「考えるのを楽しむ力」を育てよう
はじめに
これ、大人にとっても難しいことだったりします。
考えるといっても、かなり漠然とした言葉であって、あることは楽しんで考えることができるけど、興味のないことは秒で集中力切れるというのが正直な感想ではないでしょうか。
心理学の研究では、自分の興味対象が意欲の根源という研究結果が数多く存在していますし、脳科学的には自分に関係のある・好ましい情報は帯状回(ACC)という脳内で情報が処理される時に真っ先に好き / 嫌いの判定を下す部位が活動するということがわかっています。
3分で読み切ることを命題としている本ブログでは、「考えるとは」を哲学的に思考する獣道を回避し、そもそも「考えるのを楽しむ力」ってあるんだろうかってとこにフォーカスを当てたいと思います。
考えるのを楽しむ力
人は自分が好きなことを考えたりするときは夢中になることができるのですが、ちょっと難しくて、脳みそをフル回転させなければならない問題に直面した時に取る行動が2つあります。
1 考え続ける
2 考えを中断し幽体離脱する
2に関しては、子供達によく見受けられる行為ではないでしょうか。(大人もそうですけど)
ちょっとでも難しい問題に遭遇すると、秒で違うことに気が行ってしますよね。
この「考えるのを楽しむ力」というのは、かなりカジュアルに書いていますけど、心理学界隈では認知欲求(Need for Cognition:NFC)としてしられています。
認知要求とは、カチッと定義するならば、「認知的活動に従事し、それを楽しむ傾向の安定した個人差を表す心理学的概念」となります。つまり、努力を要する思考活動に従事し、そこから喜びを得ようとする個人の傾向を意味します。努力を要するというのがミソです。
楽しいものに没頭することではなく、ちょっと考えなければならない課題に立ち向かう力、そしてそれを楽しむ余裕とでもいいましょうか。
認知欲求という概念は1982年にCacioppoとPettyによって、個人が思考に取り組み、それを楽しむ傾向として初めて定義されました。以来、NFCは様々な文脈で幅広く研究されています。
注)これどうやって測るの?というのに興味のある方は、一番下の方にあります。
考えるのを楽しむ力を高める方法とは
先ほど、「考えるのを楽しむ力」は測ることができるという話をしました。
つまり、何が言いたいのかというと、「考えるのを楽しむ力」が高い人と低い人がどうしてもいるということです。
前回のブログで、自己生成効果というものを紹介しました。これは、ただ読むだけではなく、自分で作り出すことが学びになるというものでしたね。まだ読んでない人は💁
この自己生成効果、実は万人のものだったりしません。かなり伏線を貼った話し方ですが、「考えるのを楽しむ力」が高い人には効果がないってこともわかっているんです。
なぜか?
「考えるのを楽しむ力」の高い人は、そもそも努力を要する認知的活動に粘り強く取り組むことができる人で、そういう人は意識的・無意識的にさまざまな学習法略を使いこなしているからだったりします。石にかぶりつくように難題に立ち向かう中で、さまざまな視点からアプローチしたり、目標を達成するために自分なりに工夫して作戦を立てているのです。
じゃ、どうすれば「考えるのを楽しむ力」が育つのか、という問いが出てきますよね。
今回は時間がないので、2つの方法を紹介します!
1)知識の構築を促す活動をする(Fostering Knowledge Construction)
超簡単にいうと調べ学習です。なーんだ、というガッカリ感が伝わって来そうな雰囲気が漂っていますね・・・でもこれ、めちゃ重要なんです。
まず、自分で調べて自分の考えを持つ、そして他の人と話、相違点を考える。一見単純ですが、学習者たちに自ら情報を探求し、新しい知識を構築する機会を提供することで、批判的思考、問題解決能力、そして協働学習のスキルが身につくんです。所謂、主体的・対話的・深い学びってやつです。
2)認知科学の原理の適用 (Cognitive Science Principles)
認知科学の知見を授業や教育活動に落とし込むことです。具体的な例で説明しますね。
例えば、小学校で分数を教えるとしましょう。授業の目的を、「生徒たちに分数の基本的な概念を理解させ、日常生活の中で分数をどのように使うかを学ばせる」とします。
もう多くの方がやっていることだと思いますが、以下の学習活動が可能ですね。
活動1:具体的操作活動
生徒たちは、実際の物体(例:果物、紙、ブロックなど)を使用して分数を表現します。例えば、リンゴを半分に切って「1/2」という概念を示し、さらにその半分を切って「1/4」を示します。この活動により、生徒たちは分数が「全体の一部」であることを具体的に理解できます。
活動2:ビジュアル教材の使用
ビジュアル教材(例:分数の円グラフや棒グラフ)を使用して、分数の概念を視覚的に説明します。生徒たちはこれらのグラフを使って、異なる分数がどのように全体の一部を表すかを理解するのに役立ちますね。
活動3:ゲームとパズル
分数に関連するゲームやパズルを通じて、生徒たちは分数の加算、減算、比較などを学びます。例えば、「分数ビンゴ」や「分数マッチングゲーム」は、楽しみながら分数の概念を強化することができます。
活動4:日常生活への応用
日常生活の中で分数をどのように使用するかについて考えたりできます。
これを一般化とか、専門用語では転移って言ったりしますね。例えば、料理のレシピでの分量表記や、お金の計算などを通して、分数の実用的な応用を学ぶことができます。
ポイントは「考えるのを楽しむ力」の低い学習者は、抽象的な学びが苦手だったりします。だからこそ、具体的で、身近なものを手にとって学ぶことにより、抽象的な概念操作の練習をこなして、他の例にも応用させるということをやらなければならないのです。
具体からの抽象からの具体、これ重要です。
<考えること>を楽しませよう
「考えるのを楽しむ力」はどのようにして伸ばすのか
簡単に言ってしまえば、努力を必要とする知的作業を楽しませるという点につきます。
具体的には、身近なものを使って、手を体を動かしながら、ゲーム感覚でやるってのがポイントなんですね。
これ、日本の学校現場では、古来より先生たちの圧倒的努力によって暗黙のうちに実践されてきたことだったりするんですけどね。今、学校現場が疲弊して、このような素晴らしい実践が先輩先生から伝承されなくなっています。
だからこそ、学習科学みたいな理論体系を大学の教職課程で学んでおくことが重要なんです。理論を学んで、実践して、絶対にうまくいかないから、再度微調整して、その繰り返しです。
考えるのを楽しむ力を伸ばすためには、まず私たち自身が考えること、教えることを楽しまなければなりませんね〜
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付録1)授業をする前にラーナープロファイルを取る
今回、認知欲求についてお話ししました。教員の先生方は、4月の授業前に自分が担当する生徒たちをどれほど知っているでしょうか。私は必ずラーナープロファイルを取ることをお勧めしています。
例えば、今回のように生徒の認知欲求の高低を分析ことで、生徒たちがどのような学習法略を身につけているのかを知ることができますよね!
付録2)認知欲求スケール (Cacioppo et al., 1984) deepL訳
アスタリスクは、逆にスコア付けされる項目を示します。
スケールは1〜9です。最高点は72点となります。
+4 = 非常に強く同意する
+3 = ほとんど同意する
+2 = やや同意する
+1 = 少し同意する
0 = 意見なし
-1 = 少し同意しない
-2 = やや同意しない
-3 = ほとんど同意しない
-4 = 全くもって同意しない
私は単純な問題よりも複雑な問題を好みます。
私は、多くの思考を必要とする状況に対処する責任を負うのが好きです。
考えることは私の楽しみではありません。*
私は、自分の思考能力に確実に挑戦するようなことよりも、ほとんど考える必要のないことをしたいと思っています。*
私は、何かについて深く考えなければならない可能性がありそうな状況を予測して避けるようにしています。*
長時間にわたって真剣に議論することに満足感を感じます。
必要なだけ考えるだけです*。
私は長期的なプロジェクトよりも、毎日の小さなプロジェクトについて考えることを好みます。*
一度覚えてしまえばあまり考える必要のない作業が好きです。*
思考に頼って頂点を目指すという考えに魅力を感じます。
私は問題に対する新しい解決策を考え出す仕事がとても好きです。
新しい考え方を学ぶことにあまり興奮しません。*
私は自分の人生が、解決しなければならないパズルで満たされることを好みます。
抽象的に考えるという概念は私にとって魅力的です。
私は、多少重要ではあるが深く考える必要のない仕事よりも、知的で難しくて重要な仕事の方が好きです。
多大な精神力を必要とした作業を完了した後は、満足感よりも安堵感を感じます*。
私にとっては、何かが仕事を成し遂げるだけで十分です。それがどのように機能するのか、なぜ機能するのかは気にしません。*
私は通常、たとえそれが私に個人的に影響を与えない場合でも、問題について議論してしまいます。
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