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39. ママのお人形遊び

俊平くんは、再会してからいつも、毎週のように電話をくれた。放っておくと私が自殺してしまいそうで心配だったのかもしれない。

当時、私の頭の中には「裁判に負けたら死のう。」という言葉が浮かんでは消えていた。

そうする事でしかこの苦しい現実から逃れられる方法はないと思っていたし、魂になったら可奈に会いに行ける、可奈はまだ子どもだから気付いてくれるかもしれない、と考えていた。

真実はいつか、夏生に伝えてもらおう、と。ママは可奈を捨ててなんていないんだよ、って。
でも、私が死んだら大きくなってそれを知った可奈や、お母さんが悲しむだろうな…ダメだ、出来ない。
そんなことを幾度となくぐるぐると考えた。


「今度東京に行くんだけど、裕太と飯を食う事になったよ。紗英ちゃん、何か聞いて欲しいことはある?」

俊平くんは言った。私は突然の申し出に驚いたけど、少し考えてこう答えた。

「可奈が心配だからどんな様子なのか聞いて欲しい。あと、私のことを覚えているかも…。」

そう言うと俊平くんは

「紗英ちゃんはお母さんなんだから、忘れるわけがないでしょ!も〜。」

と笑って励まし、可奈の様子をさりげなく聞く事を約束してくれた。

後日、俊平くんから連絡が来た。

「裕太だけど、そろそろ会わせるって言ってたよ。あと、可奈ちゃんが人形をママに見立ててて遊んでるって。」

ちょうど私は数日前に、『離婚で壊れる子供たち』という、臨床心理士の棚瀬一代先生の本を読んでいた。

そこには、「親と引き離された子どもが離れて暮らす親を人形に投影して遊ぶことがある。」という例が書いてあった事は記憶に新しい。

なんていうことだ。

可奈が私を忘れていないことに安堵すると共に、その姿を想像して涙が出てきた。寂しいんだ、可奈は。やっぱりそうなんだ。

一日も早く可奈をこの状況から救い出さないと。可奈の心が壊れてしまう前に。


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