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心をこめて作ったものには、神様が入っている。

朝から冷たい雨。街が沈んで見える。夫が長年通う京料理のお店も、ついにテイクアウト営業に切り替えたとのことで、早速、お昼を買いに出かける。値段違いの4種類のお弁当はどれも完売だった。料理ごとに小分けにパック詰めされたものを、お惣菜のように選んで買うことにした。

筍ごはん、ホタルイカ、鰯の梅煮、筍煮、鯛の子と山菜、ふろふき大根と味噌のパックを一つずつ選ぶ。「こんなときだけど、今年は筍が豊作で、市場で勧められてしまってね」と、困った顔で板前さんが言う。たしかに、筍が付け合わせになった料理が目につく。丹精込めて育てられた筍が、少しでも多くの人の食卓に上るといい。筍ごはんの“もと”もあるというので、それも合わせて買う。

仲居さんがお休みなのだろう。板前さん自ら袋詰めをしてくれる。たどたどしい手つきで、きんぴらのパックをおまけに入れてくれた。「本当なら、きちんと器に盛りつけて、もっともっとおいしい京料理をふるまいたいんだけど、今はこれしかないから」という心の声が聞こえてくるようだった。

家で夫と二人、京料理の昼食。筍ごはんのおいしさはいうまでもなく、迷わず“もと”を買って帰ってきた自分を褒めたい。筍煮ももちろん、きしきしする感じは皆無で、ほんのり甘くおいしい。花山椒がたっぷり添えられた鯛の子は、出汁がやわらかくしみて、春を感じさせる。春だねえとつぶやくと、「お店で桜を見ながら味わいたかったね」と、夫が言った。そんな日が早く来てほしい。

なじみの飲食店からのテイクアウト活動を、先週からぼちぼち続けている。テイクアウトで買うことによって、わずかながらでも、店内で飲食できない分の足しになればと思うからだ。ただ、そんななかで気づいたこともある。それは、テイクアウトには包装資材がつきものだということだ。頻繁に利用すればなおさら、どうしても大量の包装資材がごみとして出てしまう。この緊急事態措置の期間が明けても、ウイルスの特効薬やワクチンが開発されないかぎり、飲食業界のテイクアウト化の流れはおそらく止まらないだろう。長い目で見て、今から、テイクアウト時の容器の問題を考え始めなければならないのかもしれない。やはり、“タッパー持参”が最強か。

夜、はっと思い出して、「イイダ傘店」のオンライン受注会のページを開く。イイダ傘店は、店舗を持たない傘屋さんだ。毎年、春と秋に、全国を回る受注会とオンライン受注会で注文を受け、一つ一つ、手作りで傘を仕上げてくれる。手持ちの雨傘が壊れたまま、昨年の受注会をうっかり過ぎてしまって以来、ずっとこのときを待っていたのだった。

「使う人の身になって、心をこめて作ったものには、神様が入っているのと同じ」。昔、国語の教科書の「わらぐつの中の神様」という作品の中で出会ってからというもの、手作りのものを目にすると、いつも必ず脳裏に浮かぶ言葉だ。イイダ傘店の傘の中にはなんだか神様がいそうで、だから、これから長く使うつもりの傘を買うならここがよかった。結局、柄を選ぶのに思いの外時間がかかりそうだったため、注文は明日に持ち越すことにしたのだけれど。

(2020年4月13日)

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