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BSプレミアムシネマお薦め㉒『ザ・フライ』

さて、今回お勧めする映画は1986年のアメリカ映画『ザ・フライ』です。もともと1958年に公開されたホラー映画(というより当時は「恐怖映画」という言い方がされていた)の『ハエ男の恐怖』という古典的作品のリメイクなのですが、そのリメイク版の監督を務めたのが、当時はまだ一部のB級映画マニアの間でしか知られていなかったデヴィット・クローネンバーグです。ここでクローネンバーグを起用した映画会社もすごいし、クローネンバーグもその期待にしっかりと答え、あくまでメジャー作品としての枠は守りながらも、クローネンバーグらしさ、言い換えればグロさと生々しさと肉体(というより肉)へのこだわりをしっかりと出しています。

ストーリーは、というと、これを言ってもネタバレにはならないでしょうが(なぜならホラー映画の魅力はストーリー自体ではないので)、物質転送装置を発明した天才(というよりもマッド?)科学者が、自らを実験台としたところ、同じ装置の中にハエが一匹紛れ込んでいて、転送後、そのハエと融合してしまう、という話です。と、ストーリー勝負というよりもアイデア勝負的な作品なのですが(実際1958年版はそうだった)クローネンバーグは独特のいやらしさで、これをより生々しいホラーへと仕上げていきます。例えばセックスの描写だったり、唾液の描写だったり、体毛の描写だったり、血肉の描写だったりです。そしてたしかにグロいのですが、同時にある種の美しさもあるというか、官能的でもあるのが、さらに言えばユーモアさえもあるのがこの監督の作品の特徴です。今回も、ハンバーガーやステーキの話はある意味ユーモアですし、傷口を巡る描写は官能的でもあったりします。そしてその官能的でもあると同時にグロテスクな存在を見事に演じているのが、主演のジェフ・ゴールドブラムです。この人ジュラシックパークの博士役で有名ですが、なんというか動物的というか爬虫類的というか独特の顔をしています。またこの映画では鍛え上げられた上半身を披露していますが、しかし、それも筋肉質ではあるがある種病的な感じというなんともいえない体つきをしています。そしてヒロイン役のジーナ・デイヴィスも知性とエロティックさというグロさと官能との関係にも通じる二面性を見事に演じています(ちなみにゴシップ情報的にはこの二人後に結婚し離婚しているとのこと)。もちろん、今見ると、いわゆるCGがまだなかったこの時代のことだから、いかにもセットだな、いかにも作り物だな、と感じる部分はあるのですが、しかし、作り物だからこその生々しさというのも同時に感じるはずです。このあたり、『遊星からの物体X』や『エイリアン』などにも通じるものでしょう。

ということでグロテスクが苦手な人には敢えてお勧めしませんが、一見の価値はある映画となっています。お勧めです。

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