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元恋人の再会

中学生のころから松たか子の音楽が好き。
少し大人でさらりとした恋愛の歌が多くて、恋も愛も知らないうちから憧れた。

お気に入りの歌の中に「リユニオン」という曲がある。

おろしたてのミュールで向かうのは
あの人が待っているリストランテ
五年ぶりの再会に そわそわと急ぎ足

松たか子「リユニオン」

5年前に別れた恋人に会いに行く女性の歌。
5年も経つと、あんなにつらかった別れもちゃんと過去のものになる。

ギンガムの青いシャツ来た彼が
差し出した右の手と握手して
埋められた長い空白 やっと笑って話せる時がきた

松たか子「リユニオン」

傷つけあった日々も、未熟だった自分もちゃんと過去にして、
あの頃の自分、若かったよね、ごめんね、
そんな風に新しく笑いあえる大人に憧れる。
それができるのは、きっとちゃんと自分にも相手にも誠実に向き合った人だけだから。


5年付き合って別れた恋人がいた。
最後のほうはもうお互い、愛情があるのかどうかもよくわからなくなって、
別れ方がわからないから続いている、みたいな状態だった。

そのくせ、相手が別れを決めたとき、私はこの世の終わりくらい落ち込んだ。
当たり前に存在していると思って甘えてしまっていた相手だったから、未練たらたら、かなりの時間ひきずった。
感情に任せて連絡してしまったことも一度や二度ではなかったし、それで来てくれた彼の前で大泣きしたこともある。
ひどくみっともない失恋だった。

時間や距離に頼って少しずつ立ち直って、それから何人かと付き合った。
人と付き合って、相手と向き合う中で、ようやく、5年付き合った彼が自分にしてくれたこと、自分が不誠実だったところ、未熟だったところに、気が付くようになった。

付き合っていたころ、私は自分の気持ちで精いっぱいで、相手の気持ちに想像を膨らませる余裕なんてなかった。
二人の関係性を前に進めることは相手に任せっきりにして、そのくせ一丁前に「私はこれはしたくない」「まだわからないからもっと待っていてほしい」そんな文句ばかりを口にしていた。

他者と向き合う中で、彼に対する恋愛感情や未練はすーっと消えて。

あの人を、こんな悲しい気持ちにさせていたのだろうか。
あの時の私、本当に酷かったな。

謝りたいな。今、ようやく気付いたよって、伝えたいな。

純粋にその気持ちだけが心に残るようになっていった。


思い切って、連絡を取った。
「飲みに行かない? フラットな気持ちでいろいろ話したくて」

連絡はちゃんと返ってきて、久々に会うことになった。

2年ぶりに会った彼は、付き合っていたころと同じ服を着ていた。
なんだ変わってないじゃんと思ったけれど、話をすれば、ちゃんといろんな経験を積んだ大人になっていて。

「あのころごめんね、私本当に酷かったよね」
そんな言葉を口にできるようになった私もまた、多分この2年で少しは大人になっていた。

お互いにもう1mmも恋愛感情はなくて、この先、寄りを戻すことなんて絶対ない。

その前提を共有した上で、
あの頃こんなことあったねとか、別れてそのあとどうしていたのとか、
へーそうなんだ、君昔からそういうところあるよねとか、
付き合っていたからこそ分かり合える相手と、
笑いながら話せる時間は、ものすごく楽しくて嬉しくて幸せだった。


「大人になるのも悪くないね」と
子供のような瞳をして乾杯した
二度と恋人に戻らず 
新しい友だちになれそうね 

松たか子「リユニオン」


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