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詩「回帰」

それが自己身体に舞い戻るたび
少女はまたひとりになる

頼りなくも移行していたはずの対象愛は
わずかな掛け違いから色を
やがて輪郭すら失って

対象ではなく
ふたたび自己に向かうリビドー

境界線を溶かさずに
ひとつの個としてともに在る難しさよ

関係という見えざる薄い板を
ともに運び続ける難しさよ

数多の不可能性にたぶらかされ
折れそうになる直前に
眼前に広がる優しい記憶の手触り

自己と対象の間を揺れ動くリビドー

あなたを、わたしを
優劣をつけずに大切にする方法を
探している

本当はただそれだけなのに
自分の選択に自信が持てず
後ろ盾を求める悪癖よ

同じ空間で同じ時間ときを刻んでも
背を向けたままでは果てしなく遠く

偽りの孤独に支配されるが
何もかもが冷えてゆくあの感覚は
決して錯覚ではなくて

ことばを、温度を
交わせるよろこびを
忘れずにいられるよう

震えながら
少女は手を伸ばすことを選ぶ

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