記憶よみがえる懐かしい味

 いとこから過日、アメゴの塩焼きをもらいました。小松島市にある自宅を朝4時に出発し、那賀町木頭まで出かけて釣ったものだそうです。
 オーブンで温めると、川魚特有の上品な香りが部屋いっぱいに広がり食欲をそそられました。頭からガブリと頬張ると、濃厚なうま味と絶妙な塩味に、自然と笑みがこぼれました。この味をかみしめると、50年ほど前の記憶が鮮明によみがえりました。
 当時、私が通っていた徳島中学校は、木頭中学校と友好校の関係にありました。そのため、所属していた剣道部は夏休みに木頭で開催される大会に招待されたのです。
 宿泊は木頭中学の剣道部の部員宅でした。そこで夕食にいただいたのが、アメゴのみそ焼です。熱した大きな岩の上に、近所の川で釣ったというアメゴとみそをのせて焼いてくれました。
 ほぐしたアメゴの身と焼きみそを絡めて食べると、あまりのおいしさにご飯を何杯もお代わりし、おひつを空にしてしまったほどです。木頭までの山道を走るバスでの長旅による疲れが、一気に吹き飛んだようでした。
 その後、自宅でアメゴを何度か食べましたが、二度と同じ味に出会うことはなかったのです。今回のアメゴの味は、旧友との再会のような懐かしさがありました。心の中で乾杯とつぶやきました。
2022年6月28日徳島新聞「読者の手紙」掲載

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