魂のはなしをしましょう

自分の身体を物質的な身体と捉えて、「柔軟性があるだとかない」だとか、「太いだとか細い」だとか、なんだかまるで家に置く家具を選ぶような目線であれこれ考えてしまう。

本来もっと大切なものがあったはずなのに、いつの間にか日々の中で抜け落ちてしまう。それはとても恐ろしいことだな、なんて考えていたら、吉野弘の詩を思い出しました。

「burst - 花ひらく」
事務は 少しの誤りも停滞もなく 塵もたまらず ひそやかに 進行しつづけた。

三十年。
永年勤続表彰式の席上。
雇主の長々しい讃辞を受けていた 従業員の中の一人が 蒼白な顔で 突然 叫んだ。

――諸君
魂のはなしをしましょう
魂のはなしを!
なんという長い間
ぼくらは 魂のはなしをしなかったんだろう――

同輩たちの困惑の足元に どっとばかり彼は倒れた。つめたい汗をふいて。
発狂
花ひらく。

――又しても 同じ夢。

なんという長い間、ぼくらは魂のはなしをしなかったんだろう。


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