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癒える方法

今の施設へ出勤10日目。

このオンボロ施設は、端っこに医務課が位置している。そして、その真正面が入浴場。これは良い。

何か他の仕事をしている時でも『○○さんがあがりました~。』と聞こえるのですぐに処置へ行ける。皮下出血や傷がないかもすぐにチェック出来る。時間的に余裕があると白癬で肥厚してしまった足の爪も切ってあげられる。

そして、どんどん治って行く。まだ10日目なのに。

やばい。楽しい。

初日に下腿に酷い傷がある人の話を聞いた。半年前の火傷だそうだ。それが、なかなか治らないのだと。

栄養も取っていて毎日処置しているのに、いつまでもいつまでも良くなったり悪くなったりを繰り返し、治らないのだと。

私はその種の傷が治る方法を知っているよ。と、初日から心の中で呟いた。

何も言っていないのに『治らないんだよ!』とあなたは叫んだ。イライラして、せっかく治りかかった傷を掻きむしってしまうことも想定内。

でも、治るんだよ。

半年、一年と治らない傷。怪我、発熱、心。なんでもいい。とにかく治る。

その方法の一つとしては、もちろん適切な処置というものがあるのは確かだ。清潔にして適格な薬を使い、適格なドレッシング剤をあてて保護すること。

『そんなことは、もう、ずっとやってるよ。皮膚科医の指示だよ!』

スタッフがそう言う気持ちも分かるし、その怒りも想定内。でも、ちょっとだけ違っていたので湿潤療法について少しづつ話して処置方法を変える。まあ、騙されたと思って数日間の時間をください。

でも、そんなことより、最大の治療法の決定打とは、その人に沢山喋って貰うこと。そして笑って貰うことなんだよ。

長いこと治らないと嘆いている傷ほど効果を発揮する方法がこれ。

そう、今日で10日目。お風呂上りの傷を見て、本人も驚愕。
そして、自分で治っていることが分かるらしい。見た目だけでなく体全身が良くなっていくのを実感しているはず。

ますます機嫌がよくなったその人を、車椅子でお部屋へ連れて行って、ベッドへお姫様抱っこ。
『重いから無理だよ!』と言っている間に一秒で抱えて
『よっこい、しょういち!』と言いつつベッドへ着地。そう、このためなら平気で言うおやじギャグ。ええ、厭いません。

目をまん丸くしてビックリしているその人の顔に笑顔が広がって、『な!?』。

そして『わははは!』と爆笑が聞こえている部屋を去る。次の仕事があるからね。

でも、また後でくだらないこと言いに来るね。だから、またあなたの話を聞かせてね。

やばい。楽しい。

何がやばいかって、どこに行っても結局楽しくなっちゃうことだ。

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