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【解説】土星の輪っか その謎にせまる

まるでCGのような 土星の姿
人工的に創造されたとしか思えないほど美しい 不思議な輪っか
今回は 地球外生命体についての話も含めながら「土星の輪っか その謎にせまる」というテーマで お話ししていきます

1. 輪っかの正体

土星の輪っかは そのほとんどが 水氷のかけらが無数に集まって構成されていると 考えられています
これらを観察すると まるで地層のように 3つの輪に分離しているのがわかります
さらに これらの内側と外側にも 見えづらい輪っかが計4つほど存在しているため 大きく分けた場合 合計7つの輪と 1つの間隙で構成されているのです
輪っかの周辺には 小さな衛星も多数存在しています
また この輪っかは 徐々に土星から遠ざかるように 広がっていることがわかっています
そして 輪の端から離れた粒子は 自身がもつ重力によって集まり 衛星になります
つまり 土星の輪っかは徐々に小さくなっていて 以前はもっと巨大な輪だったことが推測されるのです

土星の姿

土星のように 周囲に輪っかをもつ惑星の例としては 他に木星, 天王星, 海王星が挙げられますが 非常に暗い色であり 土星に比べて岩石の含有率が高いと考えられています
木星は3つ 天王星は13個 海王星は5つの輪っかをもち 土星とは異なる特徴をもちます
宇宙には 多様な輪っかが存在しているのです

土星の公転周期は29.5年ですが その周期の半分である 14.77年に1回だけ 地球から見た土星の輪っかは真横の角度になり 消えたように見えます
その中でも 太陽が近い影響で 土星自体が見えにくくなるタイミングもあるため 次回 土星の輪っかだけが消えたように見えるのは 2038年ごろになる想定です
この 土星の輪っかの見かけが時期によって変わることが影響して 土星の明るさは複雑なパターンで変化してゆくのです

2. 輪っかの起源

輪っかについて調べていくと 「土星の輪っかはどうやってできたのか」 という疑問が 自然と浮かびあがってきます
例えば土星 天王星 海王星のような輪っかをもつ惑星は なんらかの条件が一致していたのでしょうか

フランスの天文学者 エドアルド・ロッシュは 1840年代に”ロッシュ限界”という理論を考案しました
これは 「惑星の周りにある軌道に存在する物質は 惑星に接近しすぎると 惑星がもつ重力によって引き裂かれる」という内容です
惑星は 近づいてくる衛星の側面を押し出すため 引力の不均一によって その部分が破壊されることがあるのです
この 接近した部分を破壊する境界線の内側は ロッシュ限界と呼ばれます
ここれに関連して 「土星の輪っかは 数十億年前 彗星または小惑星が 土星のロッシュ限界内で破壊されてできた」 という説が唱えられていましたが 現在は別の説が有力視されています

探査機カッシーニが2007年に撮影した 土星の姿

約40億年前 現在の冥王星やカロンなどが分類される"カイパーベルト"を形成している微惑星が 太陽系を無数に飛び交う "後期重爆撃期"という特殊な時期が存在していたと考えられています
この時期において 巨大な惑星は 冥王星サイズの巨大な微惑星との近接遭遇を一度は経験する と考えられています
その際 巨大惑星の重力によって 冥王星サイズの天体が"捕獲"された後に破壊され その際にできた破片が さらなる衝突を繰り返し 細かい粒子となって 土星の輪っかが形成された という説です
この説では 巨大惑星に衝突した天体を構成する層のうち 表層の氷マントルだけが捕獲されたため 土星の輪っかのほとんどを 水氷が形成している とされます

一方 天王星や海王星では 氷マントルだけではなく 岩石コアも捕獲 破壊されたため 岩石を多く含む輪になったと推測されます
補足として 月のクレーターも この”後期重爆撃期”に形成されたと言われています

3. 輪っかの特徴

土星の輪っかには 発見された順に アルファベットで名前が付けられています

探査機カッシーニが撮影した 土星の環

メインリングとも呼べる3色の輪は 大きく分類すると 内側からC環, B環, カッシーニの間隙, A環で構成されています
「カッシーニの間隙」は A環とB環の間にある 明瞭なすき間のことです
B環が最も明るく A環, C環という順の明るさです
D環は土星に最も近い位置にありますが 暗いため とても見づらいです
F環は狭く A環の外側に位置しています
さらにその外側に とても薄いG環, E環があります
内側から D, C, B, A, F, G, Eという順で並ぶ 7つの環と それらのすき間による構造なのです

実はこれ以外にも細かい構造があります
まず A環,B環の間にあるカッシーニの間隙は 実は細くて暗い環や さらに細かい隙間で構成されています
さらに A環の外側には いくつか明瞭な隙間があります
このような 明瞭な環や隙間以外にも 数千にも及ぶ複雑な構造があることが 探査機カッシーニによる撮影などによって 判明しています  ※膨大な説明になってしまうため それぞれの名称などは割愛します
また いくつかの隙間は 「羊飼い衛星」と呼ばれる衛星の重力によって維持されていると考えられています

メインリングは 土星の赤道から7000キロメートルから8万キロメートルの距離に広がっています
環の幅は10万キロメートル以上 厚さは10メートルから1キロメートルほどです
環を構成する粒子のほとんどは水氷であり 不純物としてソリンやケイ素を含みます
粒子の大きさは 直径1センチメートルから10メートルほどです
輪っかの総質量は 土星と比べて1億分の5程度というのが定説ですが 3倍程度だという主張もあります

4. 土星の環境

これまで土星の輪っかを中心に解説してきましたが 土星自体はどのような特徴をもつのでしょうか

ボイジャー1号が撮影した 土星の姿

土星は 太陽系の第6惑星であり 2番目に大きな惑星で 巨大ガス惑星に分類されます
太陽からは 14憶294キロメートルほど離れた位置を 土星はまわっています
地球からの距離は常に変動しており 約12億キロメートルから 約16億キロメートルほどです
その平均半径は地球の約9倍もありますが 質量は95倍程度です
土星ではとても激しい風が吹き続けており それを遮るものもありません
そのため気温は大きく変動しますが 平均気温は約マイナス130度と考えられています
大気の96.3%が水素分子(H2), 3.25%がヘリウム(He), その他 わずかなメタンやアンモニアが含まれます
黄色味がかって見えるのは 上層部分にあるアンモニアなどでできた雲によるものです

このように特殊な環境をもつ土星ですが 実は 重力は地球の1.07倍ほどで あまり変わりません
しかし ガスで出来ているため 陸はなく 着地できないため 移住は不可能といえるでしょう
1日の長さは10.2時間ですが 1年は約29.46年ほどです
また 知られている限り 146個もの衛星をもちます

衛星タイタンのモザイク画像

衛星の中でも有名なのが「タイタン」です
タイタンには海, 川, 湖, 山などがあることがわかっており 大気からの降雨も確認されています
そのため 地球外生命体の存在を期待する声もありますが 現時点で 生命の痕跡は見つかっていません
大気の主成分は窒素であり 海の成分は 炭化水素が液状化したものであるため 細かく見ていくと地球とは異なる要素を持ちますが 今後の解明に 期待したいと思っています

衛星エンケラドゥス

もうひとつ 「エンケラドゥス」という衛星も注目されています
エンケラドゥスは氷の地表をもち 氷や水蒸気が南極から噴出しています
これは”プルーム”といわれ メタン, 一酸化炭素, エチレン, プロピレンなどの有機物を含んでいます
プルームは 土星の潮汐力によってエンケラドゥス内部に熱が生じ 地下にある水の層から噴出しているのではないかと 考えられています
熱, 有機物, 水を含むこの層に 生命体の存在を期待する声があります

衛星ミマス

また 「ミマス」 という衛星は スターウォーズに出てくる宇宙要塞"デス・スター"に似ていることで知られます
直径約400キロメートルの天体であり 氷と岩石で覆われ 数多くのクレーターや峡谷が存在します
一番大きなクレーターである"ハーシェルについては 直径約130キロメートル, 周壁の高さは約5キロメートル, 深さは約10キロメートル, 中央の丘の高さは約6キロメートルにも及びます
実は このミマスの内部に"外からは見えない海"が存在するという声があります
ミマスにおいて リズミカルな周期の揺れが観測され この現象を説明する仮説として 内部に海があることが唱えられたのです
このような"見えない海"が存在可能なのであれば 私たちが思っているよりもずっと 地球外生命体の存在は多い可能性もあるのです

5. 土星の発見者

現在では その存在が当たり前のように語られる土星ですが 人類がその存在に気づいたのはいつだったのでしょうか

はじめての発見は 400年以上も前になります
1610年 イタリアの天文学者 ガリレオガリレイは 望遠鏡を通して 人類史上初めて土星を観測し その際に「土星には耳がある」と記述しました
ガリレオは この耳のような形を大きな衛星と考えましたが 2年後となる1612年の観測において その耳は消えてしまっていました

ガリレオの土星スケッチ

さらに1年後となる1613年には 再度その耳が出現し ガリレオを困惑させます
そこからさらに40年以上が経過した 1655年 オランダの天文学者であるクリスチャン・ホイヘンスは ガリレオと比べて50倍もの倍率をもつ望遠鏡を自作し 土星の耳が 輪っかのような形であることを発見します
ガリレオの観測において 当初見えていた耳の部分が見えなくなったのは 輪っかの厚みがとても薄く 横から見えるタイミングでは視認しづらいのが原因だったのです

ホイヘンスの土星スケッチ

1675年には ジョヴァンニ・カッシーニによって 土星の輪っかが複数の小さな環と 空隙で構成されていることが明らかになり この空隙は 後に「カッシーニの間隙」と呼ばれるようになりました

カッシーニの土星スケッチ

1787年 ピエール=シモン・ラプラスは 土星の輪っかは 非常に多くの立体の小環でできていることを提唱
しかし 1859年 ジェームズ・クラーク・マクスウェルは 土星の輪っかが立体と仮定すると その不安定さによってすぐ壊れてしまうため それはあり得ないと考えました
彼は 輪っかが無数の粒子で構成され それぞれが独立して土星周辺を公転していることを提唱しました
この理論は 1895年に アレゲニー天文台の ジェームズ・エドワード・キーラーによる 輪っかの分光学的観測によって 正しいことが証明されます

すこし遡った1837年 ドイツの天文学者 ヨハン・フランツ・エンケは カッシーニの発見した空隙とは別のすき間を発見したと発表
1888年には アメリカの天文学者 ジェームズ・エドワード・キーラーも A環の外側の エンケが提唱したのとは別の部分に すき間を発見
1979年には パイオニア11号が探査機史上はじめて 土星近くへ到達し 土星やいくつかの衛星について 低画質写真の撮影に成功します

パイオニア11号による低解像度の土星写真

1980年には 探査機 ボイジャー1号が土星に接近し 土星, 衛星, 土星の輪っかの高解像度写真を撮影することに成功

1981年には ボイジャー2号によって さらにクローズアップされた土星の写真を撮影

ボイジャー2号による土星

ボイジャー1号, 2号の活躍により エンケの提唱した部分に大きなすき間はなく キーラーが提唱した部分には確かに明瞭なすき間があることが判明しました
ややこしいことに キーラーが提唱したすき間は エンケの功績を称えて「エンケの間隙」と名づけられています

エンケの間隙

また その代わりということなのか ボイジャー探査機が発見した A環内の別のすき間は「キーラーの間隙」と名づけられています

キーラーの間隙

その後 2004年には 探査機カッシーニが土星軌道に乗ることに成功
探査機カッシーニは 13年間にわたって探査を継続し 大きな成果をあげました
2017年には 人類の探査機としてはじめて 土星と輪っかの間を通過
その後 土星の大気圏へ突入して運用が終了し その役目を終えました
探査機カッシーニは 土星を206周回し 33万枚以上の写真を撮影し その活躍によって科学論文は3039件発行されたそうです

あとがき

まだ 多くの謎を秘めた 土星の輪っか
衛星における 地球外生命体の存在についても 期待していきたいと思っています
今回は「土星の輪っか その謎にせまる」についてのお話でした
最後までご覧いただき ありがとうございました

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