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軍荼利明王よ。瑪瑙色の炎で四煩悩を焼き尽くし賜へ。

軍荼利明王は「五大明王」の一尊です。
・不動明王(中央) 黄・黄金色 「हां」*
・降三世明王(東方) 緑・青色 「हूं」
軍荼利明王(南方) 紅・赤色 हुं
・大威徳明王(西方) 透明・白色 「ह्रीः」
・金剛夜叉明王(北方) 紫・黒色 「हूं」
*色は光明、「」内は種字

梵名:クンダリー(とぐろを巻く者)
一面八臂で大瞋印を結び、百蓮華が両足を受ける。頭には髑髏を掲げ、四肢には蛇を纏い付かせている。特に持ち物は説かれていないが宝輪などを持たされる。 梵名の“クンダ”が水器や瓶を意味し“リ”が止める(蓋)の意味となる事となり、これがインド神話の不死の霊薬アムリタ(甘露)を入れる瓶と考えられた事から甘露軍荼利尊とも呼ばれる。
五大明王としては軍荼利夜叉明王とも呼ばれ、宝生如来の化身として南方に配される。真言はオン・アミリティ・ウン・パッタ(オーン・不死の者よ、フーン・パット)

出典 : 五大明王 - アニヲタWiki(仮)

軍荼利明王としての姿形は、一面三眼八臂(3つの眼に8本の手)で胸前で大瞋印を結び、手首足首などに「我痴、我見、我慢、我愛」という四煩悩を表す蛇が絡み付いています。また、其々の手には金剛杵、金剛鈎、三叉戟、輪、羂索などの武器を携えています。

蛇は執念深い生き物として煩悩の象徴とされており、軍荼利明王は身体に絡みつく蛇を退治するように人々を煩悩から解放します。一方で蛇自身の毒を利用し、毒を以て毒を制するように人々を災難や災厄から加護します。

調伏、息災、増益など様々な功徳があり、身体において五大明王は五臓六腑の守り本尊でもあるので、軍荼利明王は特に心臓を守護すると言われています。

軍荼利明王の護符や懐中仏などを身に付けることによって怨敵調伏や災難消除の功徳を得られ、自分に有害な人や負の影響を与える人を退散させ、幸せな人間関係を構築させる手助けになる可能性を秘めているとされています。

このように軍荼利明王は人々の内面に対しては煩悩退散の働き、外向きに対しては厄除けに働く、内と外、両方に対して働きかける仏尊となります。


四根本煩悩(四煩悩)とは、
1.我痴…自分の本当の姿を知らないこと。無知。

己れの実態に愚かであること。「痴」は無明のことで、空、無常、無我の真理に明らかでないことを表します。

2.我見…自分について誤った気持ちを持つこと。

本当は多くの縁の力に支えられている自分であるのに、それが分からず、虚偽の自画像を構画し、固定化し、実体化して、それに拘り続けます。

3.我慢…自慢、思い上がり。驕り高ぶること。

慢心のことです。他と比較して、自分を何とか一歩でも高く意識しようとして、他を見下そうとします。

4.我愛…自惚れ。自身に囚われて執着すること。

貪欲のことで、盲目的な自我愛であります。理由も理屈もなく、ただひたすらに己れを愛し続ける心です。

出典 : 四煩悩について 清森義行のブログ


以下は余談となります。


パールヴァティー女神はシヴァ神妃の最も代表的な女神でしょう。ドゥルガー女神とカーリー女神もシヴァ神妃として扱われますが、彼女らもまたパールヴァティーの変身であると言われています。

流れとしては、最初のシヴァ神妃としてサティー女神がいて、彼女の生まれ変わりがパールヴァティー女神、そのパールヴァティー女神の一側面として戦闘に特化し顕現したのがドゥルガー女神、そして更に魔を徹底的に殲滅させる存在として誕生したのがカーリー女神なのだと思います。

ヒンドゥーに於いて神との合一を目指す重要な修行法となっているのが“ヨーガ”であるが、シヴァ神は5世紀~13世紀にかけて発展させられた、よりヒンドゥー化したヨーガである“ハタ・ヨーガ”に於ける理想の修行者=その行法の体現者であるとも捉えられた。

ヨーガに於いて目覚めさせられる潜在意識=チャクラを螺旋を描き上昇する蛇を“クンダリニー”と呼び、これを更に女神の名としても準えた。 そして、このクンダリニーはパールヴァティーの異名であり、この力を女性原理を示す“シャクティ”(性力)と呼び、これも同じくパールヴァティーの異名として扱われる。

仏教では西蔵密教の秘儀となり、日本でも軍荼利明王の姿としてカリカチュアした概念が伝わる。

出典 : シヴァ神妃 - アニヲタWiki(仮)

神話伝承にて、シヴァ神がハタ・ヨーガの神秘をパールヴァティー女神にこっそり伝授していたところ、一匹の魚がその神秘全てを聞いてしまいます。シヴァ神は、その魚に慈悲を掛けてシッダに昇華させることにしました。後に、このシッダはマツイェーンドラナータと呼ばれるようになり、弟子のゴーラクシャナータにハタ・ヨーガの神秘全てを伝授します。ありのままに受け継いだゴーラクシャナータはハタ・ヨーガの創始者として名を残すことになります。このようにして、ハタ・ヨーガの神秘はシヴァ神から一匹の魚へ、そして一匹の魚から人々へと伝えられました。


ハタ・ヨーガの神秘とは、気息(プラーナーヤーマ)を用いて生命エネルギーを調節し、クンダリニーという蛇の形をとって脊椎の最下部に潜んでいる性的能力(シャクティ)を覚醒させ、エネルギーの溜り場であるいくつかのチャクラを経由させながら脊椎沿いに上昇させて、頭頂にあるとされるシヴァ神の元へと到達させ、それによる至高の歓喜を得ることだと考えられています。

クンダリニーとは、会陰部あたりにあるムーラーダーラ・チャクラ(第1チャクラ)に宿る性的能力(シャクティ)のことで、蛇の形をとってとぐろを巻いているとされています。ヨーガを修行しその技術体系を修める者は、とぐろを巻いた蛇(クンダリニー)を脊椎中のスシュムナー管を伝って上昇させて、五つのチャクラを経て頭頂のサハスラーラ・チャクラ(第7チャクラ)に至らせることができると言われています。

シャクティ(शक्ति)とは、元来「性的能力」を意味する女性名詞ですが、ヒンドゥー教やインド哲学における「宇宙の根理」というように、種々の哲学的概念を意味する語としても用いられるようになりました。「性的能力」が地母神信仰と習合した際、シャクティという概念そのものが神格化されシヴァ神妃全体として礼拝されるようになります。シャクティは愛情の濃やかな献身的な妻の化身とされ、パールヴァティー女神もサティー女神もシャクティであり、またシヴァ神妃の恐怖面を表わしたドゥルガー女神やカーリー女神もシャクティで礼拝されています。よって、クンダリニーという蛇の形をしたシャクティ(性的能力)も、シヴァ神妃のシャクティ(女神)と同一視され神格化される事となります。


軍荼利明王の「軍荼利」はサンスクリット語の Kuṇḍalī の音写語であり、クンダリニーはヒンドゥー教の女神でシャクティを表しています。ハタ・ヨーガのクンダリニーの起源である女神が仏教に取り入れられた際に、日本に伝わる途中で女神から仏尊の軍荼利明王に変化したのかもしれません。

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