巨女ノ国 ~#008~

【お金に目がない拝金主義の五人目が、珍しく「心」なんて言葉を持ち出したものだから、皆少し驚きました。】

一人目「確かにな。この村の者たちは臆病すぎる。やれ自己責任だなんだという一方で、この村のしきたりや風土から離れて生きることを恐れているんだ。巨女ノ国は遥か東方にあるというが、それだって行こうと思えば行けるはずなんだ。小人だから時間はかかりそうだけどな。」

三人目「移動手段は、小人の村自慢のドローンがあるから、それに皆で乗っていけばいいさ。どのくらいかかるか想像もつかないが、太陽光で充電できるシステムもあるし、予備のバッテリーを持っていけばなんとかなるだろう。」

二人目「おう。こんな時こそ、テクノロジーが発達していて助かる。最初は”ドローンなんて気持ち悪い”って言われてなかなか普及しなかったけどな。」

三人目「確かに。”*キモズム理論”ってやつだな。キモズムの溝を乗り越えたのは、我々小人が乗れるようなサイズのものができて、利便性が一気に増したことが原因だよな。今まで見たことないような空撮映像が撮れるといった利便性も人々の関心を惹きつけることはできたけれど、やはり”物が自由に運べる”に加えて、”自分たちが乗れる”ということが普及への一番の引き金だったよな。」

四人目「僕は高いところは苦手だけどね。」

五人目「下を見るから怖いんだ。真っすぐ先、はるか遠くを見続ければ高さなんて怖くなくなるさ。バンジージャンプと同じ原理だよ。・・それにしても、ドローンに乗ってどこまでも行けるようになったのに、相変わらず小人の村を出ようとしないのはこの村の閉鎖的なところだよな。他にどんな世界が広がっているのか、見たくはないのかな?」

 五人は、村人たちが優れた技術を持っているのに、それを活かして外に目を向けようとしないことが不思議だったのです。

【注釈】

*キモズム理論・・マーケティング理論「キャズム」理論を元にGOROman氏が2013年に発想したもの。”キャズムとは、「キモい」と感じる溝・谷のことであり、すなわち「キモズム」だった”・”新技術は滑稽かつキモく見える。便利とキモいの間にある溝。これが「キモズム」。キモいと思う人より便利という人が増えた場合にこの溝は埋まる。"(出典:GOROman「ミライのつくり方202-2045」星海社 2018)

1994年頃はパソコンが一般的な人々に普及しておらず、パソコンを使っている人は「特別な人」だった。その頃は「パソコンやっていそう、なんか気持ち悪い」という言葉が女子から発せられることもあったそうだ。しかしそれから5,6年経ったらみんなパソコンを使っている。もう「キモい」なんて言う人はいない。キモズムを越えて、パソコンは私たちの日常に便利で必要不可欠なものとしてやっと認められ、受け入れられたのだ。

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