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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第八話 君の向こう側

引用元:https://onl.tw/A4TLqTJ

泣きながら出ていく花森にただならぬ雰囲気を感じたのか、近くにいた青野先生が

「何かありましたか」

小走りで宮野先生のそばに駆け寄る。

「花森さんに女子生徒として通すなら、それ相応の振る舞いをしなくてはいけない。それができないのならば”変だ”と」

私は悪くないと言わんばかりの瞳。その言葉を聞いた青野先生は顔色を変え、苛立ちが募ってゆく。

「宮野先生、花森の何を見てきたんですか?
花森の何を知っているんですか?
花森のためになると思ったんですか?」

机をバンっと勢いよく叩く。

「教師として正しいことを言っただけよ。確かに花森さんの事情は知っているけど、それが何?社会でそれが全て通用するとは限らないわ。あの子は現実を知る必要があるの。子供だから私たち教師が教えてやらないといけないの。
“正しいこと”を」

キッと睨みつける。

「わかりました。宮野先生がそうお考えならそれでいいと思います。
ただ・・・”正しい”
それが本当で、全てなのでしょうか」

悲しそうな顔で問いかける。

「私が間違ってるって言うの」

指を指して非難する。その行動に深呼吸して気に留めずに宮野先生の前を通り過ぎる。ただ、心の中では苛立ちを隠せず、保健室に着いた瞬間にドアを強く開ける。

「どうしたのかしら、青野先生」

大きな音に不快な表情をみせ、成井先生は足を組み直す。

「あ、いや・・・。宮野先生の花森に対する態度があまりにも拒絶的で苛立っただけだ」

何事もなかったように弁解する。

「花森さんね。あれから入部届けも無事受け取ったけれど、ちゃんと保護者の印鑑押されてたわ。女子バレー部では少ないけれど、一部の部員と会話している様子をよく見かけるし、心配し過ぎたのかもしれないわね」

入部届けのコピーを見せるように差し出す。

「確かに、しっかりと印鑑が押されてますね。でも、花森の母親に対する感情、気になるんですよ」

眉をひそめて腕組みする。

「それなら、花森さんのご家庭に家庭訪問してみるのはどうかしら。青野先生が引っかかっているところも少しは分かるかもしれないわ」

さりげなくアドバイスする。

「なるほど、そうなると花森の担任の片山先生も一緒の方がいいな」

「そうね、相談してみたらどうかしら」


方針が定まったからにはすぐ行動しようと考え、廊下に出る。運がいいことにどこかへ向かう途中の片山先生が通りかかり、絶好のタイミング。

「片山先生。相談があるんですけど、お時間大丈夫ですか」

「ええ、どうしたんですか。急に」

意外な人物からの声かけに動揺している。

「片山先生って花森の家庭事情どこまで把握しているんですか」

少しでも情報は多く集めておきたいところだ。

「花森さんですか。幼い頃に離婚して、それから母子家庭だということしか知らないんです」

予想外にも得られた情報はあまりにも少な過ぎて唖然とする。

(まさか、担任がこれっぽちの情報しか把握してないとは・・・)

口にするのが憚られるようで、悩みながらも

「花森の家まで家庭訪問しようかと考えているのですが、どうでしょう」

反応を気にしながらも提案してみる。

「家庭訪問ですか・・・」

浮かないような顔をみせる。

「何かやりたくない事情でもあるんですか」

どうにかしてやる気になってほしいがために突っこんでみる。

「苦い経験を過去にしたんですよ、個人的なことですけど。担任としては避けては通れませんよね」

視線を下に向けながら、一つため息をつく。

「花森を少しでも知る手がかりになるかもしれませんよ。僕はどうしても気になって仕方ないんだ、なぜあんなにも大人を信じない冷たい目をするのか・・・」

熱心に説得する。

「そうですね」

頭を抱えながらも、決意が固まったようで顔を上げる。

「では、花森の保護者の方に連絡をして都合のいい日を聞いてみます」

保健室に入って、生徒情報のあるバインダーを手に取る。花森のページにある電話番号を確認し、震える指先で番号を押して耳元にあてる。

引用元:https://www.photo-ac.com/main/detail/24427033


ーーープルルルルルーー

「はい、花森です。どちら様でしょうか」

つながったようで声が聞こえた。

「突然失礼致します。花森朱音さんの担任の片山と申します」

軽く一礼しながら話し出す。

「ああ、片山先生ですね。いつも朱音がお世話になっています。それで、何かありましたでしょうか」

不安げな声色になる。

「こちらこそ、いつもありがとうございます。
お電話させていただいたのは、花森さんのご家庭の方に家庭訪問させていただきたいと考えておりまして、ご都合の良い日程がありましたら教えていただけますと嬉しいです」

本題に入るとともに緊張が押し寄せてくる。

「ああ、家庭訪問というのは何か事情があるのでしょうか」

警戒しているのか険しくなる。

「いえいえ、そんなことはありません。中学生活という新しい環境ということもありますし、中学一年生は特に家庭訪問を行なっています。ご家庭での様子や学校生活に着いての不安などの情報交換をするために全員行なっています」

その場で咄嗟にうまく嘘をついた。

「そうでしたか!それは助かります。片山先生がお忙しくないのであれば、明日の夕方にでもいらしてくださって大丈夫です」

「ありがとうございます。では、明日の十七時に養護教諭の方と伺わせていただきますのでよろしくお願い致します」

いい返事が聞けたことに気を抜きそうになるのを堪える。

「はい、お待ちしております。わざわざご連絡いただき、ありがとうございました」


ーーープツッーーー

「青野先生、アポ取れました。直近ですが、明日の十七時に伺うことになりました」

「ありがとう。ちょうど、明日の夕方は空いているので大丈夫ですよ」

グッドポーズをみせる。


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