連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十一話 さよなら今日
どこまでも青空が広がっていて眩しさに目を細める、そんな今日の朝。
「いつもよりも空が綺麗に見えるなあ」
通学途中で青空をふと見上げる。手を伸ばしてみたくなって手を空に向けて伸ばす。その手は何かを掴むことはできない。
「ふっ、だよな・・・」
自分の思いがけない行動に意表をつかれる。
「真!おはよう」
手を振りながら駆け足でやってくる。
「百合、どうした?そんな朝早く来るなんて」
「ちょっと、遅刻常習犯みたいな言い方しないでよ!たまにはちゃんと早起きできるってば。今日、英語の授業で当てられる日だからノート貸して!」
勢いよくお願いされる。
「はあ?そんなことのために早起きしたの。くだらなっ」
そう言うと頬を膨らませる。こうなったら意地がでも譲らないのが百合だ。
やれやれと言う表情で
「はい」
リュックの中から英語のノートをごそごそと探して渡す。すると、顔がパアッと明るくなり
「ありがとう」
無邪気に笑う。
「英語の授業って何時間目?」
「三時間目よ」
「じゃあ、三時間目が終わったら教室に取りに行くよ」
ノートを指さして、そう言ってそれぞれの教室へ向かう。
(英語の授業大丈夫かな)
そう心配しながらも時間は過ぎていき、あっという間に休み時間。休み時間になると、同級生たちは一斉に廊下へと足を向けていく。
先輩や後輩の教室に遊びに行ったり、先生へ質問しに行ったりと様々だ。その様子を眺めながらイヤホンで音楽を聴こうとイヤホンをつけながら廊下へ歩き出すが
「おい、あれ見ろよ!」
誰かの声が教室中、いや、廊下中にも響き渡る。その声にイヤホンをつける手を止める。
(何の騒ぎだ・・・?)
騒々しい状況に悪い予感がする。何があったのか知ろうと廊下に出ると、そこは人だかりで埋めつくされていた。
「やばくない?」
「あれ、誰なの?」
小さな会話がポツポツと始まる。でも、その場から動こうとする者は誰もいない。人だかりにあふれる廊下をかき分けて、窓際にたどり着く。
そこから見えた景色はとんでもないものだった。
本来は生徒が行くことはない屋上のフェンスを越えて、一人の生徒が立っている。
「なんだ、あれ・・・」
目の前の状況が全く読めない。でも、このままじゃいけない。身体はすぐさま動く。
必死に人混みをなんとかすり抜けて保健室に着く。
「青野先生!ゼエゼエ・・・。コホッコホッ」
息切れしながらむせる。
「どうしたんだ、そんなに血相変えて」
「人がいるんだよ、上に」
「は?」
目を丸くする。
「屋上って宮野先生が鍵を持ってましたよね」
「ああ、先日の朝の打ち合わせの時に最近、屋上の鍵が無くなったから改めて作ってもらっていて開けっぱなしにするって言ってたな・・・まさか」
予期せぬ事態に口を手で覆う。
「おい、滝川。誰かわかるか?その屋上にいる人」
「いや、顔ははっきり見えてないから正直わからないんです。ただ、その姿を窓から見ている人で廊下がごった返してます」
廊下を指差す。
「とにかく、すぐに向かおう。誰であれ何があったのか知る必要がある。滝川、職員室にいる成井先生を呼びに行ってくれ」
慎重に考え込みながら迅速な指示を出す。その指示に頷き、散らばる。
青野先生はごった返ししている生徒の間を縫うように駆け足で屋上に急ぐ。その途中で宮野先生とばったり会い、一緒に向かう。
「ねえ、もし生徒だったらどうするのよ。いやよ、この学校に悪い噂がたつのは」
爪を噛みながら、これからのことばかり案じている。
「そんなことより今のこと考えられないんですか」
自己中心的な思考を叱責する。思いもかけない口調に驚きながらもムッとする。
(はあ、はあ・・・。無事でいてくれ)
そう祈るようにぐんぐんとスピードを上げて一つ飛ばしに駆け上がる。そのまま、勢いよく扉を開けようとする。
ーーーガチャガチャガチャーーー
もう目の前なのに扉が開かない。
「くそっ!何かで開かないようにされてる」
必死に扉を何とかして開けようとする。それでも、扉は一向に開く気配がない。
「誰?」
扉の向こうから声がする。その声に気づき
「君の話を聞きたいんだ。君がどんなことに悩んでいるのか」
深呼吸してから話しかける。
「・・・」
反応はないようだ。
「ねえ、誰だか知らないけれど馬鹿なことはやめなさい!」
隣で宮野先生が大声を出す。
「・・・・・・。
そんな言葉しか出てこないんですね」
カタッと音をたてて扉の近くから離れていくように歩き出す。
「青野先生、成井先生呼んできた!」
階段を駆け上がる音が鳴り響き、滝川たちが合流する。
「青野先生、これは私の憶測かもしれませんが、おそらくあの子かもしれませんね・・・」
成井先生が息を切らしているのを隠すように顔を上げる。それに頷きながら
「滝川、ここから先は扉の向こうにいるあの子にとって君がいていい場所じゃないと思う」
「先生、知らなきゃいけない気がするんだ。それがどんなことだか今はわからないけれど、子供だからって止めようとしないでくれよ」
そこにいるのは中学生としての滝川真ではなく、一人の人間としての滝川真がそこに立っていた。
揺るぎない覚悟を聞いたのか
「わかった。今からこの扉を二人で体当たりして屋上に行く」
後ろに一歩、二歩、少しずつ下がっていく。
「せーの」
その合図でダッシュし、体当たりする。
ーーーカタッーーー
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