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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三十三話 なりたくても届かない

 「ともかく、榛名さんにも話を聞く必要がありますね」
滝川が目配せすると、花森が

「僕、行ってきます!」
榛名を呼びに駆け出していく。
それを待っている間、

「碧。榛名ってこの前、生徒会に取材依頼しに来た人だろ」
関谷がドカッとソファに座る。

「そう。つい昨日、個人的に取材受けたばかりだけど・・・」
星崎が顔を曇らせる。


「何かあったなら言えよ?」
心配してくれる関谷に

「ありがとう、でも大丈夫」
そう笑ってごまかす星崎。



ーーーバタンーーー



「連れて来ました」
その一言でドアの方に目をやると、榛名が目を泳がせながら立っている。

「えっと、どうして呼ばれたのかわからないんですけど」
全く身に覚えがないといった態度が気に障ったのか

「呆れましたね、身に覚えがないとは」
榛名を憐れむような目で見る月城。

「榛名さん。今回生徒会の劇について、まだ配役すら決まっていないのにどうしてリークしたの」
悲しげな表情で星崎が見つめる。

「だって、星崎会長にロミオ様以外何があるんですか」
ストレートな物言いをする榛名。

「まだ、そうと決まったわけじゃないからね。ともかくこれ以上混乱させないでもらえるかな」
滝川がいつにも増してきつめの口調で注意する。

それに不機嫌そうに頬を膨らませ、
「わかりました・・・」
淡々と返事をする榛名。

不穏な空気を残しながら、その日の生徒会はお開きとなった。



その頃、保健室に一人の女性が入ってくる。

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「久しぶりだね」
その女性に、そう語りかける青野先生。

「お久しぶりです、青野先生」
一礼してから、成井先生の方に身体を向け

「はじめまして、明日からスクールカウンセラーとして勤めることになりました雪井薫です。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶する。

「わたしは成井菫です。青野先生と同じく養護教諭をしています。よろしくね」
ふわっとした笑顔で同じように自己紹介する。

「早速ですが、明日の午後に風間百合さんのカウンセリングを行う予定です。それでー」

バッグから一冊のファイルを取り出して、パラパラとめくりながら確認する雪井先生。
その様子を青野先生がじっと見つめている。


(あれから、もう四年か・・・)


そんなことを考えていると

「青野先生、聞いていましたか?」
成井先生の一言で動揺してカップの珈琲をこぼす。
すぐさま、珈琲がこぼれた机を懸命に拭く成井先生。

「大丈夫ですか、青野先生」
雪井先生が声をかけてきたのを

「ああ、大丈夫」
無理やり平常心を作る。


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ーーーパラパラーーー



誰もいない図書室のなか、一人キリッとした、たたずまいで本を読んでいる生徒がいる。

「ロミオとジュリエットか・・・。わたしはきっとどっちにもなれない。でも、ならなきゃいけない・・・」
先程の出来事が頭によぎり、読み進めるページに手をとめ、胸をおさえる。

「本当、どうしてわたしはわたしでいられないんだろうな」

叶わないものばかり数えてはヒリヒリと胸が痛む。その時、ふと


『羨ましい。僕はそう思ってしまいます』



片山先生に言われた一言を思い出し、図書室のドアを思いっきり開けて飛び出す。



ーーードタドタドターーー


必死に向かった先は理科準備室。
ノックもせずにドアを開けると

「うおっ!」
よほど、びっくりしたのか椅子から片山先生が転げ落ち、尻餅をつく。


それに星崎は慌てて
「大丈夫ですか」
そばに駆け寄り、お互い椅子に向かい合わせになった。

「それで、星崎さん。どうかしましたか」
本題に入ろうとすると

「片山先生。もし、男性にも女性にもどっちにもなれない人がいたらどうしますか」
唇をキュッと結びながらも、表情はどこか寂しげの星崎。


「星崎さん。少し、私の話をしてもいいですか」そう言いながら窓の向こうに目をやる。


「僕は星が好きなんです。特に金星が好きで・・・。花には花言葉がありますよね。
それと同じように星にも星言葉というものがあるんです」

「金星の星言葉ってなんですか?」

「“愛“です。
相手に対しての愛と捉えがちなイメージですが、自分への“愛“という捉え方なんです。

高校生の頃、自分のことが嫌いだった時期がありました。その時の担任が金星のことを教えてくれて自分を好きになれたんです。

相手のことだけでなく、自分も好きになれる。そんな生き方ができたら素敵だと思いませんか」

くるりと星崎の方を向いて語る片山先生。

「わたしはどう望んでも自分になれない・・・。金星になりたくてもなれないんです」
片山先生の視線を逸らしてしまう星崎。

「星崎さんが今、どんなことに悩んでいるのか、わからないですが話はいつでも聞きますよ」
優しい口調のまま窓を閉める。


「ごめんなさい」
そう言って逃げるように去っていく星崎。


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