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優先座席

まだまだ元気な初老の夫婦が、リュックサックに水筒を指して電車に乗ってきた。どこか、山登りにでも行くのだろうか。

優先座席には、くたびれたスーツを着た若いサラリーマンが座っている。スマートフォンを見続けて、顔を上げる様子はない。隣にはフリーターらしき雰囲気の男性が手すりに肘をついて、憂鬱そうな顔で声の大きな中国人観光客に苛々としている。

2人とも疲れ果てているようで、初老の夫婦に席を譲る様子はない。

20年前なら、「席を譲ってあげたらいいのに」と僕は思った気がする。今は、もうわからない。答えがない。

右肩上がりの日本の黄金期を生きて、貯金なり年金なりで、充実した老後を過ごせる(であろう)笑顔の初老夫婦。それに対して、目の前の老人も目に映らない。それどころか、自分自身の老後のことを考える余裕もないかもしれない、疲れ果てた男性。結婚しても、経済的な理由から、子供を産むことも躊躇う人もいる。結婚すらも諦める人もいたり、恋人を見つける余裕がない人もいる。僕と同世代、僕よりも若い世代は実家が裕福でなければ、人並み以上に頑張って、ようやく人並みの暮らしができるのだ。

日本の世代間格差の問題は、知的水準の高い人たちから話を聞くと、危機的な状況らしい。経済誌を読むなら、専門分野の論文でも読みたいなどと考えてしまう僕は、ただただ身近な人たちの笑顔を願うぐらいしかない。

この目の前の風景。
元気に笑顔で、山登りに行く初老夫婦。
冴えない表情の疲れ果てた20,30代男性。

優先されるべきは、どちらなのだろう。単純な正義は、何処か遠くに行ってしまった。

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