千のトイレプロジェクト
前職で、トイレットペーパーやティシュの
マーケティングに携わっていた。
当然ながら、競合他社が何をやっているか
常にウォッチすることになる。
新商品はどんなものが出て来るのか?
キャンペーンの類は何をやっているか?
ウェブサイトでは何をうたっているか?
店頭ではどれが売れ筋になっているか?
などなど、定点観測を行うのである。
私がいたのは外資で、市場シェアは5番目
前後をウロウロ。
トップ3はほぼ固定されており、
エリエールの大王製紙、
クリネックスやスコッティの日本製紙クレシア、
ネピアの王子ネピア、
これらの企業/ブランドで7割位のシェアを
占める寡占市場だった。
製紙業全体という大きな括りでは、
王子製紙が国内No.1の地位にあるはずだが、
トイレットペーパーやティシュなどの
家庭紙と呼ばれる市場になると、
王子ネピアは大王やクレシアの後塵を拝している。
ではあるが、割とユニークな商品作りや
施策に取り組んでおり、マーケティングに
携わる者としては興味深い観察対象であった。
商品面では、「鼻セレブ」「おしりセレブ」が
あまりにも有名ではなかろうか。
愛らしい動物の鼻のどアップを、
デザインの中心に据えた箱。
そして、卓越したネーミングのセンス。
発売されて15年以上経っていたにもかかわらず、
2020年に始まった「日本ネーミング大賞」を
受賞しており、日本を代表する優れた
ネーミングであったことが認められている。
キャンペーンとして注目していたのが、
「nepia 千のトイレプロジェクト」である。
いわゆるSDG'sである。
不衛生な環境のせいで命が奪われる現状が
あることを憂い、商品代金の一部を寄付に
回して衛生的なトイレを作っていくという
社会貢献活動として、2008年から取り組み
始めたようだ。
最近、偶然そのページを覗く機会があり、
今も続いているのかな?と思いきや、
昨年で終了した様子。
「13年間の応援(2008~2021)ありがとう」の
メッセージが、上記ページに掲載されている。
このプロジェクトの支援対象国である
東ティモール全土で、トイレ普及の目途が
立ったということで、プロジェクトの目的
達成と判断したようだ。
これはなかなか喜ばしい。
お金が無くなったから、
景気が悪くなったから、
アピールが弱くなったから、
そんな他愛のない理由で簡単にギブアップ
となるプロジェクトも無数にある。
ゆえに、目的を達したので終了する、
という終わり方は理想的。
そして、プロジェクト自体の軌跡を
きっちりとサイトに残して、
その内容、目的や意義から、具体的な
成果まで、いつでも参照できるように
アーカイブしている点で、なかなかに
好感を持てる。
こういったSDG's絡みのプロジェクトは、
直接売上に影響を与えることは少ない。
少なくとも、影響を目に見える形で示す
ことは極めて難しい。
それゆえ、ついつい後回しにされがちで
あることは否めない。
しかし、最近何かと取り沙汰される
「Z世代」には、SDG'sのような考え方が
ごく自然に価値観として染み付いている。
こうしたプロジェクトを通して、
地道に社会貢献を続ける企業やブランドが、
今後長く愛されていくだろう。
それがやがては売上にも還元されるのだ。
「千のトイレ」の次にどんなプロジェクトが
検討されているのか、あるいはいないのか、
興味深いところだ。
己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。