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キミの世界線にうつりこむ君 第一章

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第一章をまとめています。(花森朱音編)
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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十四話 僕であること

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十四話 僕であること

 「青野先生、花森さんが僕にこう言ったんです。なりたいものは何だったのか聞いた時に、

『残酷なこと聞くんですね』って」

「滝川、それは先生も思うぞ。
“なりたい”なんて言葉で片づけられるようなことじゃないんだ。
誰かになりたいって思うことはあるだろうけど、花森が望んでるのはそんなことじゃないんだよ。

そうだろ?」

揺れながらもまっすぐな瞳でそう言う。

「僕は『僕』でいたい。
ただ、それだ

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十三話 最後の希望

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十三話 最後の希望

どんどん暑さが込み上げてきて、十二時のチャイムが鳴り響き、給食の時間になるが、誰も動く気配のない屋上と廊下。

「どうして、人はみんな悩みを持ってしまうと一人で抱えこんでしまうのかしらね。本当はどうすればいいのかわかっている、頭の中では・・・」

その言葉に思い当たるところがありすぎて、何も言えなくなる。

「そうよ。前からそう思っていたのなら、どうしてその時に言わないのよ。言えたはずでしょう」

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十二話 それぞれの本音(おもい)

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十二話 それぞれの本音(おもい)

 何かが外れた音がしたのがわかった。顔を見合わせ、ゆっくりと屋上に入る。

太陽の眩しさとどこまでも続く青空。朝に見た景色と全く変わらない景色がそこにあった。視線を戻すとフェンスの外に立っている人がいた。短い髪型に凛と立つその真っ直ぐな立ち姿。

「来てしまったんですね。来ないで欲しいと思っていたのに」

振り向き、悲しそうに笑う。

「花森さん・・・?」

なぜ、そこに立っているのが花森なのか、

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十一話 さよなら今日

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十一話 さよなら今日

 どこまでも青空が広がっていて眩しさに目を細める、そんな今日の朝。

「いつもよりも空が綺麗に見えるなあ」

通学途中で青空をふと見上げる。手を伸ばしてみたくなって手を空に向けて伸ばす。その手は何かを掴むことはできない。

「ふっ、だよな・・・」

自分の思いがけない行動に意表をつかれる。

「真!おはよう」

手を振りながら駆け足でやってくる。

「百合、どうした?そんな朝早く来るなんて」

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十話 できることはなんだ

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第十話 できることはなんだ

 「お口に合うかわかりませんが、珈琲を淹れたのでよかったら召し上がってください」

お盆にコーヒーカップを三客乗せて運んでくる。

「お気遣いありがとうございます」

「それで・・・朱音は学校ではどんな感じなんですか」

学校での様子を早速聞いてみる。

「はい、学校生活には少しずつ慣れてきているようで真面目な生徒ですね。女子バレー部の練習にも精を出している様子を時々見かけています」

「それなら

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第九話 覚悟

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第九話 覚悟

 翌日の朝、通学路の坂道を歩いていると前方に花森の姿を見つける。その瞬間、昨日の出来事を思い出し、心がどくんと音をたてる。

「おはよう!」

それがばれないように、いつも通りに振る舞う。
その声に振り向き

「おはようございます。滝川先輩」

凛とした真っ直ぐな挨拶が返ってくる。そのまま歩幅を合わせながら歩いていく。その歩幅が心の距離を縮めているようで嬉しくなった。

「あれから風邪ひかなかった

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第八話 君の向こう側

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第八話 君の向こう側

泣きながら出ていく花森にただならぬ雰囲気を感じたのか、近くにいた青野先生が

「何かありましたか」

小走りで宮野先生のそばに駆け寄る。

「花森さんに女子生徒として通すなら、それ相応の振る舞いをしなくてはいけない。それができないのならば”変だ”と」

私は悪くないと言わんばかりの瞳。その言葉を聞いた青野先生は顔色を変え、苛立ちが募ってゆく。

「宮野先生、花森の何を見てきたんですか?
花森の何を

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第七話 逃げたかった現実

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第七話 逃げたかった現実

 「花森さんが初めて好きになった人ってどんな人だったの」

軽い気持ちで聞いたその先に語られたことは想像を超えるほどの現実だった。

「先生・・・。担任の先生だったんです。女性の先生だったけど、いつも人の繊細な感情を見逃さないで気づいてくれました。そんな優しさを好きになった。

『花森さんが悩んでいる時は小さなことでもいいから教えてね』

そう声をかけてくれて尊敬もしていました。それで好きな気持ち

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第六話 縛られる正しさ

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第六話 縛られる正しさ

 足取りは重くなりつつも、進路支援室に向かおうとする花森。

(何の話か予想はつくけど、仕方ない)

自分にどうにか折り合いをつけようとしているが、緊張でいっぱいになる。それでも一歩踏み出し、ドアを開ける。

すでに宮野先生は座っており、待たせてしまったようだ。

「遅れてすみません」

顔色を伺いながら一言言って着席する。

「単刀直入に言うけれど、花森さん。あなたはこの学校に女性として入ってい

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第五話 なりたいもの

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第五話 なりたいもの

 あれから花森さんは女子バレー部に入部したらしく、時々、体育館からかけ声が聞こえてくる。

「あ、君。これを理科準備室に持って行きたいんだけど手伝ってくれないかな」

段ボールを二つほど重そうに抱えている片山先生が近づいてくる。

「いいですよ」

すぐその箱の一つを両手で抱えて理科準備室へと歩いていく。

「そういや、確か・・・滝川さんは宮野先生のクラスだったよね」

「はい、そうです」

「宮

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四話 大人なんか信じない

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第四話 大人なんか信じない

 ノックして入ってきたのは花森。

「すみません、女子バレー部の入部届けについて質問がありまして」

丁寧に一礼してから成井先生に声をかける。

「どうしたのかしら」

「あの、これってどうしても親のサイン必要ですか?」

不満げに言う。

「そうなんだけど、何か書いてほしくない理由でもあるの?」

予想もしていない質問に不思議そうに見つめる。

「特に・・・母親には書いてほしくないんです」

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三話 男女の境界線

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第三話 男女の境界線

 「あなたも何か話しかけようとしてた?」

こちらに振り向いてきた。

「えっ、ああ。そういうわけではないんだけど・・・」

いきなり話しかけられたものだから、咄嗟に反対のことを言ってしまう。

「そう、じゃあ」

歩き始めようとするのを

「やっぱり、待って!」

これまでの自分からじゃ想像もつかないくらい大きな声で呼び止める。

「僕、二年の滝川真。
陸上部にいるから、よろしく」

簡単な自己

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連載小説『君の世界線にうつりこむ君』第二話 関わらない幸せ

連載小説『君の世界線にうつりこむ君』第二話 関わらない幸せ

 百合の声に気づいた宮野先生と花森さんはどこか気まずそうにしている。

「百合、ここじゃなんだから玄関に行きながら話そう」

その場から離れることを最優先にするしかなかった。スタスタと早歩きで引っ張って玄関に向かう。

「ちょっと、いきなり何よ!」

真のわけのわからない行動に苛立つ。

「ごめん」

「何、あの子のこと気になってるの?」

「いや、そうじゃないけどな、何か・・・」

自分でもよく

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連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第一話 隠れた日常

連載小説『キミの世界線にうつりこむ君』第一話 隠れた日常

 今日も僕たちの前には、いつものように一日がやってくる。
それは希望でもあり、絶望でもあるのだろうか。

静かな部屋で一人、柔らかな陽射しに、ゆっくりと目を開ける。

「もう朝か」

長いため息をついて体を起こす。壁にかけてある制服を一つずつ丁寧にハンガーから外す。それに袖を通しながらふと時計を見る。

僕は滝川真(たきがわまこと)。水標中学の中学二年生で、どこにでもいる平凡なやつだと思う。

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