象つけたいのは分かるが「?」ちょっと首を傾げた。


☆  津村記久子
「水車小屋のネネ」

今はどの小説も、いじめ、虐待、引きこもり、振り込め詐欺、そんな題材ばかりで(仕方がないのかもしれないが)少々うんざりしていた。この小説も子育て放棄した親から、なんとか逃げて、貧困の中で妹と幸せをつかもうとする。水車のギシギシする音、屋根を打つ雨の音、蕎麦屋の湯気、老夫婦の働く手、ヨウムの陽気なお喋りが、アンサンブルのように日々を奏でる。
優しいは強い。でも遠くを見てはいけない。まず目の前の数メートルだけを進め。少しづつ前に出るだけで良い、景色は変わる。
若い時はムリだと思った事も、今なら私も誰かを守れる。必死で助ける人に私もなりたいと思った。


☆  原田ひ香「老人ホテル」


貧困の闇からの大脱出小説のように、具体的に今ある財布から、幾らで何をやって、次は何!そして次!と具体的に手引きしてくれる親切。こんな私でも中古物件を見る時は、白蟻しろありと天井のいたみ(修理が高い)をまずチェックすると学んだり。「財布は踊る」など立て続けに何冊か読んだ私は、もうお腹いっぱいですが、本当に経済的な絶望の淵に立つ若者の手に届いて、希望のともしびけて欲しいレスキュー文学なのだ。



☆  川上未映子「黄色い家」


あちこちに推薦図書として掲載、「世界進出を視野に」とあったので、今まで面白かった記憶がないが、話題作についワクワクした。
苦痛で苦痛で、半分までこぎつけてギブアップ。一気に2ページ飛ばし読みでパラパラとラストへ。読書に頑張り過ぎは禁物。時間は大切だから。
美人のイメージ戦略?
やっぱり苦手だ。私には、この人の良さがさっぱりわからない。


☆ よしもとばなな
「さよならの良さ」


私は、よしもとばななが好き。
自分の苦痛を、やり方を、きちんと投げて来る。多少間違ってても、視線が真っ直ぐなのが好き。とにかく私は正直な人が好きなのだ。誤魔化ごまか小賢こざかしさなどに、私の心は固く微動びどうだにしない。

大好きな父、吉本隆明を亡くし(新聞でも報じられた)落ち込みからようやく立ち直りかけた時、息子の通う幼稚園バザーで、亡き父の本が¥300で出されていた。私が目にするだろうバザーに他の園児の父が出していた。驚いてそれを買い、誓った。

「これから(本をバザーに出した)彼にどれだけ親切にされたとしても、私は絶対許さない。貴様に人生や命を語る資格なし。即ブロック、全く悔いなし」

あはあは。いいぞ。

父・吉本隆明は孤高な思想家だった。背もたれのない自由な立場を貫き、痛烈な批判を投げ続けた。

彼が長い闘病の苦しみから解き放たれ、綺麗に死化粧したのを見て、

「でも私は、入れ歯もなく呼吸も辛そうに、懸命に闘っているお父さんの顔の方が好きだと思った」

本当に父を尊敬してるのだなぁ、胸が詰まった。そして遅まきながら、父上の資料を集めて読みました。濁りのない視線で真っ直ぐに向かう姿、揺るがずに立つ美しさ。


☆ 中島らも 
「何がおかしい」

秀才校へ通うが、シンナーや薬をやりまくり、本にも堂々と書いてもなかなか捕まらなかった(捕まったけど)。ダメ人間だけど、どこか魅力がある愛され自由人。



☆ 三浦しおん 
「好きになってしまいました」

とても聡明な文章で好き。
新しく知る言葉のあれこれ、格別に劣っている私も調べたりして、勉強になります。

年々キラキラ光るネイルが好きになり、目一杯派手にやってもらう。田舎の法事にそのまま行くと
「都会では普通なのね」
みな43才独身の私に目くじら立てない。でも8か月の甥だけは目が釘づけ、自然界に存在しない異様な色の私のつめに這って突進、執拗につかみまくられた。

「このおいっこを可愛がろうと決めた」

この話、好きだ。


☆  にしおかすみこ 
 「ポンコツ家族」

なんと言っても1時間半で読み終える本って最高だ。
一発屋芸人とはいえ、クリクリとした目でルックスも良い、瞬発力のある頭の回転、SM女王のネタで才能を発揮したはずなのに、いつもどこか自己肯定感の低さを覗かせる。

問題ばかり起こすアル中の父と、元看護士で滅茶苦茶くちの悪い認知症の母、2才上のダウン症の姉(陽気な風呂嫌い)のゴミ屋敷化した実家に戻って、掃除と喧嘩の仲裁や介護、どこから手をつけていいかわからない家族と向き合う日々を著者は言う。
「家族って生臭なまぐさい」
まさに。

幼き日、家族で海に。父は金槌カナヅチ

「ママの手は、お姉ちゃんを助けるから、あんたは自分で何とかするのよ」
「ずるい〜お姉ちゃんばっか、ずるい〜」

そんなふうに育って来て今、姉と母との喧嘩を止め、夜中にドアを蹴る父を叱り、汚物を片付けゴミを出し、病院へ同行しフル回転して頑張る。それなのに認知症の母は、姉と父だけは憶えてい流のに、次女の自分の存在はすぐ忘れてしまう。

「せめて父ちゃんよりは、前にしてくれ〜」


雪の道端で、姉から手紙をもらう。

「ハート やさしいきもちは きれいのもと」

繋いだ姉の手は、誰より柔らかい。
また言えなかった「ごめんね」が。目の当てられない限界を越えた家族だけど、指先に引っかかるほんの数ミリ、そこが1人1人を支えているように見えた。まぁでもかなり心配です。



☆  馳 星周 「少年と犬」

もの言わぬ犬は、読者全員の心を捉えてしまう従順で健気。名役者は上手い文章も、筋書きも、登場人物全てを圧倒してしまう。他のものを(ハードボイルドでなければ)読んでみたい。


☆ 山本文緒
「自転しながら公転する」


〈末期癌を宣告された52才作家、長野での夫とのニ人暮らしで〉

夜中トイレに起きると夫がリビングでいびき。起こせなかった。この人が今「もうすぐ妻が逝くこと」から解放されているわずかな時だったから。

人生の濃い貴重な時間。せつない。



☆ 木下龍也 
「オールアラウンドユー」


雪が雪で 白を更新する道に ペヤングの湯で ハートをえがく

ハンサムな歌人。若い女性ファンが多い。「天才による凡人のための短歌教室」って言い切った。逆風もあえて?超ウケる。あはあは。

助手席は、読みかけの本


☆  村上春樹 
「一人称単数」

心臓は肋骨ろっこつおりの中で おびえたネズミが駆け回るような 不揃ふぞろいな音を立てる

村上春樹の小説、かなりの量を読んでるんですが、ことごとく内容を忘れてしまってる。怒られそうだが、紛れもない私の事実。
反面、エッセイにある村上氏自身の話には興味が強かったのか、中華料理を食べると頭痛がするとか、妻から揚げ物は外食でと宣告された話や、ジャズやTシャツの好みなどは記憶されてるんですよね。

でも上記の言い回しは、ちゃんとメモしてました。さすが何度もノーベル賞候補になってますよね。



☆ 谷川俊太郎 「虚空へ」


美しいより おもしろく

意味があるより おもしろく


やっぱり好きなんだなぁ、谷川俊太郎の 削ぎ落とされた感じ。
大昔ですがNYで、本人による朗読を目の前で聴いた経験があります。初めてのキスの詩には、少年の鼓動と透明に、ワサッと心を持ってかれた強い衝撃ありました。


☆ 中上健次 「岬」

もうわけわからん。どうかしてるだろ?本能でしか生きてないみたいな描写。酒のんでSEXしての繰り返し。どこが人気だった?

この人も昔、NYで隣合わせた。真冬のカフェで風情ある太った中年男が原稿を書いていて、チラリと見て
「中国の人、(日本語わかんないから)大丈夫だよ」
友達の彼氏のくだらない話をつい長々してしまった。にっこり笑って立ち上がって行くのを見上げて、
「あ、ウーッソ、えっ今の、中上健次だった。」
ヒーッ、遅かりし。

☆ マイテ・ガルシア
「プリンスと過ごした日々」

プリンス 享年55才。 シャツは上下逆、靴下まで全部裏返した遺体がエレベーターの中で発見は、あまりにロックで あまりに大ショック。

後部座席には、本が沢山


☆ 桐野夏生
「燕は 返って来ない」

作家が覚醒するのを初めて見た気がした。今までのものとは全然違う。
いきなりだ。前作「だから荒野」も滅茶苦茶面白くて夢中になって読んだが、ラストの詰めが甘くて少しガックリ。でもこの「燕は返って来ない」は、すごい。私のような怠惰な読み手の肩口をギュッと握って、ラストまで引きずって行く作家の才能と情熱に圧倒された。顕微受精、代理母の話でもあり、苦手な耳を覆いたくなる生々しさもある。作家というのは、見たくない書きたくない事も作品全体のために書けるってことかなぁと思った。

欲しいものは何だって金で買える世の中になっても、買えないものはある。貧富の差も、教養の有る無しも、遺伝の優劣、希望と絶望も全部は背中合わせ。明日がわからないから命なんだ。八方塞がりと思われた主人公のラストには度肝を抜かれた。一世一代、力が湧くってこういう事かな?久しぶりに「エッ」声を上げる衝撃だった。

実力ある作家だ。金沢出身の桐野夏生、金沢は待ってますよ。絶対に記念館は出来ますね。あはは。

私という人間はとにかく面白い、時におもむきのあるエピソードが大好きなのだ。つまらない話、コピペな言葉選び、好奇心の沸かない関係が大の苦手。
私自身が経験するのには、圧倒的に足りない気持ちや時間を、読書で多方向から満たすそんな日々。

ああ楽しや、気ままな本の旅。

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