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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三話 男女の境界線


 「あなたも何か話しかけようとしてた?」

こちらに振り向いてきた。

「えっ、ああ。そういうわけではないんだけど・・・」

いきなり話しかけられたものだから、咄嗟に反対のことを言ってしまう。

「そう、じゃあ」

歩き始めようとするのを

「やっぱり、待って!」

これまでの自分からじゃ想像もつかないくらい大きな声で呼び止める。

「僕、二年の滝川真。
陸上部にいるから、よろしく」

簡単な自己紹介から始める。

「滝川先輩ですね。自分に何か?」

軽く一礼してくれるも、表情は崩さない。

「もし、よかったら友達になってくれないかな。花森さんと話してみたいんだ」

「すぐには無理ですね。
まだ滝川先輩のことよく知らないですし、友達なんて作ってもしょうがないので」

きっぱりと断られる。

花森さんがこれほどまでに人と関わることを嫌うのはなぜなのか純粋に知りたくなった。

「理由は特にありません。
とにかく自分には関わらない方がいいです」

そう告げて行ってしまった。

「何なんだ。このモヤモヤが少しも晴れてくれないのは」

シャツを握りしめるしかできない。


落ち込んだまま体育館に入り、当然遅刻したことをこっぴどく叱られた。

「滝川くん、後輩が入ってきた先輩としての自覚を持ってもらわないと困るんですよ」

宮野先生が日誌をバンバン叩く。

「すみません」

何回も頭を下げて落ち着いてくれるまでじっくり待つ。

「もういいです。早く座りなさい」

怒りを通り越して呆れたようだ。一安心し、大人しく座る。

引用元:https://www.photo-ac.com/main/detail/23665645#goog_rewarded

「今日のLHRでは、学年全体で取り組みます。男女共同社会の実現に向けて活動している外部講師の今田先生をお呼びしました。お願いします」

講師紹介を終えてマイクを渡す。

「皆さん、こんにちは。男女共同社会の会代表の今田です。今日の内容はグループワークで、テーマは『男女の違い』についてです。男女混ぜた四人のグループに分かれて進めてください」

隣の友達に声をかけたり、仲のいい友達のところへ行ったりと散らばっていく。僕はどうしようかなと悩みながら歩いていると

「よお、真。まだ決まってない感じ?」

陸上部の同級生が声をかけてきたので、それに頷く。これで二人。そこへ

「まっことー!」

いきなり後ろからハグされる。そういうことをする相手は一人しかいない。

「わかってるよ」

肩に回された腕をやんわりとほどく。

あと一人必要なのだが、なかなか見つからない。
他のグループは着々とできて、どうやら僕のグループだけ三人組になりそうだ。

「滝川君たちのグループは仕方ないから、三人でやってください」

教員の声かけもあり、このメンバーで進める。


「まず、男女の違いって何だと思う?」

意見を出しやすいように、司会になる。

「そうだなあ。女子はかわいくて、男子はかっこいい!」

「私は男子はスポーツ、女子は料理ができる人が多いイメージかも」

次々と意見が出てくる。

「僕は、あんまり男子と女子に違いがあるって思わないんだけどな・・・。だって男女でも、できる人いるよな」

比較的、男子も女子も同じくらい仲がいい人が多いが故にそう感じている。

「ふふっ、そんなの一握りで珍しいだけだよね。例えばさ、ランドセル。男子は黒で女子は赤、それが普通だよ」

「そうだぜ、今までみんなそうやってきたんだし」

男子と女子には明確な違いはあると強く主張してくる。


「はい、そこまで。男子と女子の違いって何か話し合ってもらったけれど、多くの違いがあったと思います。その違いを大切にしてください。違うからこそ、尊重して関わっていかなければいけないんです」

人間性を尊重した付き合い方について熱弁する今田先生。

わかるようでわからない、そんな感情になる。


(これまでの当たり前は”当たり前”。じゃあ、『普通』って言葉もそうなのかな)


得体の知れないもやもやが胸の中にじわじわと広がっていく。


「ねえ、さっきの考え方、いつもの真らしくないよ。疲れてる?」

眉をひそめながら声をかける。

「そうかもしれないな。なんであんなこと言ったんだろう」

その感情に何か理由をつけて終わらせたかった。
だから、ふたをしてごまかした。

その様子を見て安心したのか

「だよね、そう思ってたよ」

満足したように大きく頷く。



そうしてLHRは終わり、時間があっという間に過ぎ去り、もう下校時間になった。

(今日は疲れてるから早めに寝よう)

そう心に決めて、靴を履いていく。

「滝川くん!今日、生徒会あるけど忘れてない?」

息を切らし、駆け寄ってきたのは僕が密かに尊敬している生徒会長の星崎碧(ほしざきあおい)先輩。

「あ、すみません。今日体調が悪くて休もうと思って。連絡遅れてすみません」

申し訳なさそうに謝る。

「そうだったんだ、体調大丈夫?
今日はそこまで大事な内容はないから大丈夫。ゆっくり休んで」

そう言って手を振って見送ってくれる。


その時、保健室では

「成井先生、前に話した件なんですけど、どう思いますか」

ストレッチしながら相談する。

「ああ、あの生徒ね。まだ今はそこまで突っこむべきじゃないのかもしれないから、ゆっくり見守っていきましょう」

紅茶を少しかき混ぜてから青野先生に渡す。

「そうですね」

ゆっくり頷いて受け取る。

「そういえば、今日の昼休みにいつも保健室に来る生徒から聞いた話があるの。中二の生徒でグループワークをやったらしくて、テーマが『男女の違い』を取り上げたらしいわ」

「どんな意見が出たのか気になるな。今度、滝川に聞こうかな」

たわいもない会話が続く。



ーーーコンコンーーー

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