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サンタさんへ、懺悔します

こちらは、「稀人ハンタースクール Advent Calendar 2023」に参加するために書いたエッセイです。カレンダーをクリックすると、「クリスマス」をテーマにした書き手のnoteを見ることができます。


拝啓、サンタクロースさま。
ご無沙汰しています。元気にしてらっしゃいますか?

あなたにこうして手紙を書くのは、小学校5年生ぶりです。時の流れは早いもので、私はもうアンチエイジングが欠かせない30代になりました。精神年齢はまだ23歳くらいなんですが。

「死ぬまで地元岡山で暮らす」と信じて疑わなかったのに、社会人3年目のときに千葉出身の男性と出会い、結婚し、なんと今は南国タイに住んでいます。人生ってわからないものですね。

20年以上もの月日が経った今、あなたに謝りたいことがあります。それは子どもの頃、あなたに無理難題を押し付けてしまったことです。


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覚えてらっしゃるでしょうか。たしかあれは、小学1年生の12月。私はあなたにこんな手紙を書きました。

わたしは、まじょになりたいです。すこしまえからなりたかったです。まじょになるちからをください。たとえばけんだまがほしかったら、けんだまをだすとか。

当時の手紙

「魔女になる力をください」と言われ、さぞかし困ったことでしょう。ごめんなさいね。

でも、当時の私は本気だったんです。5歳の少女が超能力に目覚める『マチルダ』という映画に心を打ち抜かれ、超能力者か魔法使いになるために、日々鍛錬を重ねていました。

愛読書は、地元の図書館で借りた『魔女図鑑』。夢中でページをめくってまじないを唱えては、台所でレシピ片手に毒キノコのお菓子をせっせと作っていました。

「空飛ぶホウキさえ手に入れば……」という歯痒さを抱えつつ、実家の前の原っぱに鬱蒼と茂っていたススキの茎をぽきんと折り、それにまたがってよく空飛ぶ練習をしたものです。

しかし努力の甲斐なく、魔法の力は一向に手に入りませんでした。最後の頼みの綱があなただったというわけです。

クリスマスの朝、ドキドキしながらツリーの下を見ると、手紙と小包が置いてありました。手紙にはこう記してありました。

ごめんなさい。わたしはまほう使いではないので、みくちゃんをまじょにしてあげることはできません。だから虫めがねをおくります。何かふしぎなものを見つけられるといいですね。

サンタさんの力に期待しつつ、無理難題を押し付けている自覚はあったのでしょう。私は代替え案を用意していました。

もしだめだったら、むしめがねにしてください。


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小学3年生になっても、私はまだ飛ぶことを諦めていませんでした。

ある台風の日、暴風波浪警報が発令し、学校が臨時休校になりました。

「台風の風に逆らって走れば、メリーポピンズのように空を飛べるのでは?」

そう企んで、黄色い傘をさして暴風のなか爆走した結果、傘をバキバキにぶっ壊したのをよく覚えています。

この年のクリスマス、私はあなたにこんな手紙を送りました。

当時の手紙

私のほしいものは、とくにないけれど、できれば「空をとぶ "コツ"」をおしえてもらいたいと思います。妹の○○にもおしえてやって下さい。

しつこいですね。しかし、飛ぶことに対する執念は我ながらたいしたもんです。

あの頃の私は、「人間の限界」を痛感していました。鳥のように空を飛ぶのは難しいかもしれないと。

そこで新しく目標に据えた人物が、ジブリ映画『もののけ姫』に登場するアシタカでした。ほら、彼は桁外れな身体能力を備え、まるで空を飛ぶかのように岩から岩へと飛び移っていたでしょう。

「コツさえ掴めば、自分もアシタカのようになれるかもしれない」

そう思い、実家の裏山でぴょんぴょんとジャンプしては、跳躍力を鍛える練習をしていました。けれど、長くて1秒ほどしか宙に浮くことができず……。それでまた、あなたを頼ったのです。

でも、この時も困らせてしまったようです。手紙にはこう書いてありました。

友人の神さまにも聞いてみたんだけど、難しいようです。力不足でごめんね。そのかわり、手袋をおくります。

手紙を読んで残念でしたが、ベビーピンク色のふかふかした手袋は暖かくて、とても気に入った記憶があります。


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いまだに私自身も不可解なのが、小学5年生のときにあなたに送った手紙です。

サンタクロースさま。虹色の綿棒がほしいです。

綿棒の長さやデザインなど、色鉛筆でイメージ図まで描いていましたよね。たしか、軸の部分がレインボーカラーだったと思います。

なぜ当時、虹色の綿棒にこだわっていたんだろう。自分でも思い出せないのです。耳掃除がしたかったのか、はたまた魔法の訓練に使いたかったのか……

覚えているのは、夢に見るくらい、喉から手が出るほど欲しかったことだけ。

とにもかくにも、またあなたを困らせてしまいましたね。その年も、「力不足でごめんね」という手紙を添えて、たしか犬のお人形をプレゼントしてくれたと思います。

大人になった今、クリスマスシーズンを迎えるたびに、あなたの困り顔が思い浮かびます。あの時は本当にごめんなさいね。人形とか雑貨とか、人間界で調達がしやすいものにすればよかったと反省しています。

でもあなたとのやりとりは、子どもの頃の私にとって胸がときめく宝物のような時間でした。今でも、1年で一番好きな行事はクリスマスなんですよ。


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でね。いま私のお腹には、新しい命が宿っています。信じられないでしょう。かつてススキで空飛ぶ練習をした少女が母になるなんて。

この子が無事に誕生した暁には、数年経ってから、今度はきっと彼があなたに手紙を書くと思うんです。

私の子どもですから、もしかしたら「空を飛ぶ力が欲しい」とか言い出すかもしれません。その時は懲りずに相手をしてやってくださいね。

ちなみに、私はまだ空を飛ぶことを諦めていません。


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明日はクリスマスイブですね。超繁忙期でお忙しいと思いますが、くれぐれも体調にはお気をつけください。

バンコク上空を飛行する際は、私を見つけたら手を振ってほしいです。目立ちやすいように、部屋の窓から黄色い傘をさしておくので。

それじゃあ、すてきなクリスマスを!

敬具


明日はついにクリスマスイブ。イタリア在住・日伊フュージョンライターのロマーノ尚美さんにバトンタッチ!どんなクリスマスエピソードが読めるのか楽しみ…!🇮🇹✨

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