20230522

久しぶりの朝帰りだった。
頭痛が少しずつ広がっていく感覚、頭が重い。だが体と目はなんだか冴えている気がした。日差しが目に染みるほど眩しい。青い空が、私の頭の中の曇りを嘲笑うかのように広がっている。皮肉なものだ。

新宿歌舞伎町から身をこちら側へ戻した。
午前五時の下り電車。かたんことんと揺れる列車の中は、俯いている人ばかり。生きているのか死んでいるのか。そのどちらでもないのか。


18歳になり足を踏み入れた歌舞伎町。
家からあまり遠くないということもあり、新宿に対してあまり怖いという印象を持ったことのない。ただ煌びやかで魅惑の場所だと思っていた。
飲みに行くことも飲みに来てもらうこともあった。
楽しい思い出も惨めな思い出もある。ここでしか得られなかったものもあると信じたいが、きっとそれは生きるために絶対的に必要ないものだったはずだ。だが、その全てが私の中で今でも綺麗な思い出として残っている。再現VTRみたいに細切れにしか思い出せない綺麗な思い出。

私は23歳になった。歌舞伎町を離れて1年半になる。
今日久しぶりに新宿に飲みに行った。
俗世から離れたものたちが持論を振りかざして小さな世界の小さなお店の中でせっせと働いている。ここが異常とも正常とも考えない。まず考えることを忘れてしまう。まるで千と千尋の神隠しみたいな世界なのだ。
自分の名前はそのうち忘れてしまう。両親の顔も昔つるんでいた仲間の顔も名前も。どうでも良くなる不思議な世界。一生がこの街に吸い取られていく。溶けていく。
私はこの世界から逃げ出した千尋。両親はこの中にいないとわかって帰って来れた。だから豚は今も嫌い。やっぱりビーフかポークじゃないと。


私に信仰はない。自分を測られるタイミングでしか、神様と祈る場面はない。ただ、昔から、いつでも自分の頭上で神は私のことを見てくれていると思う。平凡な私だけの神様。そんな風に思っている。
24歳になった。もう一度この街に戻ることになるかもしれない。
昔とは違う、私は湯婆婆としてこの街に戻ってきたのだ。あの頃の千尋はこの街の妖気に全て吸い取られてばかりだった。今度は私が吸い取る番だ。

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