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『投資家の日常は、いとをかし。』 #5 2024年3月 前編 テキスト版

こちらのポッドキャストのテキスト版です。


renny:「投資家の日常は、いとをかし」。このポッドキャストは投資家のrennyと、同じく個人投資家の吉田さん、2人とも投資歴20年以上で、僕は投資信託中心、吉田さんは個別の企業の株式中心、そんな2人で毎月投資家の目線で、これは面白いと思ったことをお話していこうというポッドキャストです。

renny:収録している今日は3月21日。今日また日経平均が史上最高値を更新しましたが、収録前にお話したところ、吉田さんはお気づきじゃなかったということで。前日に日銀の金融政策の変更(マイナス金利解除やETF買入終了など)を受けて、僕は株価はは下がる方向なのかな、と思っていたのですが、円安・株高で思ったとおりにはなりませんでした。吉田さんは株価もご覧になってないぐらいなので、あんまりお考えになってないってことなんですかね。

吉田:そうですね。相場環境が良くなってくると、投資に対して興味を失っていくっていう人なんです。こういう時に後追いするのは投資で失敗するパターンなので、ひたすら古典を読み耽るのが習慣になってます。(いまハマっているのは、モンテーニュの「エセー」)


清原達郎「わが投資術 市場は誰に微笑むか」

renny:株価がこういうふうになってくると、今始めないでどうするんですか?みたいなことを言い出すことが、また増えていくのかな。今日最初にお話したいのは、清原達郎さんが書かれた本、「わが投資術」が今月頭ぐらいに出て、吉田さんもお読みになられたんですよね。

吉田:昔は所得税の高額納税者を国税庁が発表する習慣があって、その最後の発表が2004年。そのときに日本一所得税を納めた人が清原さんだったんですよね。運用の成果報酬に対する所得税が37億円だったということで、一体どんな運用してるんだろう?っていう話になったけど、全然表に出てこなかった人が今回初めての著書を出されるということで、これは読まないわけにはいかない。

renny:僕も同じこと思いました。実際お読みになって、どんな発見というか、どんなことを思われました。

吉田:この注目された時期は、たまたますごく運用成績が良かった時期にあたっていて、全体を通してみると、かなり上がり下がり激しいすごい大変な運用されてたんだなっていうのが本を読むとわかりましたね。

renny:そうですね。何となく中小型の株式が中心なのかなと漠然とイメージしてたんですけれども、結構REITとかにもかなり突っ込まれてたり、こういう投資をされてたんだっていうのが意外でしたよね。あと清原さんのファンドはいわゆるヘッジファンドなので、買うだけじゃなく、いわゆるショート、株価が下がれば儲かる投資も取り入れられてて、それをやられてた実例を挙げられてましたが、ショートは散々だったっていうようなところも非常に面白かったです。

吉田:私もやってた時期あるんですけど難しいですね。

renny:吉田さんもそんな空売りとかやってたことあるんすか。

吉田:決算書で駄目な会社を見つけて空売りするんですけれど、結局その駄目な部分にみんなが注目してくれないと株価が下がらないので、何か待ってるうちに相場全体が上がっていって、つられて株価が上がっちゃうなんてことになって難しいんです。(たとえばゴーン時代の日産の決算書がなにかおかしい、とブログに書いてからゴーン失脚まで12年かかった…)

renny:そうですよね。だから売りから入るっていうのは難しいんだろうなと僕も想像はしてました。得意な人はおそらくいるんでしょうけれども、成果に繋げるの難しい手法なんだなっていうのはあらためて思いましたね。

吉田:そうですね。

renny:僕は読んでてすごく面白いいいなと思ったのは第1章で、市場で少数派になるべきだ、と書かれてたのが一番印象的でした。本の中でスクリーニングについて書かれてて、それを実際にやって、SNSとかに書かれてる人もいたりするのを見てたんですけど、それをやっちゃうと結局みんながそれ見てやるから、少数派にはなれなんいじゃないか?と僕は思ったんですけど。

吉田:そうですよね。本が出ちゃった時点で、もうみんな読んで実践しちゃうから。

renny:清原さんの本で他に何かヒントになって、ちょっとやってみようかなって思ったことはありましたか?

吉田:中小型株って今までほとんど投資してこなかったんで、ちょっと調べてみようかなっていうきっかけになりましたね。

情報収集のための定期購読

renny:あとは事前のやり取りで四季報のことが出てましたが、四季報って読まれます?

吉田:いや、書籍の形ではもう読まないです。ネット証券で会社を調べると四季報のデータが見られるので。

renny:以前は買われてたりしてたことはあったんですか?

吉田:最初の頃は買ってましたね。上場企業にどういう会社があるのかとか、全然わからなかったのでパラパラめくって勉強するみたいな。(補足:私が投資をはじめた頃は、電話回線でインターネットに繋いでいた時代。経過時間に応じて電話代が課せられる形だったので、ネットでのんびりウェブサイトを調べたりするのは難しかったから、四季報が有益な情報源でした。)

renny:それが一通りわかってもういいかなっていうのと、ネット証券でも見れるようになったから、わざわざ買うことなくなったということですね。

吉田:そうですね。

renny:今は四季報もオンラインのサブスク版もあるみたいですよね。ちなみに吉田さんは、サブスクリプションというか定期購読とかされてるものは、どんなものがあったりするんですか?

吉田:一番長く契約してるのは、新刊のビジネス書の要約をする「TOP POINT」っていう月刊誌があって、もう20年ぐらい読んでいるかな。私は本屋に平積みされているビジネス書には目もくれない人ですが、でも世間でどんな本が出てるのかは知りたいなと思って購読しています。1冊4ページで1ヶ月に10冊ぐらい紹介してくれていて、年間120冊ぐらいに目を通すと、そのうち1冊ぐらいは、これは読みたい!という本に出会えるので役には立ってるかな。

後藤達也「転換の時代を生き抜く投資の教科書」

renny:なるほど。そういえばブログで、日経新聞を退職された後藤達也さんの本も紹介されてましたよね。

吉田:初心者向けにいいと思います。だいたい初心者向けの本って「これだけをやっておけば大丈夫」みたいな感じで押しつけて、思考停止にさせるのが多くて嫌なんですよ。新NISAがはじまるにあたって、これをきっかけに投資をしたいという相談を結構受けるんですけど、初めに読む1冊にあんまりいい本がなかったんで、今後はこの後藤さんの本を薦めていこうと思ってます。あとは投資を通じて視野を広げよう、って考えが根底にあるのが伝わってくる内容なので、私もそういうのが好きだから。

renny:なるほど。何かの扉になる感じで書かれてるってことですね。もうこれだけやっといたらあとは投資のことなんか忘れちゃった方がいいよ、ではなく、ここを入口に、新しいところに行ってみませんか?というトーンだったっていうことですね。後藤さんといえば、noteのサブスクですごい会員数をお持ちで有名なので、どんな感じなのかなと気になってたんですよね。

ミシュラン三つ星「カンテサンス」

renny:次の話題は、吉田さんといえば食通というかグルメですが、食にまつわる今月の「をかし」は、どんなことありました

吉田:先週、ずっと行ってみたかった、ミシュラン三ツ星のレストランの「カンテサンス」というフランス料理店にやっと予約が取れて行ってきました。

renny:場所はどちらにあるんですか?

吉田:五反田からバスで行きました。昔ソニーの本社があった品川の御殿山のあたりです。

renny:何年ぐらい続いて三ツ星取られてるんですか?

吉田:ミシュランガイド東京が出版された2008年以来ずーっと三ツ星です。

renny:お店の席数っていうかそれってどれぐらいの感じの大きさなんですか。

吉田:20席ぐらいはあったかな。

renny:割にこぢんまりしたお店なんですね。その予約取るが大変だったとお聞きしたんですけど、どんな感じの大変さなんですか?

吉田:ネットでのみ予約で「OMAKASE」という予約サイトで受け付けてるんですけれども、5~6人用の個室は結構空いてるんですが、妻と2人で行こうとすると、もう全く空いてなくて。もうこれは本気でやらないと一生行けないと思って、去年の秋頃から、毎日3回その予約サイトをチェックして、キャンセル待ちが出るのを狙い続けて半年でやっと予約が取れました。

renny:半年かかったわけですね。実際お店に行かれたときは満席だったんですね。

吉田:そうですね。満席で意外だったのはお客さんが全員日本人だったことです。値段もとんでもないので、もう日本人じゃなくて、中国人ばっかりなんじゃないかなと思ってたんですが。

renny:それって夜行かれたんですか。

吉田:夜だけの営業で、5時からの回と8時半からの回の2回転なんです。

renny:なるほど。2回転でも予約取るのはかなり大変だっていうことなんですね。先ほどおっしゃいましたけれども、お値段も相当するお店なわけですね。

吉田:そうですね。うちの夫婦はお酒飲まないんで、普通の人より安いはずですけど、これは旅行へ行くのと迷う金額だよね、って話してました。お酒を飲んだら確実に1人5万円は超えるでしょうね。

renny:なるほどね。お料理やサービスとかどんな感想をお持ちになったんですか?

吉田:はい。料理は美味しかったですね。全部で12品でてきて、小さい料理がちょこちょこと出てくるんですよ。前菜が6品、メインが2品、デザート4品でした。

renny:前菜が多いんですね。デザートも多いのかぁ。やっぱり他に行かれてるフレンチのお店と違うなって感じられるとこってありましたか?

吉田:やっぱ値段が高いので、その分一つ一つの料理に手間がかかっていました。品数も普通はこんなに多くないんですよ。問題があるとすると、写真を撮らしてもらえないから、思い出せなくなるという。。。

renny:写真NGなんですか。それってすいません、他のミシュランの星付きのお店もそんな感じなんですか?

吉田:滅多にないですね。写真撮っちゃ駄目っていうのは。カンテサンスも個室なら写真を撮ってもいいそうなので、たぶん有名人が来られる店だからダメなのかな。

renny:お料理というよりは、他のお客さんを隠し取りしないように、という配慮みたいな。

吉田:そうでしょうね。

renny:なるほどね。やっぱり食材も高そうというか、そんな感じなんですかね。

吉田:意外だったのは割と輸入した食材が多かったこと。フランスから取り寄せた食材と、日本の季節の食材を組み合わせて調理していて、こんな組み合わせあるんだみたいな驚きがありました。

renny:メインはお魚とお肉なんですか。

吉田:メインのお肉は羊でした。

renny:メニューってどれぐらいの頻度で変わるんですか。

吉田:季節に1回って話してました。

renny:季節に1回ですか。なるほど。でもそれだけ予約取るのが大変だと、1回予約取るのもすごい大変だということですよね。

吉田:そうですね。料理の美味しさとか値段からすると、本来記念日とかに行きたい店なんだけど、そういうのが無理っていうのが残念なところですね。

renny:自分の都合じゃなくてお店の都合になっちゃう。都合というかお店の空き状況次第。こういう質問は愚問かもしれないですけど、また予約とろうと頑張りたいな、って思うようなお店でしたか?

吉田:何年かに1回は行ってみたいですね。

renny:そうですか。ちょっと僕は行くことはないだろうな。でも三ッ星ってそういう感じなんだっていうようなのがあって、他に今、東京のフレンチで三ツ星のお店って他にもあるんですか?

吉田:恵比寿の「ジュエル・ロブション」っていう、フランスで有名なお店の日本支店みたいなところが、カンテサンスと同じくミシュランガイド東京の創刊以来の連続三つ星です。

renny:なるほど。吉田さんはこれまでに三ツ星をいくつかは実際に体験されてるわけですか?

吉田:いや今回が初めてだったんです。

renny:和食の方はもうまだ未体験ってことなんですか。

吉田:そうですね。昔、行ったことのある店(麻布のかどわき)が三つ星になったりはしていますが。もう予約をどうやって取ったらいいかわかんないようなお店ばっかり。

天ぷら食材の危機

renny:なるほどね。それだけ敷居が高いんですね。グルメのネタでこれまで何度か天ぷらのお話をされてましたが、ここ最近天ぷら召し上がったりしたんですか。

吉田:天ぷらは行きつけのお店があって、麻布十番の「てんぷら前平」。2ヶ月に1回伺って天ぷらをいただいているんですが、温暖化の影響みたいなのが感じられて面白いんですよ。最近、東京湾でキスが穫れなくなってきていて、いつなくなっちゃうかな、っていうような話をしていたら、2月末に行ったとき、とうとう東京湾でキスが穫れなくなり、その直前の1週間、1匹も釣れなかったらしいんですよね。

renny:東京湾のキスってどういうふうに調達されてるんですか。

吉田:千葉の竹岡漁港っていうところでキスが一番美味しいからと、前平さんはそこをキスを使っていて、東京湾の魚にこだわる料理人はって多いんですよ。天ぷらの神様って言われてる門前仲町の「みかわ是山居」の早乙女哲哉さんの話によると、東京湾って、大小たくさんの河川が流れ込んでいるから、すごく魚にとって栄養が豊富で、波も高くないから、貴族のような身がふっくらした魚が釣れて、天ぷらに最適なんだという話をされてるんですね。でもだんだん東京湾の魚が釣れなくなってきていて、昔はメゴチは天ぷらで欠かせない食材だったんですが、数年前、完全に消えてしまったんです。

renny:もう揚がらないんですか。

吉田:もうほとんどないですね。続いてキスがおかしくなってきました。20年前ぐらいと比べると漁獲量が4分の1ぐらいになってるのかな。メゴチは同じ期間で10分の1以下ですね。温暖化の影響なのか、それとも漁師さんの高齢化なのか、ちょっとわからないところなんですけど、だんだん江戸前の魚はなくなってきてるんですよ。

renny:水産資源といえば養殖技術もすごく進化してますが、やっぱり全然違うものなんですかね。天然の東京湾の環境は人工的に再現することは不可能って感じなんすかね。

吉田:そうなんでしょうね。といっても東京湾も高度経済成長期は汚かったはずなんで、そうすると、ここ20年ぐらいいい魚が獲れていただけで、また消えていくっていうことなのかもしれないんですけどね。(あとキスやメゴチって天ぷらぐらいでしか使わないので、気合を入れて養殖に取り組む業者がいなさそう)

renny:実際に天ぷらを召し上がった時、キスはどこの産地のものが使われてたんですか?

吉田:淡路島の近海で取れたキスでしたが、やっぱり全然違いますね。東京湾の方が身がふっくらしていて、味もちょっと違うんですよね。

renny:東京湾の方は味が濃いってことですか?

吉田:そうです。そんな感じです。

renny:なるほど。江戸前の天ぷらでいくと、キスは重要なネタになるんですかね?

吉田:天ぷらはキスが最重要で。キスを食べればお店のレベルがわかるぐらいの位置づけですね。

renny:さっきおっしゃってた、門前仲町のお店のキスもやっぱり絶品なんですか。

吉田:美味しいですね。早乙女さんの天ぷらで私が一番好きなのはアナゴです。あの揚げ方は他の店では食べられない。

renny:アナゴも東京湾で獲れたものを使ってるんですよね。

吉田:たぶんそうなんじゃないかな。早乙女さんは全部江戸前を揃える!って公言しているので。

renny:そうですか。いや、なかなか天ぷらは奥が深そうですね。

吉田:でもハマるとやばいんですよ。油の値段も上がってるし、魚も獲れなくなって値段があがっているから。。。

renny:高級な天ぷらを食べる機会があったら、吉田さんのおっしゃってたことを思い出していただきたいなと思います。

吉田:キスだけ食べるなら良い店があります。上野の「ぽん多本家」。とんかつで有名なお店があるんですけれども、そこも東京湾のキスを使ったフライがあります。値上がりしちゃって今は4000円ぐらいしますが、天ぷら屋に行くより、同じキスが食べられて安い。

ぽん多本家のキスフライ

renny:東京湾のキスはこれからどんどん希少になっていく、っていうことなんでしょうね。

後編へ続く


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