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詩「遡及」

記憶の最果てにある不器用な微笑みと
どこか子供じみた声が
言いようのない切なさを突然掻き立てたとしても
いまではもうノイズが混じりすぎて
正しく再現できている保証はどこにもなくて
不自然に切断された情報が点在するだけで
かたちづくられる面影もおそらく歪んで
それならば耳にした幾つかの哀しい台詞も
致命的な機能の不具合の果てに
都合よく歪められたものなのかといえば
そんなことはなくて
それだけはたしかだと無名の感情が証言すると
記憶の輪郭は急激に濃くなって
台詞に付随する態度までもが存在感を増して
望んでもいない現実味を帯びて
満を持して真実との答え合わせが可能になる頃
ずっと隠していた写真を探し出したら
不器用な微笑みが2つ並んでいたから
飽くなき追求を一時停止した

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