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回り続けるオルゴール

オルゴールといえば開いた時に流れる郷愁漂う音色とともに懐かしい記憶と感情を呼び覚ましてくれるものだ。ある物語の中で小さなオルゴールが登場すれば、それは当然のごとくこれから素敵な思い出エピソードが語られるという前フリである。

そんな良エピソード量産アイテムであるオルゴールなのだから、自分にも何かしらオルゴールに関わる素敵な思い出があるだろう、よしそれを今回のネタにしようきっとほろりと泣ける話になるぞ、と記憶を探ってみたのだが。

まあお察しの通りそんなエピソードはひとつも見つからなかった。

オルゴールの思い出がないわけではない。
大学生時代にサークルの合宿で北海道に行き、その自由時間でサークル仲間と小樽のオルゴール専門店を訪れたことがある。

美しい装飾のオルゴールが並び、あちこちから様々なメロディが聞こえてくるとても雰囲気の良い空間だった…気がする。ちょっと昔の事過ぎて公式サイトのイメージに引っ張られているかもしれない。

そんな素敵な空間の効果でサークルの仲間と淡いエピソードでも作れていたら良かったのだけど、特にそういうこともなく「わーきれいだなー」「あ、この曲なつかしー」と見て回って終わった記憶しかない。そもそも一緒に行った仲間は全員男だった。男子大学生がガヤガヤするだけのむさくるしい思い出である。


思い出せたエピソードがこのひとつだけだったのでもう少し広げられないかとあれこれ検索してみたら、オルゴールにもいろいろな種類があることが分かった。

オルゴールと言えば宝石箱のような装飾付きの箱でフタを開けると曲が流れるものだと思い込んでいたのだけど、ゼンマイを回すと曲が流れ、それとともに踊り子がくるくる踊ったりメリーゴーランドがまわったりするようなものも「からくりオルゴール」と呼ばれるオルゴールの一種らしい。

からくりオルゴールならいくつか記憶に残っている。
というか今顔を上げたら目の前にあった。
リビングのテレビの隣に実家の母から贈られた観覧車がくるくる回る木製のオルゴールが飾ってあるのだ。ゼンマイを回すとトトロのテーマ曲「さんぽ」が流れて観覧車がまわる。
オルゴールの思い出がないどころか毎日オルゴールを見ていたとは。

もう1つ覚えているのが、小さい頃祖父母の家にあったオルゴールだ。金色に輝く馬が回るメリーゴーランドのオルゴールだった。あれが生まれて初めて見たオルゴールだったのではないだろうか。

そのオルゴールはリビングの割と目につくところに置いてあって、鳴らしてくださいとばかりに存在を主張していた。当然ながら子どもの私は興味を引かれてゼンマイを巻いて鳴らすのだけど、鳴らし始めるとすぐに「うるさいから止めろ」と止められる。しばらくしたらやっぱり気になって鳴らし、また止められる。それを何回か繰り返すと怒られる。

思い出してみると怒られるほどの事ではなかったのではないかと腹が立ってきた。かわいい孫が美しい音色を流してじいじとばあばを癒そうとしているというのに、それを怒るとは何事か。

ムシャクシャしてきたので腹いせに目の前にあるトトロのオルゴールを思う存分鳴らすことにした。ゼンマイを限界まで巻いて置く。
観覧車がまわり、オルゴールが「さんぽ」を奏でる。

うむ、良い音色だ。


鳴らし始めて少しすると「うん、もういいかな」という気持ちになった。
しかしゼンマイを限界まで巻いたので曲は続く。
観覧車もくるくる回り続ける。

その後何周かは耐えた。
しかしすぐに限界がきて気づけば「ええいうるさいな!」とゼンマイを回して早送りして止めるという暴挙に出ていた。
前言撤回。これは止めたくなる。あの時は私が悪かった。

オルゴールは基本的に1つの曲を繰り返し流すもの。
CDやSpotifyがなかった古の時代は音楽を聞く機会が少なく、同じ曲の繰り返しでも楽しんで聴き続けられたのかもしれない。しかし今は曲だろうが動画だろうがいつでもいくらでも視聴できる時代である。一度聴いて新鮮味のなくなった曲を何度も聴く必要はないのだ。

そんな甘やかされた音楽環境に生きる私は、オルゴールの短い曲の繰り返しにはもう耐えられなくなってしまっていた。次に「さんぽ」を聴くのは数年後でいい、というくらいダメージを受けている。


いかん、このままではオルゴールをディスった感じで終わってしまう。

1つの曲を1回聴くだけなら楽しめるのだ。2024年にもなれば何曲も楽しめるようなオルゴールが生み出されているのではないかと調べてみたら、なんと100万曲再生可能な進化系IoTオルゴールが生みだされていた。
想像よりもだいぶ進化している。

IoTオルゴール…オルゴールの定義がちょっとよく分からなくなってきたが、これなら1日中流していても誰も怒らないだろうし楽しめそうである。



「小さなオルゴール」というテーマで書きました。


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