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【写真日記】冬の奈良吉野へ

奈良の吉野は、日本一の桜の名所と言われる場所だ。ずっと桜を見に行きたいと思っていたところだけど、先に冬に行くことになった。

そう、温泉に行きたくて旅館を探していた。年末の近場の有名どころはいっぱいで、ぽつんぽつんと空いていたのが奈良の吉野周辺だった。桜の時期が一番注目されるから、意外と穴場なのかもしれない。

年末のお休みを迎え、少しおせちの準備をした翌日。15時チェックインを目指し、電車に乗って奈良方面に向かった。
まだ昼過ぎなのに、すっかり夕方の光だった。

近鉄吉野線の各駅に乗り、一時間ほど、吉野駅へ向かって電車に揺られる。
令和の街並みから、平成初期のような街並みになっていく。田畑と山と川と、古い家と。
村といえるような景色と冬の柔らかい光に、高木正勝の音楽が思い起こされる。自然豊かな山奥で暮らすからこそ生み出される音楽があるというようなことを本でいっていた。彼から生まれる音楽の原風景は、こんな景色なのだろうかと、ふと思う。

吉野駅に着くと、何もなかった。いや、お土産屋さんがひとつ、ふたつ。それ以外は山が広がっていた。
お宿のハイエースが迎えにきてくれて、お宿に向かった。急で狭い山道を、ハイエースは慣れた手つきでぐんぐんと登っていく。斜面とカーブで目が回りそうになる。送迎がなければ、ロープウェイで上がっていくらしい。
葉のついていない枯れた木々ばかりが見える。一面、桜になるそうだ。

上に登っていくと、小さな人里が現れる。ここに人が住んでいるとは、いったい買い物や学校はどうしているんだろう。きっと吉野の桜で発展してきたんだろうけど、こんな急斜面に家やお寺を建てようとした昔の人はすごい。

お宿に着いた。歴史があると言うこの宿は、外から見ると古めかしかったけど、中はとても綺麗だった。広々とした広間に案内され、お茶をいただく。

奈良は葛餅というのが有名らしい。移動で疲れていて喉も渇き、お腹も空いていたので、お菓子とお茶にほっとした。


お部屋に案内してもらう。まさに旅館なお部屋。
広々としていて、小上がりがあるのもうれしい。本当は自宅にこんな部屋があったら最高だなあ、と話す。古道具なんかも置いちゃったりして。ずっとぼんやり本を読んでお茶を飲んで、暇だねえ、と過ごしていたい。

山の奥なので、当然近くにコンビニもなく、気軽にお菓子を買いに行くこともできない。なにもできないことで解放されるような感覚があった。


窓から見える景色は一面山。これもまた、春は桜になる。こんなの、春に来たくなっちゃうよなあ。
昔から日本人が桜に浮かれた気持ちがなんだかわかる気がする。今よりももっと厳しい冬を越えて、春の光が溢れる頃、優しいあの桃色の花が一面に咲くって、奇跡みたいだ。

明るいうちから温泉に入り、ほかほかになる。広いお風呂、外が見えるお風呂。なんて贅沢なんだろう。冬は寒くて嫌だけど、温泉があるなら悪くないなあという気持ちになる。

お風呂から上がり、大広間に行くと、食事が準備されていた。
前菜は美しく、見ているだけでにこにこした。美しく盛り付けられたご飯を見ると、消えてしまうのがもったいない気持ちになる。ずっと見ていたいから少しずつ食べたい。

素材は基本的には吉野で作られたものを使っているそう。燻製のチーズも、おぼろ豆腐のような初めて食べるお豆腐も、お刺身も、とてもおいしくて感動した。


今回はぼたん鍋をいただくことにしていた。生まれて初めてぼたん鍋を食べる。これがいのししか〜、と息を吐く。わたしの中のぼたん鍋の思い出はずっとこの日になる。

くさみが少ないので焼いてもおいしいそうで、最初は網で焼いたのをいただく。塩で食べる。脂の部分が少し硬く、独特の歯ごたえ。おいしい!

お鍋は味噌鍋だけど、そこまで濃くない。ビールがとっても合う。白菜があまい。おあげとお麩に鍋つゆがよく染みていく。

食べきれないくらいの量で、おなかがはちきれるところだった。

おなかがはちきれるところなのに、しっかりとしめが出てきた。

部屋に戻ったらお布団が敷いてある。また幸せが詰まっている。のんびりと夜を過ごすはずが、食べ疲れて寝る。


冬はつとめて。雪のふりたるは言うべきにもあらず、霜のいと白きも。

朝がやってきた。
年末にしてはあたたかく、雪は降りそうになかったけれど、雪景色もさぞ美しかっただろう。そういえば、小学生の頃は霜が積もっているのが当たり前だったし、たまに池の氷が凍っていることもあった。今よりも寒かったのだろうか。毎年寒いと思っているのに。

だんだん明るくなる空を横目に、また温泉に入る。空が変わっていく様子を、露天風呂から眺めた。空気は冷たいのに、お湯は熱い。冷気と温かさを同時に感じる。

同じ時間に、外国人の方々が露天風呂に入っていた。日本でない出身の方は、露天風呂になにを思うんだろう。


お風呂から上がって、朝ごはんをいただく。お風呂に入るのと寝るのと食べることしかしていない。昨夜あんなに食べたのに、しっかりと食べる意気込み。

はあ、少しずつ盛られた朝ごはんのこれまた美しいこと!鮮やかな器がよく似合う。
川魚も、湯葉も、煮しめも、お味噌汁も、、滋味深いといったらいいんだろうか、じんわりと優しく満たされるおいしさだった。

地元のしいたけと厚揚げを炙って食べた。これ、いいよね、、、

卵もなんかおいしいやつだそうで(きちんと覚えていない)、卵かけご飯をすすめられたので、これは食べないといけない。
卵とご飯はお代わりし放題で、今年の最高おかわりは6杯なのよほほほと、旅館の人が話していた。せっかくなので、一杯と半分、がんばって食べた。

ごはんおいしかったねえとうとうとしていると、あっというまにチェックアウトの時間がやってきた。お見送りは看板犬がしてくれた。

仕事もせず、ご飯の準備も洗濯物をたたむこともせず、なにもしなくてよく、心置きなくだらだらした。寒い冬においしいご飯と温かい温泉、これ以上の贅沢はなかった。

それから、自然や光のみずみずしさ、細やかさに心を馳せられるということも、また贅沢なことだった。本当はいつも感じていたいけれど、日々の暮らしでは見過ごしてしまうことだった。

年の瀬にお給仕してくださった旅館の方々にも、ありがとうございました。世界は誰かの仕事でできているのだなあ。

次はまた、春に。

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