教えるのが下手な先生

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小泉悠『プーチンの国家戦略』(2016)

同じ著者の『現代日本の軍事戦略』より前に書かれた本だが、ハイブリッド戦争に関する記述など重なるところも多い。 注目すべきは第6章の宗教に関する部分で、プーチンとロシア正教会の蜜月の他、イスラム過激派との対立に紙幅が割かれている。中央アジアは「柔らかい下腹部」と言われるほど脆弱な地域で、この地でイスラム過激派が力を付けることをプーチンは警戒している。 アフガン紛争時にロシアがアメリカ軍を中央アジアに展開させることを容認したのは、対米協調に加え、西側の軍事力でイスラム過激派を抑

    • 小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(2021)

      ロシアの「軍事戦略」に焦点を当てつつ、国際情勢への示唆も豊富。ウクライナ侵攻以前に書かれていることもあって、例によって「ロシア側の論理」を知るのに良い。 ハイブリッド戦争現代ロシアの軍事戦略を語る上で鍵となるのが、「ハイブリッド戦争」という概念だ。クラウゼヴィッツが『戦争論』を記した19世紀のような国家対国家の軍事力による対決ではなく、「戦争目的」を達成するためにプロパガンダや民間組織などを利用する新たな形の戦争を指す。2005年に米海兵隊のマティスとホフマンが初めて提唱し

      • 下斗米伸夫『プーチンはアジアを目ざす〜激変する国際政治』(2014)

        ロシア外交の東方シフトをポジティブに描き、クリミア併合が日本にもたらす影響を予測する。現在のウクライナ侵攻における「ロシア側の論理」を「理解」する助けにもなる。 +++ アメリカが「米ロ新冷戦」と対立を煽りつつ「旧西側諸国」の結束を図る一方で、東欧にも複雑な歴史があり、単純にロシアが悪いとは言えない。あるいは、少なくともフランスやドイツはそのように認識してロシアとの関係を重視している。 ウクライナは10世紀にキエフ・ルーシとして成立したが、モンゴルやオスマン、元はキエフ

        • 下斗米伸夫『ソビエト連邦史』

          概要スターリン時代に外相を務めたモロトフを軸に据えつつ、ソ連の成立から崩壊までを描いた概説書。 要約レーニンが無神論者であり、フルシチョフ時代に苛烈な宗教弾圧が行われたことから、ソ連と言えば無宗教のイメージが強い。ところが、ボリシェヴィキ革命で重要な役割を果たしたのは17世紀にロシア正教から分派した「古儀式派」と呼ばれる会派であった。農村に出現した「ソヴィエト」は古儀式派の集会としての性格があるし、多くの古儀式派出身の政治家がソ連政府の中枢を担った。ソ連期を通じて、「共産主

        小泉悠『プーチンの国家戦略』(2016)

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        • 本のレビュー
          4本
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          11本
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        記事

          【考察】宇佐美りん『推し、燃ゆ』

          『推し、燃ゆ』宇佐美りん -聞き入れる必要のあることと、身を守るために逃避していいことの取捨選択が、まるでできなくなっている。 ---------- 推しが燃える話。第164回芥川賞受賞。21歳での受賞は史上3番目の若さらしい。 構成も描写も適度に計算されている印象。新海誠よりはわざとらしくなく、浅井リョウよりは凝ってる。主人公の属性に「あーわかる」とはならないものの、じわじわとボディーブローのように効いてくる「生きづらさ」にしんみりしがち。 ※以外ネタバレ含 「自分

          【考察】宇佐美りん『推し、燃ゆ』

          「人命最優先」というお気持ち表明

          2019年4月19日、豊島区東池袋の日出町第二公園前交差点において二人の方が亡くなり、十人が重軽傷を負う悲惨な自動車事故が発生した。このモニュメントは、この事故の被害者を含む全ての交通事故被害者を追悼するとともに、交通事故の根絶と安心・安全な社会を願って、現場近くに設置されたものだ。(豊島区HP: https://www.city.toshima.lg.jp/335/2002181419.html) 碑文にはこう記されている。 平成31年(2019年)4月19日、この

          「人命最優先」というお気持ち表明

          ガラスの天井と蛍光色の下駄

          大阪府知事の吉村氏が「ガラスの天井」という言葉の意味を知らなかったとして批判(嘲笑?)を浴びている。 「ガラスの天井」とは、女性の社会進出を阻むある種の障壁のお洒落な呼称だ。「ガラスの」とは透明であること、つまり認識されにくいことの比喩で、「天井」とは役員や社長への昇進などキャリアの終盤で妨げとなることの比喩だ。 採用や若手の昇進についてあからさまな男女差別をやる企業は確かに減ったのかもしれないが、日本企業の女性の管理職比率は依然として低い。 男女差別が解消され、自分に男

          ガラスの天井と蛍光色の下駄

          逃げ恥は「ムズキュン」であってフェミニズムやポリコレではないというお話

          「逃げ恥新春スペシャルがフェミっぽくて嫌いだ」とか「逃げ恥新春スペシャルはフェミニズムだから素晴らしい」という意見が散見される一方で、「逃げ恥は別にフェミでもポリコレでもないよ」という論考が見当たらなかったので、一応まとめておく。 「逃げ恥はフェミニズムだ」という人は逃げ恥もわかっていなければフェミニズムもわかっていないし、仮に製作者があの脚本と演出にフェミニズムを仕込もうとしているとしたら製作者ですら逃げ恥もフェミニズムもわかっていないという話だ。 逃げ恥(連ドラ)あら

          逃げ恥は「ムズキュン」であってフェミニズムやポリコレではないというお話

          「勝利至上主義」に関するよくある誤解

          今年の箱根駅伝は白熱しましたね。 この手の大きなスポーツイベントの際にしばしば話題に上がりがちな「勝利至上主義」について、よくある誤解を解いていきたいと思います。 勝利至上主義といえば、日大アメフト部の悪質タックルのようなラフプレーの一因として語られることがありますが、端的に言えばあのようなプレーは勝利至上主義によって起こるのではなく、勝利至上主義の"不在"によって起こるのだというお話です。 「勝利至上主義」とはここでは、勝利至上主義を「(スポーツにおける)勝利を至上の

          「勝利至上主義」に関するよくある誤解

          「本質的思考」に関する本質的考察

          「本質」という言葉がよく使われる。 「まずは本質的問題を探ろう(キリッ」とか、 「それって本質的には何も解決してないよね(ドヤァ」とか、 「ちょっと待って?わたしたち、本質を見失ってない?(ニチャァ」といったように。 「本質」という言葉を使っている人の顔はそれはもう気持ち悪いぐらいに輝いており、自身の鋭い発言に酔いしれ深刻な二日酔いに見舞われること請け合いだ。それほどまでに人を魅了する「本質」とは、いったい何者なのか? 「本質的思考」があるからには、「本質的でない思考

          「本質的思考」に関する本質的考察

          【要約・感想】『歴史の終わり』フランシス・フクヤマ

          1989年に『ナショナル・インタレスト』誌に掲載された”The end of history?”という論文をもとにした著作。リベラル・デモクラシーは人類がたどり着いた政治思想・政治制度の最終形態であり、「歴史の終わり」が訪れたと主張する。 【内容】 ① 近代科学の導入と経済の自由化は歴史的必然である ② 政治的民主化は経済的自由化の必然的帰結ではない ③ 歴史のプロセスは「承認を求める闘争」であり、市民を平等に承認する民主制が政治制度の最終形態となる ④ リベラル・デモクラ

          【要約・感想】『歴史の終わり』フランシス・フクヤマ

          法と正義と浜辺美波

          「法を超えた正義はあるのか」 この言葉を浜辺美波の口から聞くことができる作品は、「タリオ 復讐代行の二人」の他に存在しないだろう。法と正義の関係は、古くは古代ギリシアのアテナイ、ソクラテスの時代より論争が絶えない法哲学上の一大テーマだ。「危険な思想を流布し、ペロポネソス戦争敗北をもたらした」として民衆裁判で死刑を言い渡されたソクラテスは、自身の無罪を確信しながらも弟子による脱獄の勧めを拒否し、法に従うことを選択する。ソクラテスに言い渡された死刑判決が不正であると同時に、判決

          法と正義と浜辺美波

          「小さな学校」

          近年、学力観の変容が明示的なものとなっている。日本(あるいはアジア)の児童・生徒が答えや解き方が一つに定まる「定型的問題」を解くことに卓越する一方で、解き方が一つに定まらない「非定型的問題」を解くこと、すなわち「概念的理解」において劣後していることが指摘された。知識技能型学習観から理解志向型学習観への転換は学習指導要領においては「主体的・対話的で深い学び」という文言に表れ、教育現場では一斉授業からアクティブラーニングへの転換という形で顕在化している。知識や技能といったものの相

          学術会議任命拒否問題を政治哲学的に考察する

          菅総理が学術会議が推薦した会員候補のうち6名の任命を拒否してから、1ヶ月以上が経った。学術会議側や野党はこの措置に不満を持ち、再三「任命拒否の理由」を説明するよう求めているが、菅総理は「個別の人事については答えられない」と一向に理由を語らない。首相が任命を拒否すること自体は合法ではあるものの、理由が明かされないのであれば本件が適切であったか否かを議論することすら出来ない。このような態度を取る政権とは対話は成立しないのだろうか。 この問題を理解するには、すなわち「理由は説明し

          学術会議任命拒否問題を政治哲学的に考察する

          【考察】『ハーモニー』伊藤計劃

          胸の膨らみと世界のあり方についての思春期女子のよくある悩みを聞きながら今日も酒がうまい。 【以外ネタバレを含む】 "Ghost in the machine"とは、デカルトの人間観を揶揄したギルバート・ライルの言葉だ。「心は身体の中にありながら身体を支配する」とする機械論的な心身二元論に対して、「そのような考え方では、我々の自意識について『機械の中に幽霊が住んでいる』としなければ説明がつかない」と批判する。 「機械の中の幽霊」は「シュレディンガーの猫」と同じ運命を辿る。すな

          【考察】『ハーモニー』伊藤計劃

          コロナ・ショックを受けて考えるべきこと

          新型コロナウイルスを巡る一連の騒動は、人間や国家、国際社会が持つ様々な性質を炙り出していると思う。一介の大学院生として、このような時にこそ考えるべきこと、特に多くの人々が見落としていそうなことを、このタイミングでまとめておくべきだと考えた。 端的に言えば、人命が脅かされている今現在感じている危機感・焦燥感を、目立つ人たち(政治家や公務員など)への憤りではなく、社会をどう変えていけばいいかという公共政策的思考に繋げていくべきだという話だ。 特に、危機対応時に直面する困難やジ

          コロナ・ショックを受けて考えるべきこと