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ナラティブとストーリーの違い

2020年10月31日(つまり昨日)、
日本説得交渉学会主催による、
マーシャル・ガンツ氏の講演会が
オンライン開催された。
ガンツ氏は、ハーバード大学の
ケネディスクール(公共政策大学院)
上級講師で、バラク・オバマ前大統領
の選挙参謀を務めたことでも有名。
そんなすごい方のナマ講演が、
オンラインで気軽に視聴できるのが
とてもありがたい。

氏は当時、オバマさんの参謀として、
「パブリック・ナラティブ」という
手法を用いて、いかに人々に影響力を
行使できるかをアドバイスしていた
という。
この「パブリック・ナラティブ」、
実はほぼ1年前に行われた、同じく
日本説得交渉学会の昨年度の大会でも
トピックとして取り上げられていた。
私自身、そこで初めてまとまった形で
概要を伺い、遅れること半年ほど
経った際に、思い立ってこちらの note
でその内容をまとめたことがある

「ナラティブ」という言葉が、日本人に
馴染みがない上、「物語」という訳
だと「ストーリー」という単語とかぶる
ため、少々話がややこしい。
上記記事の中では、その辺の違いなども
まとめているが、改めてもう少し簡潔に
表してみよう。

「ストーリー」というのは、既に完結
している物語。
基本的には、今から内容を変えること
はできない。
これに対して、「ナラティブ」という
のは、これから紡いでいく物語。
だから、リーダーシップの取りようで
いかなる方向へも進みうる、現在進行
形の物語である。

ガンツ氏の昨日の話を自分なりに
咀嚼してまとめると、平時ではない、
正に今のような不確実な時代において、
このナラティブをうまく活用すべきだ
ということ。
そして、そのナラティブを、公共性を
持たせた=パブリックなものへと
紡いでいくこと。
そうするには、
①自分自身の過去のストーリーと、
②所属するコミュニティが持つ過去の
ストーリーとを重ね合わせ、そこに
③「今」という時代が求めているものが
何なのか?という視点で高次の目的を
見い出し、どうギャップを埋めるか、
戦略とアクションを導いていく必要が
ある。

と、言葉だけで説明すると、抽象的に
過ぎてなかなか理解が難しい。
昨日の講演で有り難かったのは、具体
例として5分ほどのビデオを上映し、
理解の助けにしてくれたこと。

講演では日本語のキャプションを付けて
くれていたが、YouTubeでキャプション
付きが見つからず、英語のままである点
ご容赦いただきたい。
彼は James Croft さんといい、教師をして
いたが一念発起して自分がゲイであること
を公にし、LGBTの社会的な居場所を確保
しようと頑張っていらっしゃる方。
ハーバード大学のキャンパスで、わずか
5分強のスピーチを行っているビデオで
ある。

このスピーチが、非常に共感力が高い。
なぜならば、ガンツ氏が説くパブリック
ナラティブの手法がそのまま再現されて
いるからだ、ということなのだ。

まず、社会課題として、多くのLGBTの
人たちが自死を選んでいるという、
痛ましくハッとさせられる現実を提示
する。・・・③

印象的な現実提示で聴衆の興味を喚起
した後に、彼の生い立ちや成長の過程、
少年期にバレエをやっていたことや、
高校の時にホモの自覚が芽生えて孤独
感を抱えていたことなど、これまた
印象的なエピソードを提示することで、
自身のストーリー=自分がLGBTとして
生きてきたことを説明する。・・・①

そして、こうした問題は何もLGBTに
限ったことではない、誰しもが孤独
に陥る、孤独感にさいなまされること
はあり得るのだという例を挙げて、
この問題は「私」「個」の問題では
なく、「私たち」「コミュニティ」の
問題であることを訴える。・・・②

これら①、②、③の視点を巧みに織り
混ぜながら、是非何でもいい、力を
貸して欲しいと力強く訴えている。

人に何らか動いてもらうために、
James氏のように短いながらも全ての
要素をしっかり踏まえながら議論を
展開することが、人を巻き込む上で
非常に効果的であることを、改めて
実感させられる。

日本では、「ナラティブ」に相当する
意味合いも「ストーリー」という言葉
でカバーされてきたように思うが、
意識的に使い分けすることで、議論を
する際の自身の説得力を増すことが
できればと期待するところだ。

なお、本講演会で通訳をしてくださった
NPOの代表である方が、こちらの書籍を
11月12日に上梓される。
是非、一読をお勧めしたい。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。