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少し納得のいかない話。もやもや君勃発/Passage by All Reviewsについて

 また停電?かい。
 狭いパッサージュでは、停電は致命的だ。僕がもらった棚は、天井に貼り付いた最上部にあり、下から見たら霞んで見えない。(笑)
電気が付いてなくてもね実は下から見えないんだ。困ったもんだ。ここのオーナーは書店というものがどんなものか分からないでいらっしゃる。ついでに出版についてもね…。自分は王様の椅子に坐って真ん中の棚を占拠してらっしゃるから。

 3月24日からオンライン販売・システムがダウンして『人形歌集 羽あるいは骨』短歌・川野芽生/人形・中川多理の歌集を中心に好調に動き出していたのが、ぴたっと止まってしまった。28日にはようやく回復したがもう元の、売れない状態、お茶引き状態になった。あららん。

 棚は三日放っておいたら忘れられるという時代。(時代と関係なくそうかもしれない…ちくさ正文館の古田さんは毎日入れ替えていた。効果あり!)新刊も三週間で動きが止まる。興味は三の倍数で減速していく。
勢いがついている時の、三日間空白は致命的だ。繰り返すけど、うちの棚は最上階なので、棚を見るには、背の高い脚立に乗らないと見えない。人気の日は狭いパッサージュ人でごった返するけれど、そうすると引きがとれないので、ますますうちの棚はないのも同様。
脚立を立てて登らないと見えないところにいる。だからパッサージュが込んで人が入ると脚立を立てるスペースがなくなる。だいたいスカート女子は脚立にのって覗けない。覗くつもりはなくても覗かれちゃうからね。覗いて欲しいのは棚だから。

 パサージュ、主宰者の呼び込みはこんな感じ。
世界一の本の街・神保町に2022年3月にオープンした一棚一棚に店主がいる共同書店です。それぞれの書棚には、フランスの実在の通り名がつけられ、店主のこだわりが詰まった棚はもちろん、書評アーカイブサイト「ALL REVIEWS」の参加書評家たちが選んだ本が並ぶ棚も所狭しと現れます。
プロデュースは仏文学者・鹿島茂。
さながらパリのパサージュのような上質な空間で、あなたも書店をはじめてみませんか?本を愛する方でしたら、どなたでも出店可能です。

 『夜想』という雑誌を、ロングテールを目ざして創刊して、そして自分としてはそれを実現してきたと思うが、そのスタイルには辛い時代が訪れた。
 それでも可能性を目ざしていろいろなトライはしている。ロングテールの本作りを諦めるつもりはない。売り方をどうにかしたいと思っている。そこで——22年の9月から中川多理さんが、パッサージュでやっている中川多理 Favorite Journalへの全面協力で、その可能性をさぐっている。(中川多理さんの著作がほぼほぼステュディオ・パラボリカから出版されているので本を供給している)1F ポール・エリュアール広場 2番地

 最初に書いた停電と云うのは、オンライン販売システムがダウンしていること。
中川多理 Favorite Journalは、天井に隣接した書棚のてっぺんにあるので、うちの場合は、見て買ってもらえる人は僅か…ほとんどない。なのでオンライン販売に頼る他ないので、入庫する度にネットで宣伝している。
 何度も移動のチャンスがあって、応募したのだが、抽選に外れた。何度もね。今、パッサージュは勢いに乗っていて、(マスコミに救世主のようにして取り上げられて)どんどん店舗を拡大している。優先的に移動できると従来の棚持ちの人には言われているけれど、まぁあたった試しはない。
 どんな人が入ったのかと見に行くと、ほぼ名の知られた人。マスコミとかで…。多分、プロデューサー鹿島茂の思う、あるいは現場を運営する息子さんの手が入っているんだろう。まぁよくあることだからその辺は、鹿島茂の恣意サロンなんだからしかたがない。(だったら抽選と言わなきゃいいのに…)
 入った当初もオンライン販売システムは、何か月もダウンしていた。見てもらえない棚にいる身としては…相当辛い。一冊も、本は売れなかった。ダウン中は。
 最近ようやく、『人形歌集 羽あるいは骨』短歌・川野芽生/人形・中川多理で動きが出始めて…もちろん売れるのはオンライン販売だけれども…よしっと思った瞬間、停電が来た。駄目だー。

 ここパサージュは、ALL REVIEWSのメンバーをバックにしているから(ここも鹿島茂の主宰)が、鹿島茂が知っている著者が棚の良いところを占領している。鹿島茂は、高校の先輩だけど、何十年もやっている『夜想』/ペヨトル工房/ステュディオ・パラボリカの仕事は知らないに違いない。原稿頼んだことあるけど断られた。

ネット上のALL REVIEWSでは、巻頭に仏文学者/作家・鹿島茂がこんな事を書いている。
このたび、出版不況に関して考えるところありまして、インターネット書評無料閲覧サイト「オール・レビューズ」を立ち上げることになりました。「オール・レビューズ」は活字メディア(新聞、週刊誌、月刊誌)に発表された書評を再録するサイトです。出版危機の根源は「書物の消費財化」にあります。
書物がロング・セラーであることを自ら放棄し、ショート・セラーである道を選択したときから出版危機は始まっています。本を本来の姿である「耐久消費財」に戻さなければなりません。そのために最も有効なのが、過去に書かれた書評です。

まず、読者は自分のお気に入りの書評家の力作書評を無料で読むことができます。
また、これはと思った本の書評を自由に探索することもできます。
その書評で取り上げられている本をサイトで即座に購入することも可能です。
一方、書評家は力をこめて書いた書評がより多くの人に読まれるようになります。
出版社も在庫を早くさばくことができます。
リアル書店も棚置きの旧刊書が売れ出しますから、当然メリットがあります。
ひとことで言えば、「だれも損をしないシステム」であるばかりか、これによって本をロング・セラーに変えることさえできるのです。

とね。
 まぁ出版不況の分析も甘ちゃんだけど…不況になったからより消費的になったのであって…じゃぁ全社がロングセラーを目ざしても出版不況は解決しない。『夜想』は、ロング・セラーを目ざしていたし、実際そうだった。初版は5000部で、バックナンバー売りで10万を超えたものもいくつもあるし、大体、トータルでは万は軽く超えていた。それが成立しなくなったのには別の構造的理由がある。この辺はなし出すと長くなるので、別の機会にしたい。

 端的に云うと。
 パッサージュは、鹿島茂が、おれは本のことを考えていて、著者、書評家、出版社にメリットがある、どうだ、こうすれば本は生き延びていけるぞと云うために存在しているようなものだ。サロンの主宰者として名を挙げるためにだけある。

 一棚書店というけれど、書店の機能は果たしていないし、書店は完全赤字で鹿島茂に奉仕することになる。
 箱に入る本の数が限られているので、仮に20冊として…(余分な在庫はもっていてくれない)1冊売れたら1冊入れる。搬入経費はこちらもち。もちこんだら神保町までの往復経費がかかる。入荷に最低でも3日のタイムラグができる。そんなこんなを考えるとひと月に30冊(うちはいったことがない)売れたら御の字。人件費もかかる。
 書評家が本を仕入れたら、80%で仕入れる。その粗利の20%のうち10%はパッサージュが取る。2000円の本で粗利200円。月に20冊で4000円。場所貸し代は5500円から8000円だからぱっと考えてもあわない。自分の本を入れたら輸送代搬入代はもちろんこっちもちだし、売れなくて入れ替える時もこっちもち。何より万引きされても責任持ちませんというシステム。これが大きい。貴重本は入れられない。今までの出版システムに、万引き本を買い取ってもらえるシステムが組み込まれてから、万引きは書店業の大きな負荷になっている。それがゆえに廃業する店も存在する。
 出版社というのは、超大手以外は、委託制度や流通制度の問題で、[率]的に存在しにくくなっている。そしてその[率]的に存在しにくくなっているのは、取次も書店も同じだ。戦後すぐに大手出版社のためにつくった取次流通システムは、完全に機能不全になっている。手をいれないと本当に本は流通できなくなる。

 で、パッサージュに期待したのは、取次をショートカットしている書店ということで、一要素少なければ、成立の可能性も出てくると思ったのだ。だが、棚一個という書店に本を出す人に負荷をかけて…そしてそもそも黒字として成り立たないようにして…赤字が前提で(このシステムだとそうなる)…で、赤字はなるべく自分たちの仲間じゃない人のところへ向けて…
 ちょっと思うけれど、鹿島茂は、このパッサージュで名前を売っているのだから、センターを広く取らないで、最上階へいけばいいじゃないのか。上でも見てもらえるでしょ。鹿島茂は抽選で棚の位置をもらったの?むしろ無名の面白い棚を真ん中に持ってきた方が本のためには良いと思う。

 共同書店だからと宣伝されて、一人一棚書店だからといって、参加してみたのだがどうもそういうことではないみたい。
現場の代表は、
 その通りです。利益を出すのはなかなか大変ですが、PASSAGEは「大人の本屋さん体験」ができる場所。趣味や習い事に毎月お金を出すような感覚で、棚の賃料を払って得られるものに価値を感じてくれているのではないでしょうか。
と、インタビューに答えているのだから、書店ではなく、趣味の棚がし。有名人と一緒の場所で…というふうにパッサージュは捉えた方が良いのかも知れない。

 こっちは自助努力で本を動かそうとしているのだから、最低、その根幹の電気(ネット販売システム)を止めないで欲しいな。書店としてはほんとぼろっちい。現場の人も本の流れに無頓着だし。
 
PS。
しかしながら、かつて往来堂の名物店主だった安藤哲也が、メジャーの楽天ブックスなどを経て、ふたたびシェア型書店「Books&Coffee 谷中TAKIBI」を谷中にはじめたり、佐藤なにがしというデザイナーがやはりシェア型書店を作るらしく、できれば係わりながら、考えを具体化していきたいと思う。パッサージュには改善余地がないので…。

PS2。
かねてより「シェア型書店」は書店というよりも「スペース貸し」の商売だなあ、と思っています。神保町に自分の作った作品を販売するBOX形式の店がありましたが(あ、Passageのすごく近い場所)それを本に限定しただけというか…。

というコメントを矢内裕子さんからいただきまして、付け足しのPSをします。ちなみに本だけでなく雑貨とかグッズとか自分の作ったものとかも受け入れているので、本のことを思ってというのは、棚主を引くためのコメントでしかないです。
で、それならとうちは本と組にした茶ブックスというのを作って出しましたが…自分、カセットブックを初期に始めた者でして(笑)カセットをつけても本として流通してもらえるように取次と交渉して、そのようにしてもらいました。最初はEP-4『制服・肉体・複製』というカセットブックを流通しました。最初200部でしたが5000部超えしました。そしてのちに坂本龍一の『アヴェクピアノ』をカセットブックで出しました。これは5万強。坂本龍一は、このアングラ性を持つ、でも大手にカウンターになるメディアに乗ることに積極的でした。なのでなんとかブックスを作る時は、本に、あるいは本が成立したことに多いに関係のあるものとコラボしています。グッズ売りではないんです。本ありきの企画。
でも茶ブックスは、掛け率50%ですといわれてしまいました。本じゃないですからと…。おっしゃる通り棚貸しぼったくり通りです。

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