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短編小説 | 獅子女

(1)噂の女

「ねぇ見た?昨日の夜?」

みな、知人に会うたびに獅子女のことを語りあった。毎年この時期になると現れるライオンのような髪をもつ女である。

「見た、見た。本当にライオンみたいだった。暗い道を歩いていたら、ひとりでしゃがんでた。私を見て、薄ら笑いを浮かべた。こわかったよ」

「私も見たことがある。去年、彼と公園を散歩してたら、ベンチに座ってた。やっぱり薄ら笑いをしながら、ジロッとこっちを見た」

「ライオンみたいっていっても、意外とかわいい顔をしてるんだよね」

「そうそう。しかも、細身だし、おっぱいも大きそうだよね」

「間違いなくFカップ以上あるよね」

「だね。間違いない」

(2) 獅子女

 通称「獅子女」が目撃されたのは、五年前だった。

「あの子、すごいね、髪の色」

「ほんとだ。まるでライオンみたい。あの獅子女」

小さな声で話したつもりだったが、どうやらこちらの会話が聞こえてしまったらしい。

「ガァォ~」
獅子女がこちらを向いて吠えた。そのあと、猛ダッシュで私たちのもとへ駆け寄ってきた。

「ガァオ~」
私たちは一瞬怯んだが、獅子女はかわいらしい顔立ちをしていた。思わず近づいて、頭をナデナデしたら、獅子女はニッコリと微笑んだ。

「そのほうがいい。外見はライオンでも、優しさは失っていないのね」

そう言うと、獅子女は再びニッコリと笑って、私たちのもとから立ち去っていった。

(3) 微笑みライオン

 私たちがはじめて獅子女に出会ってから、7年が経った。神出鬼没の獅子女に出会い、その微笑みを見た人々は、例外なく幸福になったと言われている。
 獅子女が昼間どこで何をしているのかは大きな謎だが、詮索するものはいないという。獅子女の微笑みが失われては、一大事だから。

おしまい


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