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光と海をもとめて、瀬戸内の旅

旅に行くことは、3日前に決めた。海を眺めたかった。決めたのは、宿だけ。

岡山に降りて、チェックインまで時間があったので、岡山でふらふらすることにした。
SNSで知っていたスロウな本屋が岡山にあることをその時知った。小さな本屋は、営む人の思想が表れる。人の本棚を見るとわくわくするのと同じような気持ちになる。そうして、好きな本が見つかると、価値観が似ている気がしてうれしくなる。静かに本を眺めて、一冊選んだ。高木正勝さんのこといづがあって、今はもう手元にないけれど、光や音を感じてぼんやりとする今回の旅にぴったりな気がした。

近くに古道具屋さんがあったので寄り、小腹が空いてカフェでベーグルを食べてから、児島という町へ向かった。岡山が高松へ電車一本で行けることを知らなかった。
児島からバスで40分ほど揺られる。バスはおばあちゃんが2人ほど乗っていた。

バスから降りると、すぐ近くに海が広がっていた。海に光があたって、きらきらとしていた。ここで今日と明日、息を吸うんだとうれしくなった。深く深呼吸をした。

坂道の上に、その宿はある。
一日目に泊まる部屋は、デニムの和室。部屋を開けると、瀬戸内海が一面に広がっていた。この海が見たくて、来た。ずっと海がみえる場所で過ごしたくて、いつか泊まりたいと思ってたから、今実現しようと思って、来た。
前の東京の旅は半分くらい現実逃避がしたくて、少し痛い旅だった、今日は痛くなかった。

日を沈んでいくのをゆっくりと眺めるつもりが、宿の中に興味をそそられてうろうろとしていたら、半分くらい日が沈んでいた。ガラス越しでなくて、直接見たい。慌てて外に駆け出して、坂道を走って降りた。
目の前は全部海で、赤い太陽が沈んでいった。

朝は曇りだった。今日は雨が降るらしい。鯛めしをお茶漬けにできるお弁当を、朝の瀬戸内海を見ながらいただいた。

バスに揺られて、児島のデニムストリートをめぐり、そのあとSOHO BOOKSという本屋さんを目指した。KAPITALという服屋さんの奥に、本屋さんはあった。  


入った途端、息を呑んだ。明るく差し込む光。美術館のようにガラスの上に並んでいる本。本の紙を使って作られている電気シェード。窓の外には緑。大好きなharuka nakamuraの音楽。店舗でharuka nakumuraが流れているのは初めてで、空間と音楽が美しく調和していた。

開けた海が好き、波の音が好き、きれいな光が好き、光が入る空間が好き、変わっていく光を眺めるのが好き、本が並んでいる光景が好き、本が好き、静穏な空間が好き、凛とした空間が好き、
宿や本屋やカフェに入りながら、好きなものや場所に出会い、ずっとじんわりと幸せだった。頭でなく感覚で惹かれていく感情を、何度も取り戻していた。

雨が強くて身体が冷えてきたので、早めに宿に戻った。
二日目は違うお部屋に泊まることにしていた。船のお部屋。目の前に海がいっぱいに開けていた。

雨の音を聴きながらうとうととしていると、雨がやんでいて、落ちていく夕焼けが雲の間から見えていた。雲の間から見える光がグラデーションになっていた。日が沈んでいくのを縁に座ってずっと眺めていて、時間が溶けていった。一瞬部屋の中にぱあっと光が入って、急いで写真を撮った。光と海だけを眺めていて頭をからっぽにしたこの時間のこと、忘れたくない。

翌朝は雨は降っていなかった。チェックアウトのあとバスを一本遅らせた。コーヒーを片手に、誰もいない海辺に座って、波の音を聞いていた。180度海だった。わたしも海になれるかと思った。

また何度だって来よう。静かで穏やかな海を惜しみながら、日々の騒めきに戻っていく。

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