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「思い出の味 ボウゼの姿ずし」

 私の拙文が徳島新聞「読者の手紙」というコラムに掲載されました。読んでいただければ幸いです。「ボウゼ」は、祭りの魚として徳島県民に親しまれています。標準和名・学名はともに「イボダイ」です。シズと呼ぶ地域も多いです。

 旧友が定年退職後、2年間の調理師専門学校を修了し、テークアウトの惣菜店を開きました。今までの仕事とは全く異なった業種へ挑戦するエネルギーに驚き、感銘を受けました。
 そんなこともあって、仕事帰りに時々惣菜を買うようになりました。ある日のメニューは、ボウゼの姿ずしでした。早速、自宅でおすしの入ったパックを開けると、銀色に美しく輝く楕円(だえん)形が現れ、柚香(ゆこう)のさわやかな香りが優しく鼻を抜けました。背開きにし、エラや内臓、骨などが丁寧に取り除かれているので、頭からがぶりと食べました。かむほどに、肉厚で適度に引き締まった身からうまみが口の中にあふれ出ました。仕事の疲れが一気に吹き飛ぶようでした。
 ボウゼの姿ずしといえば、秋祭りを思い出し、わくわくします。新米やスダチ、ユズなど秋に収穫された農作物と旬のボウゼとの組み合わせは、徳島県民にとっては子どもの頃からの思い出の味ではないでしょうか。徳島の秋の風物詩ともいえ、そば米雑炊とともに農林水産省による郷土料理百選に選ばれています。
 しかし、最近ではほとんどの家庭で作られなくなっており、寂しい限りです。おいしい食文化を伝承することは、私たちの大切な務めなのかもれません。
 2021年9月27日 徳島新聞「読者の手紙」掲載

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