睡眠負債おじさん
睡眠負債という言葉をご存じだろうか?
睡眠負債とは睡眠学の権威である柳沢教授がよく用いる言葉である。柳沢教授によれば、日本人は世界一の睡眠不足大国であり、多くの人が睡眠負債を抱えて相当頭も体も弱っている状態なのに、それに気が付かずに日々暮らしているとのことだ。
睡眠負債の影響は我々が思っている以上に大きく、1時間の睡眠不足が10~11日続けば、人と脳は徹夜明けのような状態までボロボロになってしまうそうだ。4時間睡眠など極端に短い睡眠時間の場合、わずか3~4日程度で徹夜状態まで頭の回転が弱ってしまうらしい。
柳沢教授によれば遺伝的なショートスリーパーを除く一般人は平均すると7~7.5時間程度の睡眠が必須であり、それより少なくなれば睡眠負債が溜まっていってしまうとのことだ。俺はショートリーパーだから大丈夫だな!と安心している人々も柳沢教授はぶった切っており、遺伝的ショートスリーパーは本当に少なくて、自称ショートスリーパーの99%はただの寝不足人間だと断言した。自称ショートスリーパーの人々も徹夜明け状態で暮らしていただけのようだ。
また週末の寝だめについても教授は否定的であり、それをやると睡眠リズムが崩れ月曜日の朝に非常にしんどい思いをするらしい。月曜日の朝の不調は仕事がイヤだというのもあるが、週末の寝だめも大きな要因なようである。さらに教授によると、睡眠は負債は溜まれど貯蓄はできないので、週末に過剰に寝たからと言って翌日に短時間睡眠でも大丈夫というわけではないようだ。
柳沢教授曰く、睡眠不足の悪影響は多岐にわたるが、中でも興味深い症状として挙げたのが『睡眠負債が溜まると人は嫌な奴になる』ということであった。教授はアメリカを例に出し、サマータイムの切り替え日、つまり国民みながそれまでよりも1時間早く起きることになり睡眠不足になりやすい日はネット上で行われるドネーション、寄付金の金額が明らかに低下するというのである。人は寝不足になると利他的な行為が取りづらくなってしまうのだ。学校や職場でいつも感じの悪いあの人も実は寝不足で徹夜明け酩酊状態になっているのかもしれない。
柳沢教授によれば睡眠負債は溜まった状態がデフォルトになってしまうと中々おかしくなっていることや嫌な奴になっていることが自覚できないそうだ。もしかすると自分はなんて嫌な奴なんだ……と悩んでいる人の中には、ただ単に寝不足なだけの人が沢山いるのかもしれない。
過去に体力マンの持つ3つの能力の一つに回復力を上げたが、いつも元気に活動できる体力マンの多くは睡眠を十分に取っていることが多い。彼らが元気でいられるのは、睡眠に関する問題を抱えておらず、むしろどこでもいつでも寝られる睡眠力のたまものなのだ。体力がなくてしょっちゅう風邪をひくタイプの人間は横になる時間は長くてもよく眠れていない人が多い。
教授は失われた30年の大きな要因の一つに睡眠不足があるのではないか?とまで述べていた。なぜなら近年の日本人は世界中で最も睡眠時間の短い、睡眠負債大国だからである。国民の多くが意識朦朧とした状態で日々仕事をしているのだから生産性もテンションも上がるはずがなかったのだ。中国や韓国も睡眠時間が短い。東アジア人は夜型人間が多く睡眠時間が短くなりやすい傾向が強いと言われている。
柳沢教授の発信する睡眠学の情報を調べればしらべるほど筆者は戦慄した。なぜなら筆者は以前の記事にも書いたとおり、子供が生まれてからもうずっと6時間睡眠を基本として生きてきたからである。もう何年も知らず知らずのうちに徹夜状態の脳みそで嫌なヤツになって日々の生活を送っていたのだ。自信満々に育児をしながら6時間寝るためには!という記事を書いたが、6時間じゃダメだったのである。
そこで筆者は生活を改めて、23時には布団に入る7時間睡眠生活を1週間ほど続けてみた。その結果、自身の心と体の変化に大きな驚きを得ることになった。
まず最初に感じたのが精神的な健康である。健全な精神は健全な睡眠に宿る。朝起きて襲ってくる謎の吐き気が止まったのである。毎朝子供にタックルされて目を覚ましてから、洗面台の前で3分ほどめまいや吐き気と戦っていたあの地獄の時間がなくなったのである。正確には7時間睡眠2日目あたりから一気に改善した。何年も続いていた眩暈は身体からのSOSだったのだ。コーヒーで誤魔化して生活するのは大変な誤りであった。
次に感じたのが肩こりや体の張りの改善だ。以前はちょっと子供と公園で凧揚げをしただけで肉離れを起こすぐらい筋肉が張っていたが、首筋のコリも含めかなり軽くなった。睡眠時間が5時間を切り出すと発生するまぶたの痙攣やアゴの痛みなどなどから考えても、睡眠負債が溜まると筋肉は無駄に力んでしまうことは間違いなさそうである。
また文章を書く速度がかなり向上した。ここ最近はnoteの記事を書いたり仕事でExcelをカタカタしてVlookup関数で資料を作ったりするのにかなりの時間を要していたが、7時間睡眠生活3日目あたりから明らかに頭が回るようになってきた。柳沢教授の言う通りいつのまにか徹夜明け状態の脳で生活していたらしい。全く自覚症状がなかったのが恐ろしい。
さらにコーヒーを飲む量と間食をする回数が明らかに低下した。以前は仕事中に度々コーヒーとお菓子を摂取し、帰宅後も寝る前に夕食の残り物をモリモリ食べたりしていたのであるが、7時間睡眠を開始してからコーヒーも朝ぐらいしか飲まなくてもよくなり、当然セットで食べていたお菓子も控えることが出来た。夜も23時には寝るので夜食を食べることもなくなった。
柳沢教授の格言に『寝る子は育つ、寝ない大人は横に育つ』というものがある。睡眠負債が溜まると人は満腹中枢がおかしくなって過食してしまうらしい。話半分に聞いていたが今回の経験からこの格言は間違いないことがわかった。ダイエットで最も大切なことは寝ることだったのである。
そして最後に、以前よりもイライラすることが少なくなった。嫌なヤツから脱却できたのである。大阪朝の過酷な通勤電車椅子取りゲーム、ツイッターに夢中になっていた一瞬のスキを突かれて目の前の席が奪取されたとしても、以前のようにチクショウ!と思わなくなった。まあ立ったたままでいいか、と広い心で思えるようになったのだ。以前であればスラムダンクのリバウンド争いをする桜木花道のように席を奪うことに必死になっていたが、そういったイラつきがすっとなくなったのだ。
睡眠学の権威、柳沢教授の言うことは正しかった。脳を持つ生物で睡眠をしないものはいない。7時間睡眠は睡眠は人間が健康ですこやかに生きるために必須条件だったのである。
しかし物事には全て裏と表、陰と陽がある。一見いいこと尽くめに思えた7時間睡眠であったが、実際に生活を送ってみてなぜ多くの人が睡眠不足になってまで寝ずに夜起きているのかを思い知ることになった。なぜ睡眠はこれほどまで軽視されるようになったのか?なぜ世の中でこれほどにも睡眠不足で生活している人が多いのか?
7時間睡眠生活は現代人にはあまりに”過酷”だったのである。
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