トイレで叱られた
あれは数年前、初めてひとりで行った老舗ライブハウスでのことだ。
開演までにはまだ時間があり、ドリンクを注文する前にお手洗いに行くことにした。
個室は3つあった。
一番手前はあいているようだけれど、入っているようでもあり、念のため2度ノックをして、耳をすませて確認し、そーっとドアを開けた。
もちろん中に人はおらず、入ることにした。
ところが、内側の鍵が引っかかり気味で、うまくかからない。
だから外から見た使用中のサインが、中途半端だったんだ。
少し力をこめてロックし、用を足した。
そして立ち上がった時だった。
カツカツカツ!というヒールの音が近づき、ちょっとまずいんじゃない?と思った瞬間、突然ドアがガバッと開いた。
幸い身なりを(ほぼ)整えた後だったことと、外開きのドアがすぐ閉じられて事なきを得た。
が!しかし、事件はそれで終わらなかった。
外側から、叫ぶような声でその女性に怒られた。
「ちょっと!鍵かかってないじゃないですか!
私、2回ノックしましたよね!
私はノックもしないでドアを開けるような人じゃありません!」と。
ドアを隔てて、外側から怒る女性と、内側でポカーンの私。
で…、え?悪いのは私?
そこで、
「私は鍵をかけないでトイレに入るような人じゃありません!
思い切り引っ張らなければ開かなかったと思いますよ。
それに、ノック1回もしてませんし」と・・・
反論したかったが、実際はポカーンのまま立ち尽くしていたと思う。
ドア越しの言い争いも変だし、何よりこれからライブというのに怒るのは嫌だった。
恐る恐るドアを開けると、洗面所の角で壁に向かって立っている女性がいた。
おしゃれなファッションに身を包んだ女性だった。
面と向かって怒られるのは嫌だったので、急いで手を洗って出てきた。
ライブの前というのに残念だなと思ったけれど、始まってしまえばステージとの一体感で、すっかり楽しむことができたのは、よかった。
☆
この数日後、年上の友人にこの話をしたことがある。
笑ってくれるか、一緒に怒ってくれるかと期待したのだけれど、
「それはミタライが悪いよ」と言われた。
ちょっと予想外だった。
でも、友人はその場にいたわけじゃないし、人の話を受け止めるって難しいことなのかもしれないなと、もう一つのことを学んだ出来事でもあった。
☆
雨の週末。
エッセイの下書きを整理している。
この原稿は世に出せないから捨てようかと思ったけれど、noteに書かせていただくことに。
(結局世に出してるやーん)
不快な思いをさせてしまったら、お許しください。
また楽しいエッセイを書いてお返しします。
もしもあなたの心が動いたら、サポートいただけると嬉しいです。 書き手よし、読み手よし、noteよし、そんな三方よしのために使わせていただきます。