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ユニゾンのアルバムで黒歴史と呼ばれた作品を聞いて思ったこと

皆さんは、UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾン・スクウェア・ガーデン)なるロックバンドを知っていますか。略して「ユニゾン」「USG」と呼ばれています。
ユニゾンは、ボーカリスト兼ギタリストの斎藤宏介(さいとうこうすけ)、ベーシストの田淵智也(たぶちともや)、ドラマーの鈴木貴雄(すずきたかお)による、3人組バンドです。日本語と英語で書かれた歌詞のリズムがおもしろい歌唱で、ポップス曲調に乗せて、ギターロックを奏でる作風です。

UNISON SQUARE GARDEN、2023年の写真。
写真左から田淵智也、斎藤宏介、鈴木貴雄。

2004年に、斎藤が同じ高校にいた田淵と鈴木を誘って、バンドを結成しました。ライブ活動を重ねて、2008年にメジャーデビューしました。『オリオンをなぞる』、『シュガーソングとビターステップ』、『君の瞳に恋してない』、『Phantom Joke』など、数々の代表曲を広めました。
2023年に、ユニゾンはデビュー15周年を迎えて、2024年7月24日にはバンド結成20周年を迎えます。メンバー交代がなく、同じメンバーで活動を続けている中堅バンドとして、邦楽ロック界で活躍しています。

ブリはユニゾンの楽曲を無意識に覚えていました。インターネット上で聞いたことがありました。推しバンドの対バンから興味を持ち、今までの楽曲を聞いて、ブリの推しバンドの1組となりました。ブリと同世代で活躍するバンドなので、応援しています。
ユニゾンのアルバムを聞いていたなかで、無意識に覚えていたメロディーは、『メッセンジャーフロム全世界』という楽曲でした。後にそれが収録されたアルバムを見つけました。2010年に発売された、『JET CO.』(ジェットコー)というアルバムの一曲でした。
純白の遊園地のジオラマが置かれたジャケットが、おもしろそうな世界観に見えて、期待を持ちました。楽しそうなジャケットが書かれた一方で、ユニゾンのインタビューを振り返ると、このアルバムは彼らにとって、思い出すのが辛い作品として考えていました。メンバーにとって、「黒歴史」の作品だと呼ばれています。忘れたいほどの辛い思い出があります。ユニゾンは、自身のライブコンサートで、このアルバム収録曲をあまりやらない傾向です。

『JET CO.』(2010年)
ユニゾンの2枚目のアルバム。

「黒歴史」だと呼ばれたこのアルバムは、メンバーの不祥事、非常識な表現があったなど、深刻な問題は一切ないのでご安心ください。アルバムの内容は、決してつまらないものではありません。ユニゾンファンからの感想は良いです。

「各楽曲の時間が長すぎず、軽く聞きやすい」
「名曲があるから、もっとライブで演奏してほしい」
「ギターリフが素晴らしい楽曲が集まっている」

アルバムに対するユニゾンファンからの反応

この記事では、ブリがユニゾンの『JET CO.』を聞いて、思ったこと、おもしろかったこと、なぜユニゾン自身がこのアルバムに触れられたくないのか、まとめました。決してアルバムをおもしろおかしく書く話ではありません。このアルバムにまつわる背景を知って、驚きました。ユニゾンの歴史を感じる名盤を紹介します。




△コーヒーカップにあふれる売れない苦悩と焦燥感

今日で名の知れたバンドであるユニゾンですが、実はデビュー当時は全く売れずに、苦悩の日々がありました。ユニゾンがデビューした2000年代後半、彼らと同世代である邦楽ロックバンドは、多くのライバルたちがあふれていました。王道ギターロック、電子音を混ぜてラップロックを響かせるバンド、今日の邦楽ロック界と同じように、多様なジャンルがひしめき合う状況でした。キーボードやDJが演奏する前衛的ロックがある一方、まだギターが中心となったロック曲調が多かった傾向です。

ユニゾンも、彼らと同世代のバンドたちも、邦楽界で起きていたアイドルブームに押されて、存在が隠れていました。2000年代後半から、作詞家の秋元康がプロデュースした、アイドルグループAKB48のブームが、社会現象を起こしていました。さらに、2000年代前半から人気だったジャニーズ系、アイドルグループの「嵐」の連続ヒットにより、邦楽ロックバンドは目立たない状況でした。
一方で、高校生のバンドを描いたアニメ作品『けいおん!』がヒットして、アニメにまつわる場所や楽器がブームになっていました。アニメの主題歌CDと音楽配信がミリオンセラーになりました。ニッチな存在と思われたアニメが幅広い人々に知れ渡り、作品からバンドに興味を持って、音楽活動を始めた人がいました。

2010年当時の邦楽ロック界の様子図。

今のようなSNS、動画サイト、音楽サブスクリプションサービスは、当時は発展途中でした。CDはミリオンセラーが生まれにくくなり、音楽はデジタル配信が始まったばかりでした。この頃のブリは、邦楽ロックにハマり始めていました。

デビューしたばかりのユニゾンは、なかなか楽曲が売れない日々を過ごしていました。一方で、彼らと同世代のバンドたちは知名度が上昇していました。back number、サカナクション、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、凛として時雨、彼らはユニゾンと近い世代のバンドたちです。ユニゾンは他バンドが売れている様子を見て、自分たちの音楽が売れない状況に焦燥感を抱えていました。そんな心境のなかで制作した2枚目のアルバムが『JET CO.』でした。制作中、メンバー間で重い雰囲気になっていきました。「売れない」現実が、斎藤たちの人間関係に溝ができていました。ライブコンサートでは、落ちこんだ気持ちを消化するために、楽しいほうへ向かうように活動していきました。


△外部プロデューサーの元できついメリーゴーランド

このアルバムに収録されたシングル曲は『cody beats』のみです。このシングル曲も、ライブコンサートで全然演奏されない、珍しいシングル曲です。
ユニゾンのアルバムで唯一、収録曲に一切タイアップが付いていません。今ではアニメ主題歌やCMで楽曲が使われているユニゾンですが、デビューしたばかりの彼らは全く注目度が低かったのです。
さらに、もう一つ初めてのことは、このアルバムの制作プロデューサーに、今は亡き作曲家、佐久間正英(さくままさひで)が担当していました。佐久間は過去に、BOOWY、JUDY AND MARY、THE BLUE HEARTS、GLAYなどの1990年代の偉大な邦楽ロックバンドたちのプロデューサー業を行っていました。そのバンドたちはユニゾンにとって、伝説の大先輩たちです。
2000年代は、1990年代とは違って、プロデューサーが制作を引っ張るような姿勢が薄くなりました。プロデューサーは作詞作曲に関わるのではなく、あくまでもメンバーにノウハウを与え、助言をする立場です。プロデューサーの有無に関係なく、バンド自身が楽曲を作り出す作業は変わりません。

ユニゾンのほとんどの楽曲は、ベーシストの田淵が作詞と作曲を担当しています。この時期の田淵は、作詞と作曲に非常に悩んでいました。「良い曲ができない」と、スランプ気味でした。ユニゾンのスタッフから、外部の作詞家と作曲家に依頼する提案が上がりました。しかし、ユニゾンは最後まで外部に頼らずに、自身で作詞作曲を完成させました。佐久間のもとで、制作したおかげで、投げ出さずに完成できました。
もしもユニゾンが、外部の作詞作曲家に依頼したり、プロデューサーの制作に投げ出してしまったら、本当にバンドの世界観を表現できずに、バンドの成長にならないと思います。大半のバンドの初期は、ノウハウがなく、スタッフに流れるまま、制作をしていました。バンドが経験を積んで、最終的にバンド自身がプロデュースできるようになります。バンドが成功するために、初期の経験値が重要です。ユニゾンは、この迷走期で後の飛躍につながったと思います。


△徹頭徹尾統一された聞きやすい観覧車

メンバー間の最悪の雰囲気、作詞作曲に四苦八苦していた田淵、厳しい状態であるなか、アルバムは楽しげな遊園地のジャケットで発表されました。ジャケットをよく見ると、写真真ん中には赤い風船があります。これは収録シングル曲『cody beats』のジャケットを意識したと思います。
アルバム名の由来について、田淵はこう語りました。意味深長な意味はなかったのです。

テーマパークのようなワクワクした感じを訴えたかった。タイトルはどうでもよかった。意味を無理やりつけてバンドを語るというのもあまり面白いとも思わない。

田淵智也、インタビューより(2010年)

アルバムの収録曲は、暗い内容ではなく、長調でバランスの良いギターロックを奏でた、統一感あるアルバムになっています。3人の安定した、ギターとベースとドラム演奏は、かっこいいです。各収録曲は2~4分程度の時間で、全体的に軽く聞ける感覚です。

UNISON SQUARE GARDEN『cody beats』(2009年)
ジャケットの赤い風船と白いベンチは、アルバムジャケットでも登場する。

歌詞を読んでいると、どの楽曲からも「憂いやしがらみを追い払って、目標を手にしていきたい」という思いがあります。少年の青臭い心境を分かりやすい言葉で描いたものが多いです。どのユニゾンの作品でも時々感じることですが、斎藤の爽やかな歌声で、反骨精神を比喩で表現した歌詞のギャップに驚かされます。アルバムのジャケットにある、観覧車、メリーゴーランド、コーヒーカップが収録曲の歌詞に登場します。

ユニゾンの歌詞である特徴が3つあります。
「四字熟語がほぼ必ず登場する」、「カタガナで言葉遊び」、「往年の名曲の引用」です。どのアルバムでも四字熟語が入っている歌詞が1曲あります。どの楽曲も必ずカタガナの言葉が入っています。ブリより年配の邦楽ロックファンだと反応する、邦楽の名曲の歌詞や題名が入った言葉が登場します。これらのこだわりがあって、聞きやすく、言葉がなじみやすい歌詞です。

アルバムの始まりとなる『メッセンジャーフロム全世界』は、2分で終わる短い楽曲です。イントロのギターリフが心地良く、ユニゾンのバランス良い演奏とノリの響きが良い言葉選びをアピールした歌詞です。自分からあふれるエナジーを叫ぶような、広い世界への憧れを感じます。

大さじと小さじの間の気持ちいいところをついていく
大さじと小さじの間の気持ちいいところって言ってるが

UNISON SQUARE GARDEN『メッセンジャーフロム全世界』(2010年)

少年少女のまっすぐな恋愛を描いたシングル曲『cody beats』は、もちろん素晴らしいですが、シングル曲に負けないアルバム曲が満載です。
繰り返す不運を嘆く比喩がこっけいで疾走感あるロック『コーヒーカップシンドローム』、終始ひらがなの歌詞で書かれた子供のおつかい冒険『チャイルドフッド・スーパーノヴァ』、最低限のアコースティック演奏で行きかう人々の模様を見せる『気まぐれ雑踏』、嫌悪と悔しさを尖ったベースで響かせる『キライ=キライ』、アルバム前半から楽しげな雰囲気があふれています。

アルバム後半はさらにテンションが上がります。ロケットの打ち上げカウントダウンから始まるダンサブルなロック『ライドオンタイム』、小刻みに鋭くドラムと重厚なギターを響かせるリズムが癖になる、世界中でいろんなことが起きていると歌うパンク『meet the world time』、ミドルテンポで春夏秋冬の失恋を描いた『夜が揺れている』、甘い恋愛とライブの空気を表したポップスロック『アイラブニージュー』、斎藤が低音域で歌う冬のミドルなロック『スノウアンサー』、最後に来る『23:25』(にじゅうさんじ、にじゅうごふん)は、ポップスロックに乗せて、乙女チックな比喩に、帰り道の切なさを感じます。

ブリはこのアルバムの斎藤の歌声を聞いて、今の彼と比べて、若いノリがある一方で、余裕のないような雰囲気が聞こえるような、荒い声に聞こえました。彼の歌声の特徴である、とことこ言葉を置いた、滑らかな高音域は相変わらずだと思いました。


△まとめると苦いジェットコースターだけど名曲満載

以上、ブリがユニゾンの『JET CO.』を100周も聞いて、思ったこと、アルバムにまつわる話をまとめました。メンバーの苦い思い出を別にして、アルバムを聞いていくと、歌声に荒さがありながらも、安定した演奏で、おもしろいリズムの楽曲を展開されていて、良いアルバムでした。
アルバムの各収録曲は2~4分程度で、短すぎず、長すぎない時間になっています。サビまでの早い曲展開が偶然にも、今日の音楽サブスクリプションサービスでよくある、タイムパフォーマンスが良い楽曲の傾向を先取りしています。
「ユニゾンはこういうバンド」だと、初めて聞かせるにはおすすめの作品です。アルバムを聞いた後に、この制作背景を知ると、アーティストの苦労に頭が下がります。「黒歴史」を乗り越え、次の作品でユニゾンはブレイクし始めます。苦しみの後には、成長と幸せが待っていると信じています。

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